エリア会話初期実装分まとめ
※v3.0.0アップデートにより、ゲーム内ではマップ選択画面の記憶のカケラから、もしくはキャラクターアーカイブのエリア会話ページから閲覧可能となっている。
ミク | Em7からB7……C…… |
ミク | ――――――――♪ |
ミク | ふう、出来た。 ギター弾いてると、あっという間に時間がたっちゃうな |
ミク | ここなんか違うな……コードはあってるのに…… |
ルカ | そういう時は、正しく弾こうとするより、 感じたまま弾くほうがしっくりくるわよ。こんなふうに…… |
ミク | ……! 相変わらず、ルカのベースはカッコイイ……! よし、感じたまま……感じたまま…… |
ルカ | ふふ。どんなアレンジになるか楽しみね |
ミク | このフェニーくんっていうぬいぐるみ、可愛いよね。 でも、なんでみんな色が違うの? |
ルカ | そうね……誰でも好きな色のフェニーくんと 出会えるようにっていうことなんじゃないかしら |
ミク | へぇ、じゃあもっともっと違う色の フェニーくんがいたりするのかな |
ルカ | 気になるなら、今度志歩に聞いてみるといいわ |
ミク | え? 咲希や穂波じゃなくて……志歩? |
ルカ | ええ、志歩が適任のはずよ。ふふ |
ミク | ねえ、ルカ。一歌達とセカイ探検をしようと 思うんだけど、一緒に来る? |
ルカ | セカイ探検? |
ミク | 前に学校を探検するっていう話してたでしょ? あれだよ |
ルカ | ああ、音楽室の話をした時の……。 ふふ、そうね。せっかくだし私も行こうかしら |
ミク | ホント!? じゃあ今度の練習の後、決行ね! |
ミク | 一歌達にも伝えておかなくちゃ! |
ミク | ねぇ、ルカ。演奏の時、たまに使ってるトライアングルとか、 ときどき吹いてるフルートとか、どこから持って来るの? |
ルカ | 音楽室からよ。探検してる途中で見つけたの。 でもあっても不思議じゃないわよね、ここは学校だもの |
ミク | そうなんだ。……探検、いいなぁ。 誘ってくれればよかったのに…… |
ルカ | ふふ。そう言うと思って、他のところはまだ見てないわ。 良かったら、一緒に探検する? いじけんぼさん? |
ミク | い、いじけてないよ! もう……! |
ミク | へぇ、咲希のお母さんは ピアノの講師をやってるんだ? |
咲希 | うん!それで小さい頃、 身体が弱くて外に遊びに行けないアタシに ピアノを教えてくれたの! |
ルカ | そう……じゃあその丁寧で綺麗な弾き方は きっとお母さんのおかげね |
咲希 | 丁寧で、綺麗な弾き方? |
ルカ | ええ。手の置き方とか姿勢とか、 咲希は基本がしっかりできてるわ |
咲希 | そういえばお母さん、楽しく弾けばいいって 口では言ってたけど、手の置き方とか 姿勢にはすごくうるさかったかも |
ミク | いい音を出すためにも必要だからね。 せっかく弾くなら、いい音で楽しんでほしかったんだよ |
咲希 | そっか……!よし、これからも お母さんに教わったこと大事にしていこうっと |
ミク | 一歌、いい歌詞は出来た? |
一歌 | えっ、急にどうしたの? というか、なんで私が歌詞を書いてること…… |
ミク | そんなの、咲希から聞いたに決まってるでしょ。 それで、どんな感じ? |
一歌 | えっと、いいフレーズは集まってきてるけど、 歌詞にするにはまだまだ、かな |
一歌 | もう少し形になったらちゃんと見せる、かも…… |
ミク | 今はいいよ、それで。楽しみにしてる |
ミク | バンドはどう?楽しい? |
一歌 | うん。バンドを始めるまでは、 なんとなくただ毎日が過ぎていくだけだったけど…… |
一歌 | でも今は、毎日がちゃんと 意味がある一日になってる気がする |
一歌 | バンドと……ミクやルカ達のおかげだね |
ミク | ふふ。持ち上げても、練習を甘くしたりしないよ? |
一歌 | うん。もちろん |
ミク | 穂波、そのスティック、前使ってたのと違うね |
穂波 | あ、うん。吹奏楽部時代に使ってたものがまだあって、 こっちのほうが手になじむかなって |
穂波 | でも……今のわたしにはちょっとだけ短いみたい |
ミク | 成長してるってことだね。 やりにくかったら、予備のスティック貸すから言ってね |
ミク | 穂波、ここに来るといつも星を見てるね |
穂波 | うん、星を見るのがすきだから |
ミク | じゃあ、星座とかにも詳しい? |
ミク | この教室にあった星図でいろいろ見てるんだけど、 どれがどの星なのかわからなくて |
ミク | よかったら、教えてほしいな! |
穂波 | ふふ、いいよ。 じゃあ、まず見つけやすい星座から教えるね |
ミク | 志歩って、音楽以外に何か好きなことある? |
志歩 | 好きなこと? まあ、ペットを育てるゲームとかは 毎日ちょっとずつやってるけど |
ミク | もしかして、動物が好きなの? |
志歩 | ウサギやネコとか、小さくて可愛い動物はわりと。 毎日、ちょっとした時間でお世話できるし、面白いよ |
ミク | そうなんだ |
ミク | (ふふ、毎日お世話か。 なんだかんだ、志歩も面倒見いいんだね) |
ルカ | あの子達がいつ来てもいいように、 楽器のお手入れをしておこうかしら |
ルカ | ふふ、みんな大切に使ってくれているから、 余計な気遣いかもしれないけれど…… |
ルカ | 最高の音でミクにもみんなにもひいてほしいものね |
ルカ | 一歌の演奏、見るたびに良くなってるわ |
一歌 | ミクやルカがいろいろ教えてくれるし、 毎日、なるべくギターに触るようにしてるから、かな |
ミク | 毎日触るのは大事だよね。 私も、なるべく肌身離さず持ってるし |
ルカ | ふふ、これからのふたりの上達ぶりが、 ますます楽しみね |
一歌 | うん。私もミクに負けないくらい もっと上達するように頑張るよ |
ルカ | 穂波のドラム、リズムキープがすごく上手で、 演奏がとてもやりやすいわ |
ミク | 私もそう思う。ねえ、何か特訓みたいなことしてるの? |
穂波 | えっと、特訓というか……心がけてることはあります |
穂波 | わたし、学校とか友達のこととか、 ちょっとしたことですごく揺れちゃうので、 演奏だけはブレないようにって…… |
ミク | そっか。穂波の決意が、あの音になっているんだ。 いいね。かっこいいよ、穂波 |
穂波 | えっ!……うん。ありがとう、ミクちゃん |
ルカ | ドラムって家で練習するの大変そうだけど、 穂波はどうしてるの? |
穂波 | 電子ドラムで練習してます。 初心者用のですけど、イヤホンが使えるので 夜練習しても迷惑にならないですし |
穂波 | それに、柔らかい素材でできてるので、 くるくるっと丸めて持ち運びもできるんです |
ミク | えっ? ドラムが、柔らかい? くるくるっと丸める……? |
ルカ | あら。ミクはそういうドラムパッド 見たことなかったかしら? |
穂波 | ふふ。じゃあ今度、 実際に使ってるのを持ってきますね |
ルカ | 志歩はいつも誰よりも練習に真剣に打ち込んでるわね |
ミク | うん、何が原動力になってるの? |
志歩 | ……『ベースは場の空気を支配できるほどの力を持つ』 っていう、私が尊敬するベーシストの言葉があって…… |
志歩 | 私もそうなりたい、なって見せるって、 思ってること、かな |
ミク | わ、いいねそれ! かっこいい! |
ルカ | ええ。背中を追う相手がいると、 なりたい自分もみつけやすいものね |
ルカ | 志歩はよくガールズバンドのライブを見に行くのよね。 普段聴く音楽もバンドの楽曲が多いの? |
志歩 | まあね。最近は、私達と楽器編成が同じバンドの曲を いろいろ聴くようにしてる |
ミク | へぇ……。あ、そっか。 一歌達にアドバイスしてあげられるように、だね |
志歩 | 別に、そんなつもりじゃ…… |
ミク | 照れなくてもいいのに |
ルカ | ふふ。そこがまた、志歩らしいわよね |
ルカ | ねえ、一歌。たしか、お花に詳しいのよね |
ルカ | ピンクと緑のお花を教室に飾りたいのだけれど、 緑のお花ってあるのかしら |
一歌 | うん。ラナンキュラスやデイジー、 あとカーネーションにもあるよ |
一歌 | あ、ピンクがルカで、緑がミクなら、 ラナンキュラスの緑が一番近いかも |
ルカ | あら、気づいてたのね。さすがだわ |
ルカ | ふふ、じゃあ今教えてもらったお花 参考にさせてもらうわね |
ルカ | いい調子ね、一歌。 リズムに乗って、演奏を楽しめる余裕も出てきてるわ |
一歌 | ありがとうございます |
一歌 | あ、でも……リズムに乗ると、 今度は音が怪しくなるから気をつけないと |
ルカ | ふふ。いきなりすべてを完璧にするのは難しいものね |
ルカ | ひとつずつ、出来ることを増やしていきましょう |
ルカ | 一歌と咲希は、何がきっかけでミクや私を知ったの? |
一歌 | ……私は動画投稿サイトかな。 そこで、ミクが歌ってる曲を聴いて…… |
咲希 | それで、ミクちゃんすごいんだよって すっかりはまったいっちゃんから アタシは教えてもらったんです |
一歌 | なんか、本人たちを前にして話をするのって ちょっと恥ずかしいな |
ルカ | ふふ、でもミクもそういう話、 聞きたがると思うわよ |
咲希 | あ、じゃあミクちゃんにも聞いてもらっちゃおう! おーい、ミクちゃーん! |
一歌 | え、あっ、ちょっと待って! こら、咲希ー! |
ルカ | 穂波のドラムは 本当に安定しているわね |
一歌 | 合わせる私達もすごく演奏しやすいよ |
ルカ | パーカッションをしていたというのは聞いていたけど、 どれくらいの期間で一通り叩けるようになったの? |
穂波 | えっと、8ビートと16ビートはその日のうちに。 シャッフルとかも含めると、一週間くらいです |
一歌 | え、それってすごく早いんじゃない? |
穂波 | そうかな?志歩ちゃんにも付き合ってもらって、 夢中で練習してたから…… |
ルカ | (ふふ。それだけ、早くみんなと演奏したかったのね) |
ルカ | あら? 穂波がギターを持ってるなんて珍しいわね |
穂波 | あ、はい。お互いの楽器のこと 知りたいねって話をしていて…… |
一歌 | さっきまでは、私が穂波にドラムを教えてもらってたんです |
ルカ | ふふ。それで今は一歌が穂波にギターを教えてるのね |
穂波 | はい。あの、ルカさん。 あとでベースにも触らせてもらっていいですか? |
一歌 | あ、私も触ってみたいです |
ルカ | ええ、もちろんいいわよ |
ルカ | 普段はみんな、どんな練習をしているの? |
一歌 | ここでやってる感じとあんまり変わらないよ。 合わせてみたり、それぞれで練習したり |
一歌 | 違うと言えば……ルカやミク達に代わって、 志歩がいろいろアドバイスをくれることかな |
ルカ | ふふ。さすが、4人の中では一番経験者だものね |
志歩 | ……あれは、ただのダメだし。 バンドを組んだからには、いい演奏がしたいから |
ルカ | そんなに謙遜しなくてもいいのに。 それとも照れ隠しかしら? |
志歩 | 別に照れてない。 ほら、一歌。休んでないで次の練習やるよ |
一歌 | ふふ。うん |
ルカ | 学校はどう? 順調かしら |
咲希 | はい! 勉強も最近ようやく追いついてきましたし、 部活もちょっとずつですけど、がんばれてます! |
咲希 | カフェのバイトもすごく楽しいんですよ! |
ルカ | ふふ、いいわね。 この調子で高校生活めいっぱい、楽しんでね |
咲希 | はい! いっちゃん達と一緒に、 絶対キラッキラな青春を送ってみせます! |
ルカ | 穂波、ドラムの準備は大丈夫そう? |
穂波 | ちょっと手間取りましたけど、大丈夫です |
ルカ | 微調整が必要な部分が多いものね。 バズドラムからの位置感とか、ハイタムとロータムの傾きとか |
穂波 | はい。でも、自分がやりやすいポジションを見つけていくの、 なんだか楽しいです |
ルカ | ふふ。ほんの少しの違いで音も変わる。 バンドの……いえ、音楽の醍醐味よね |
ルカ | 穂波は、ドラムのセッティングがスムーズね |
穂波 | ありがとうございます。 でも実は……まだ正しいやり方がよくわかっていなくて |
穂波 | 特に高さを合わせる時は、それぞれ一番下まで 一度下げてから、高さを合わせているんですけど…… |
ルカ | あら、穂波らしい堅実なセッティング方法で いいんじゃないかしら? |
ルカ | それに、自分が出したい音の出るセッティングにできることが何より大事だもの |
ルカ | だから穂波、もっと自分に自信を持って? |
穂波 | ……はい!ありがとうございます、ルカさん |
ルカ | ふたりは学校や練習がないお休みの日は 何をして過ごすの? |
穂波 | わたしはクラスの友達と出かけたり、 アップルパイを買いに行ったり、 家で飼い犬のしばおと遊んだりしてます |
志歩 | 私は自主練か、ライブハウスのバイトに行ってるかな |
穂波 | あとは、一歌ちゃんや咲希ちゃん達と 4人でショッピングモールに行ったりもするんですよ |
志歩 | なんだかんだ一日中遊んでて、 気がついたら夕方っていうこと多いよね |
ルカ | そう。ふふ、みんなが仲良く過ごせてるようでよかったわ |
ルカ | 今度、その時の様子を聞かせてね。 ミクも、普段のみんなの様子を 気にしてるみたいだったから |
穂波 | ミクちゃんが……。 はい、ミクちゃんにも話しますね |
ルカ | ふたりはよく一緒に練習してるわね |
穂波 | はい。だいたい、わたしの方からお願いするんですけど、 志歩ちゃん、いつも付き合ってくれて |
志歩 | 私達リズム隊の出来は、 バンドの演奏の出来にも響くから |
ルカ | ふふ。そうね。そうよね |
志歩 | なんか、すごい含み笑いのような…… |
穂波 | 気にしない、気にしない。 志歩ちゃん、次のパートやってみようよ |
ルカ | この窓辺のぬいぐるみ、フェニーくんっていうのよね。 なんの動物なの? |
志歩 | フェニックスだよ。ちょっとボテッとした体形だから ペンギンとよく間違われるんだけど…… |
志歩 | 体が丸いのはまだひな鳥だからで、尾のところを 見てもらえばペンギンじゃないっていうことはすぐわかる |
志歩 | それからフェニーくんは……。 あ…… |
ルカ | ふふ、ずいぶん詳しいのね。 もしかして、フェニーくんのファンなのかしら |
志歩 | 別にそういうわけじゃない。 他にも好きなマスコットはいくらでも……。あ…… |
ルカ | あら、そうなの? せっかくだし、その話もっと聞きたいわ |
ルカ | 志歩のベース、手入れが行き届いているわ |
志歩 | え、見ただけでわかるの? |
ルカ | だって、フレットまでつやつやだもの。 しっかりマスキングテープもして、磨いてるんでしょう? |
志歩 | まあ、ね。ずっと一緒に曲を奏でてきた相棒みたいなものだから |
ルカ | ふふ。そんなに大事にしてもらえて、 そのベースは幸せね |
一歌 | 咲希。サビのところ音合わせたいんだけど、いい? |
咲希 | いいよ!じゃあその2小節前からやろっか。 ルカさんも、お願いできますか? |
ルカ | ええ、準備するわ。 それにしても、練習もだいぶ効率的になってきたわね |
咲希 | ふっふっふっ。 アタシ達も日々、成長してますから |
一歌 | そうだね。段取りとかも いろいろ考えたり、話したりしたし |
ルカ | ふふ。自分達なりの練習方法を見つけるのは バンドにとっても大事だものね |
ルカ | さあ、お待たせ。準備出来たわ。 練習、再開しましょうか |
一歌 | こっちのセカイって、学校なのに 誰もいないから、なんだか不思議な感じだね |
咲希 | でも、そのおかげで、 どれだけ音出しても怒られないよ |
ルカ | ふふ、たしかにそうね。 ミクもいつも……あら、噂をすれば…… |
一歌 | このギターの音、ミクの…… |
咲希 | どこかの教室で練習してるんだ |
一歌 | そうだね。私達も負けていられないな |
一歌 | ルカはここにある楽器ならなんでもできるの? |
ルカ | ええ。扱い方は心得てるわ |
咲希 | すごい! アタシ達、自分の担当だけで精一杯なのに |
ルカ | それがいけない、なんてことはないと思うわ |
ルカ | むしろ、ひとつの楽器を追求していく人のほうが 多いんじゃないかしら? |
咲希 | なるほど。言われてみればそうかも |
一歌 | そうだね。 私達はまず、自分の楽器を頑張らないとね |
一歌 | ピアノとキーボードって、弾き心地、全然違うよね |
咲希 | もちろん!鍵盤の重さもそうだし、 強弱の出方とかも、何もかもが違うよ |
一歌 | だよね。慣れるまで時間かかりそう? |
咲希 | うーん。ずっとピアノ弾いてきたからね。 ちょっと時間もらっちゃうと思うけど、 絶対キーボードマスターになって見せるよ! |
一歌 | ふふ。マスターか、かっこいいね。 じゃあ私も、ギターの方頑張らないとね |
一歌 | まさかミクと一緒に演奏できるなんて、 思っても見なかったな |
咲希 | うん! それに、みんなでバンドをやって、 こうやって同じ時間を過ごして…… |
咲希 | これって、すっごく青春♪って感じしない? |
志歩 | ……咲希。目、キラキラさせすぎ |
咲希 | えー! そういうしほちゃんだって、 ミクちゃんやルカさんとセッションしてる時、 表情キラキラしてたよ。ね、いっちゃん! |
一歌 | ふふ。今度、証拠写真を撮っておかないとね |
志歩 | そんな変なことしなくていいから。 真面目に練習するよ |
一歌 | 志歩、教えてもらったクロスと潤滑剤、 すごく使いやすかった。ありがとう |
志歩 | そう? よかった |
咲希 | ……ギターもベースも、お手入れ大変そうだね |
志歩 | いい音を出そうと思ったら、 これくらいの手入れなんて当たり前 |
一歌 | それに、咲希も一緒でしょ。 まめにオイルとかグリスとか使って 手入れしてるじゃん |
咲希 | あ……えへへ、そうでした! |
咲希 | 使ってると愛着湧いてくるし、 ねぎらってあげたくなるんだよね♪ |
一歌 | 穂波のドラムって、なんだか安心する音だよね |
一歌 | ペースをしっかりキープしてくれて、 私達の音を支えてくれるっていうか |
穂波 | 本当? 良かった、練習の成果がちゃんと出てるみたい |
穂波 | でもわたし、自分ではまだベースの志歩ちゃんに引っ張って 貰っちゃってる時もあるなって感じてて……まだまだだね |
一歌 | それは穂波だけじゃないよ。 私もまだまだ全然……みんなで上手くなっていけるといいよね |
一歌 | このセカイでMVとか撮ったら、綺麗だろうね |
志歩 | たしかに。誰もいない校舎ってだけでポイント高いかも |
穂波 | じゃあ一歌ちゃんなら、MVどんな風に撮りたい? |
一歌 | そうだな。カーテンを全部開けて、 星空をバックに、ちょっと逆光気味で演奏……とか? |
志歩 | ふーん、悪くないんじゃない? |
穂波 | うん。もしMV撮ることになったら、 そのプラン試してみたいね |
咲希 | えっと、右手でこうして、左手で……あーでも、 今度はこっちのスイッチが遠くなるのかぁ |
ミク | 咲希、さっきから何回も腕をクロスしてるけど、 何してるの? 演奏前の体操? |
咲希 | それが……えっと、腕運び?が上手くいかなくて、 シンセの音の切り替えが間に合わないんだよね |
ミク | そういえば、今練習してる曲は 演奏より、操作が忙しいって言ってたっけ |
咲希 | そうなの! あーあ。 あともう一本、腕があったらいいのにー |
咲希 | えーっと、このボタンを押しながらここを回して……。 あと、レイヤーをかけるには…… |
ミク | キーボードの設定中? |
咲希 | うん、いろいろな音を試してみたくて。 それに、操作にも慣れておきたいし! |
ミク | ふーん。どんな音になるか私も興味あるなあ。 ねえ、設定が終わったらセッションしてみようよ |
咲希 | オッケー♪ あともうちょっとで終わるから待ってて |
咲希 | キーボードって、バンドにちょっとした彩りをくわえる アクセサリーっぽいよね |
咲希 | あ、こんなふうに感じるのアタシだけかもしれないけど…… |
ミク | いいんじゃない? そういう独自の感覚。 バンドの個性にもつながりそうだし |
咲希 | バンドの個性…… |
ルカ | ええ。それに、音って目に見えるものじゃないから、 自分が出したい音のイメージがあったほうが、 上達につながると思うわ |
咲希 | なるほど……! じゃあこの感覚、アタシなりに大事にしてみます! |
咲希 | ルカさん。ルカさんって ストレートパーマとかかけてない……ですよね? |
ルカ | ええ。もしかして、自分のくせっ毛が気になるの? |
咲希 | はい。いっちゃんやルカさんみたいな ストレートヘアが憧れで…… |
ルカ | あら。私はあなたのふわふわの髪、すごく好きよ。 ふふ、お互いないものねだりになっちゃうけど |
咲希 | そうですね。あーでも、一日でもいいから、 ストレートヘアになってみたいなぁ |
咲希 | ねぇ、いっちゃん。ルカさんから聞いたんだけど、 毎日ギターに触るようにしてるって本当? |
一歌 | うん、本当。しばらく触ってなかったし、 早く思い通りの音が出せるようになりたいなって思って |
ルカ | 効果はかなり出てるみたいね。 音はもちろん、体でのリズムの刻み方も様になってるわ |
咲希 | そうなんだ……。 うーん、アタシはあっちこっち持ち運べないからなぁ |
ルカ | それじゃあオーソドックスに、 演奏を録音してイメージトレーニングするのはどうかしら |
咲希 | あ、そっか! ありがとうございます、ルカさん |
ルカ | ふふ。練習の仕方は工夫次第だから、 いろいろな方法を試してみて |
咲希 | ルカさん、しほちゃんの代わりに、 ベースお願いしてもいいですか? |
ルカ | そういえば今日は、 志歩と一歌がバイトでいないんだったわね。 すぐ準備するわ |
穂波 | ありがとうございます、ルカさん |
咲希 | よーし。今日はほなちゃんとみっちり練習して、 明日合わせる時にふたりをびっくりさせよーっと |
ルカ | あら……ふふ、いつかのあなたと志歩みたいね |
穂波 | ふふ、そうなんです。 今日は咲希ちゃんと『こそ練』です |
咲希 | あれ? ふたりともどうかしたの? |
穂波 | ううん! なんでもないよ。 そろそろ始めようか |
咲希 | ふむふむ。これがバスドラムで…… それからスネアドラムにハイタム、ロータム、フロアタム! |
穂波 | すごい、もうすっかり覚えちゃったね |
咲希 | えへへ。あ、でもドラムとタムの違いって…… |
ルカ | 簡単に言うと、大きさね。 あと、ついている部品が違うから音の響きも違うのよ |
咲希 | へぇ、なるほど…… |
ルカ | ふふ、実際に叩いてみたほうがわかるんじゃないかしら。 ね、穂波 |
穂波 | はい。 咲希ちゃん、どうぞ |
咲希 | いいの!? 実はちょっと叩いてみたかったの。 ありがとう、ほなちゃん! |
咲希 | ダメだ〜……! ここ、どうしてもうまくいかない…… |
ルカ | すっかり、ハマりこんじゃってるみたいね。 ちょっと、気分転換をしたら? |
咲希 | 気分転換か。んー、何しよう? しほちゃん、何かいい案ある? |
志歩 | 今練習してるのと違う曲の練習をする |
咲希 | えーっ、結局練習ー!? |
ルカ | ふふ。志歩らしい気分転換ね |
咲希 | いっちゃんのギターって、お父さんからもらったんだよね? |
一歌 | うん。自分でも歌詞書いたり、曲作ったりしてたみたい |
咲希 | へぇ!それ、どんな歌詞だったとか、 曲だったとか聞いた? |
一歌 | え……聞いたって、どうせ教えてくれないよ。 恥ずかしいでしょ、昔の自分を知られるのって |
咲希 | 昔の自分…… |
咲希 | あっ、そういえばいっちゃん、小学生の頃の歌詞ノートを アタシ達に見られた時、すっごく恥ずかしがってたもんね! |
一歌 | えっ!そ、そんなこと思い出さなくていいよ…… |
咲希 | うーん。この前の練習の音源聴いたけど、 かろうじてまとまってるっていう感じの演奏だよね |
穂波 | そうだね。わたし達、お互いに遠慮しちゃって そこをミクちゃんや志歩ちゃんが引っ張って…… |
一歌 | 本当は、ギターの私が もっと頑張らないといけないんだよね |
一歌 | でも、ミクや志歩みたいな迷いのない演奏、できるかな…… |
咲希 | ……迷いは自信がない証拠! とにかく、アタシ達は練習あるのみだよ! |
穂波 | バンドも、まだまだ始めたばかりだもんね |
一歌 | そうだね。いきなり上手くなんてなれるわけないし、 毎日ちょっとずつ、頑張っていこう |
咲希 | ほなちゃん、ドラム叩くのって、 すごく体力使うよね。大丈夫? |
穂波 | うん、平気だよ。吹奏楽部に入ってた時、 部活で走り込みしてたおかげかな |
一歌 | そういえば、運動部に混じって 吹奏楽部もグラウンド走ってたよね |
咲希 | ああ、アタシも見たことある! いいなぁ…青春っていう感じで! |
穂波 | ふふ。咲希ちゃんもしかして、グラウンド走りたいって思ってる? |
咲希 | あ、わかっちゃった? ミクちゃんに校舎の外走れないか聞いてみようかなぁ |
咲希 | ここの空、夕焼けと夜空の真ん中みたいですごくきれいだよね |
穂波 | うん。あんなグラデーションの空、 ここでしか見られないかもしれない |
穂波 | 星空も、来るたびにちょっとずつ違うような気がするし |
咲希 | えっ、ホント!? 全然気づかなかったよ |
穂波 | ふふ。せっかくだし、そこにある星図で見てみよっか |
咲希 | ねえねえ、しほちゃん。ギターのアンプについてる このつまみは何に使うか知ってる? |
志歩 | ああ、それ? イコライザー。 高音、中音、低音それぞれの音域を調整するんだよ |
穂波 | たしか……高音域は音を太くしたり、 中音域は抜け感をよくしたり……だったっけ? |
咲希 | しほちゃんだけじゃなくて、 ほなちゃんも知ってるんだ!? |
穂波 | うん。お互いの楽器や機材のことは、 知っておいたほうがいいかなって思って |
志歩 | だね。一歌に聞けば、いろいろ教えてくれるでしょ。 あと……今度、シンセのことも教えてよ |
咲希 | うん! ふたりもドラムやベースのこと いろいろ教えてね! |
咲希 | アタシ達って、バンドとしては どれくらいのレベルまで上達したかな? |
穂波 | わたし達の技術の基準は志歩ちゃんだもんね。 そのあたり、あんまりよくわからないかも |
志歩 | それ、正直に言っていいの? |
咲希 | う……な、なんかヤな予感 |
穂波 | あはは……まだステージにも立ててないし。 そんなこと気にするのはまだ早いよね |
志歩 | そういうこと。ほら、一歌も呼んできて。練習再開するよ |
穂波 | ここで演奏していると、 なんだか、普段より上手に演奏できてる気がする |
一歌 | それ、わかる。 気持ちも音も、いつもより乗るっていうか…… |
一歌 | これも、私達の想いがそうさせてるってことなのかな? |
穂波 | そうかも。ここでの演奏が、どんな時でも どこでもできるようにならなくちゃね |
穂波 | ………… |
咲希 | ほなちゃん、どうかしたの? 考え事? |
穂波 | あ、うん。ここにあるドラム、 まるで前からわたしのだったみたいに叩きやすくて。 スティックも、手に吸い付くみたいな感じがするっていうか |
咲希 | あっ、ほなちゃんも感じた!? アタシも! このキーボード、他人の気がしないんだよね! |
穂波 | ふふ、楽器と仲良くできるかは大事だよね。 本当に、ここは不思議なところだなぁ |
志歩 | ……… |
穂波 | あれ、志歩ちゃん何してるの? |
志歩 | ……ベースのチューニング |
穂波 | チューナーとか使わないの? |
志歩 | 微調整には使うよ。けど、感覚として だいたいは覚えておけるようにしたいから |
穂波 | なるほど、感覚も耳も鍛えられそうだし、いいかもね |
志歩 | ねえミク。弦を張り替えたんだけど、 ならしついでにセッションしない? |
ミク | いいよ。ふふ、いいよね張り替えたばかりの、 ちょっとギラギラってした音 |
志歩 | うん。でも、バンドの音に合わせるなら、 ギラギラしたままじゃちょっとね |
ミク | ふーん、それで志歩もちょっと丸くなったのかな? |
志歩 | え? |
ミク | ふふ、なんでもないよ。さっ、はじめよっか! |
志歩 | ちょっといい? |
ルカ | あら、志歩と一歌? 改まってどうしたの? |
志歩 | 時間がある時でいいんだけど、 ベースのソロ、聴かせてくれない? |
ルカ | 私の? |
一歌 | うん。そういえば、 ちゃんと聴いたことなかったなって思って |
ルカ | ふふ。みんなが聴きたいのなら、私は構わないわよ。 何か曲のリクエストはある? |
一歌 | いいの? どうしよう、いろいろ聴いてみたいし、 次来る時までに、候補を探しておくよ |
志歩 | ん? 咲希、難しい顔してどうしたの。 練習の続きやらないの? |
咲希 | うーん……しほちゃん、ルカさん。 さっきいの8分裏、どうだった? |
志歩 | ああ。シンセのリフ? まあ、普通だった |
咲希 | うっ……ですよねー。 はぁ……特徴出すって難しいなぁ |
ルカ | あら。でも、志歩が言う”普通”って、 胸をはっていいレベルなんじゃないかしら? |
咲希 | ……ハッ! そうだ、そうですよね! ダメならダメって言うし! |
志歩 | (ルカさん、咲希を乗せるの上手だな。 ま、たしかに、ダメじゃなかったけどね) |
志歩 | 穂波、そろそろソロパートとか入れてみる? |
穂波 | え、ソロ!? わたしが? |
志歩 | そう。手数の多いフレーズも 正確に演奏できてるし、いけそうだと思って |
ルカ | そうね。それに、 叩き語りとかやってみたらどうかしら |
穂波 | 叩き語り……? それって、叩きながら歌うんですか? |
ルカ | ええ。穂波の柔らかい歌声とドラムの音が どんな風に合わさるのか、興味あるわ |
志歩 | それなら、ソロを叩き語りにしてみる? |
穂波 | えっ! そ、そんないきなりはムリだよ。 まずは、普通のソロからでお願いします |
志歩 | 穂波、練習のあと時間ある? |
穂波 | うん。あるけど、どうしたの? |
志歩 | 英語、明日たぶんあたるんだよね。 だから、ちょっと読む練習しておきたくて。 ちょっとつき合ってくれない? |
穂波 | うん。わたしでよければ |
ルカ | ふふ。演奏では志歩がみんなをひっぱってるけど、 勉強の方は違うみたいね |
志歩 | まあね。穂波がいてくれて助かる場面、実際多いよ。 テスト勉強の前とか、特にね |
穂波 | あ……でも英語なら、 ルカさんも得意だったりするんじゃないですか? |
ルカ | そうね……会話の練習相手になら たぶんなれると思うわ |
志歩 | え、本当? すごく助かる |
ルカ | ふふ。じゃあここからは、 楽器を置いてみんなで英語の時間ね |
志歩 | 一歌、昨日教えてくれたミクの曲、聴いた |
一歌 | ほんと? どうだった? |
志歩 | 聞いてた通り、ベースが特徴的だった。 確かこんな感じの…… |
志歩 | それから、サビにこう入っていって…… |
一歌 | そうそう……って、もしかして、 一晩で耳コピしちゃったの!? |
志歩 | ん……咲希フェニー、ちょっと傾いてる。 落ちないようにしてあげないと |
一歌 | ……咲希フェニー? |
志歩 | ……! |
穂波 | もしかして志歩ちゃん、フェニーくん達に わたし達の名前をつけて…… |
志歩 | ……これ、昔おそろいで買った あのフェニーでしょ |
志歩 | 色しか違わないし、 持ち主の名前でしか区別できないから、そう呼んでるだけ |
一歌 | そっか…… |
志歩 | な……なにニヤニヤしてるわけ? |
穂波 | なんでもないよ。 ふふ、咲希ちゃんにも教えてあげないとね |
志歩 | なんでもないなら、咲希に教えなくていいでしょ。 ていうか、教えたら怒るからね! |
志歩 | あれ? 一歌、咲希と一緒じゃないの? |
一歌 | え……私、今日日直だったから、 先に行っててって言っておいたんだけど…… |
穂波 | じゃあ、もう来てないとおかしいよね。 どうしたんだろう…… |
志歩 | まさか、どこかで倒れて…… |
一歌 | ……あ、メッセージ! 咲希からだ! えっと、『忘れ物したから 一度家に帰ってから行くね』だって |
志歩 | なんだ、そういうこと…… |
穂波 | ふう、よかった |
志歩 | 咲希は尊敬とか、気になるキーボード奏者とかいないの? |
咲希 | うーん……。まだ全然バンドのこととか知らないし、 あんまり考えたことないかも |
志歩 | じゃあ、勉強がてら目標になる人を探してみたら? 上達への近道だよ |
咲希 | ふふ。しほちゃんは憧れてるベーシストさんいるもんね |
志歩 | まあね。目標があるとモチベーション上がるし、 理想とする演奏のイメージもつきやすくなる |
咲希 | なるほどー。よーし、目標になる人、探してみるね! |
志歩 | 咲希、体調大丈夫? 疲れたりしてない? |
咲希 | うん。全然平気だよ |
志歩 | ならいいけど……。結構、体揺らしながら弾いてるから、 万が一めまいとかだったらって…… |
咲希 | えっ、そんなフラフラしてるように見えた? |
志歩 | まあ……わりと…… |
咲希 | ええー!? かっこよくリズムにも乗れてると思ってたのにー! |
志歩 | ねえ、中学の時、ドラム以外の楽器もやってたよね。 どれも結構弾けてたのに、なんでドラムにしたの? |
穂波 | うーん。リズムがしっかりしてると、 みんな安心して演奏できるって言われたから、かな |
穂波 | あと、一番かっこいいって思ったから、 っていうのもあるんだけど…… |
志歩 | いいんじゃない? そういう気持ちって大事だよ。きっと |
ミク | ――♪ ――♪ うん、発声練習オッケー! |
ミク | あ……そろそろスタンバイかな! |
ミク | よーし、みんなに楽しんでもらわなくっちゃ♪ |
ミク | ――♪ ――♪ |
ミク | よし、声出しはこれくらいで大丈夫かな |
リン | このセカイでのステージも、 もう数え切れないくらいになってきたね |
ミク | うん。でも、慣れてきたころが 危ないって言うし油断大敵だよ? |
リン | もっちろん! 今日もしっかり歌って踊って、 みんなを満開笑顔にしちゃおうね♪ |
ミク | みのりちゃん、練習の調子はどう? |
みのり | それが、愛莉ちゃんが作ってくれた練習メニューが すっごくハードで大変……! |
みのり | でも、いまテレビで活躍してるアイドルの人たちは、 これくらいのメニュー軽々とこなすって言ってたし、 わたしもがんばりたいな! |
リン | へぇ、その練習メニュー、ちょっと興味あるかも! ねえねえ、ミクちゃん! |
ミク | うん! みのりちゃん、 わたし達も一緒にやってみていいかな? |
みのり | もちろん! えっと、まずはね…… |
ミク | 雫ちゃんのダンスはのびやかでとってもきれいだね |
雫 | ふふ、ありがとう。新曲のたびにレッスンの先生には、 表現力のことを指摘されてたから、すごく嬉しいわ |
ミク | そうなんだ……。 あ、もしかしたらだけど、すごくよかったから、 もっともっと伸ばしてあげようとしてたのかも |
雫 | え…… |
リン | うん、きっとそうだよ! |
リン | これだけドキドキするダンスができるんだもん。 教える人も、もっともっと上手に踊れるように してあげたいって思いそうだもん! |
雫 | ……そんなふうに考えたことなかったわ。 でも、そうね。そう思いたくなってきたわ。 ありがとう、ミクちゃん、リンちゃん |
愛莉・雫 | ……… |
ミク | あ、あれ? ふたりとも、もしかしてケンカ!? |
雫 | え、ケンカ?私達が? |
ミク | だって、ふたりともすごい怖い顔してて…… |
愛莉 | 今、表情をつけて歌う練習をしてるんだけど、 ちょうどハードめな曲をかけようとしていたから |
ミク | あ……そうだったんだ。 びっくりしたぁ |
雫 | ふふ。みのりちゃんのおかげで仲直りしたばかりだもの。 しばらくはケンカなんてしないと思うわ |
愛莉 | そうね。 ミク、せっかくだし一緒に練習していかない? |
ミク | いいの?じゃあ、お邪魔しまーす |
ミク | そういえば、みのりちゃんは遥ちゃんが アイドルだった時のライブには行ったことあるの? |
みのり | もちろん! ファンクラブにも入ってたよ! |
みのり | でも、運が悪いせいで全然チケット当たらなくて、 当たってもメインステージが遠い席だったけど…… |
遥 | でも、今では隣で一緒にダンスを踊ってる |
ミク | そうだね。 はい! みのりちゃん、感想は? |
みのり | ええっ! そ、そんな改めて意識しちゃうと……! |
みのり | うう、顔が熱いよ~! |
ミク | わっとと! ヒールがちょこっと高くなるだけで、 歩くのもすごく難しくなるね |
雫 | そうね。私もモデルのお仕事をもらいはじめた時は 大変だったわ。特に靴ずれがつらくて…… |
雫 | ミクちゃんは、大丈夫? 最近、よくその靴で練習してるみたいだけど…… |
ミク | うん、大丈夫! |
ミク | 前にモデルウォークの仕方を教わったことがあるでしょ? その時にクッション入れるといいよって 教えてもらったおかげかな! |
雫 | そう。よかったわ |
雫 | (練習って苦しいし大変だけど……。 でも、ただつらいものにしてしまうのは違うものね) |
リン | ワン、ツー、スリー、フォー……! ファイブ、シックス、セブン、エイト……! |
リン | うーん、腕の角度はもうちょっと……こう、かな? あ、でもこう……したほうがもっとかわいく見えるかも! |
リン | ねえねえ、ミク、いるー? ちょっとダンス、見てほしいなぁー! |
リン | ねえねえ、ミクちゃん! これだけステージがあるんだし、あっちとこっちで ライブを同時開催っ!なんてどう? |
リン | それで、途中でステージを交換したりとかして……! |
ミク | すごい……! できたら面白そう! |
リン | でしょー! まだまだ考えてることたっくさんあるんだ。 聞いてくれる? |
ミク | うん、もちろん♪ |
リン | うーっ!この裏拍のステップ、むずかしいよぉー! |
ミク | 変調するところでもあるしね……。 そうだ、少し休憩はさむ? |
リン | ……ううん、大丈夫。 こうなったら、出来るまでひたすら踊ってやるー! |
ミク | ふふ。さすが、リンちゃん! よし、わたしもがんばろーっと |
リン | わ、お客さん達からはこんなふうにステージが見えるんだね。 ちょっと新鮮! |
ミク | ……そうだ。ここで歌うのもいいかもしれない! お客さん達の中に突然わたし達が出てきて歌い始めるの。 みんなと同じ目線で……! |
リン | みんなと同じ目線……それ、面白そう! でも、今までこんなことしたことないし、やれるかな? |
ミク | 初めてのことだし、難しいかもしれないけど……。 でも、きっと楽しいよ! わたし達も、お客さん達も! |
リン | ……そうだね! よーし、やってみよう! |
リン | みのりちゃん何してるのー? |
みのり | 日記を書いてるんだよ |
みのり | 学校であったこととか、練習の成果とか 毎日書いてるの |
ミク | 本当だ!1日1ページずつ書いてある! すごいね |
リン | うん。こういうのってうっかり忘れちゃって そのまま、まあいっかってなっちゃいそうなのに |
ミク | 練習もそうだけど、みのりちゃんは コツコツ何かを続けるのが得意なんだね! |
リン | みのりちゃんの憧れのアイドルが遥ちゃんなんだよね? じゃあ、遥ちゃんの憧れのアイドルは? どんな人? |
遥 | 私に“笑顔”を教えてくれたアイドルよ。 私、昔は笑顔がすごく苦手だったから…… |
リン | そうだったんだ! 今の遥ちゃんからは想像つかないかも! |
ミク | ふふ、今では遥ちゃんがみんなに希望を届けて、 笑顔にしてあげられるアイドルになったんだね |
ミク | 憧れのその人が知ったら、きっと喜ぶね |
遥 | そうかな。……そうだと、いいな |
リン | んー、もうちょっとここの振り付け、 大人っぽくできないかな |
ミク | うーん。雫ちゃん、どう思う? |
雫 | そうね。全体的な雰囲気はすごくいいと思うわ。 だから、細かい部分の表現も意識してみるのはどうかしら? |
雫 | 例えば、手の動きだけど……。 しなやかさや凛とした雰囲気を見せる時は 指先までピンとそろえて伸ばして、すこしそらすの |
雫 | 逆に、優雅さや滑らかさを表現するときは、 指は揃えるだけにして、力を抜くのがいいみたい |
ミク | なるほど!雫ちゃん、ありがとう! |
雫 | ううん。ダンスの先生から教わったことを そのまま話しただけよ |
ミク | でも、すごく勉強になったよ! ね、リンちゃん! |
リン | うん!ちょっとやってみたいから、 雫ちゃんまた見ててくれる? |
雫 | ええ、もちろん |
リン | ねえねえ、愛莉ちゃん! アイドルの研究生ってどんなことするの? |
愛莉 | んー、わたしが所属してたところだと、 ひたすら歌とダンスの練習だったわね |
愛莉 | あとは、先輩アイドルの付き人っぽいこととか、 番組のアシスタントとか…… |
愛莉 | 裏方の仕事を通して、アイドルの仕事がどんなものかとか そのために先輩アイドルがどんな努力をしてるとか、 見て勉強しろって感じだったから |
リン | なるほどー。……うん、なんか、研究してるって感じ! |
ミク | ふふ、自分が普段見ている場所とは 違う場所から見るって、 それだけで気持ちもちょっとワクワクするしね |
愛莉 | ええ。いろいろ大変だったけど、 あの頃学んだことは、今に活かせてる気がするわ |
リン | 遥ちゃん、ダンスあんなに踊ったあとなのに 全然疲れてないね |
遥 | 小中とバスケ部だったから、 そこで鍛えられたのかも |
ミク | へぇ、バスケかぁ |
ミク | じゃあ、体力だけじゃなくて、 瞬発力とか体のキレも鍛えられてそうだね |
リン | あ! 遥ちゃん、キレすごいもんね。 でも、それでいて丁寧っていうか…… |
リン | うーん。これはわたしとミクちゃんも バスケを始めたほうがいいのかな |
遥 | ふふ。もしやりたいなら、教えるよ。 |
ミク | いいの? んー、ちょっと真剣に考えてみようかな? |
リン | 遥ちゃん、アイドルになろうって決めてから、 一度も練習休んだことないって本当? |
遥 | うん。体調に合わせて、メニューを減らしたことはあるけど、 何もしなかったことはないよ |
リン | すごい! ねえねえ、長く続けるコツってあるの? |
遥 | えっと……最初から全部をやろうとしないことかな |
遥 | あと、期限も最初は短めにしてたかな。 まず三日間だけやってみようとか一週間頑張ってみようとか |
遥 | 自分で決めたことをやり遂げたぞっていう達成感が 次の原動力にもなるから |
リン | んー、聞いてると簡単そうだけど、それをずっと続けられるっていうのはやっぱりすごいなぁ |
リン | むむ…… |
遥 | え……リン、どうかしたの? |
リン | うーん、遥ちゃんのダンスいいなぁって思って。 ミクと同じくらいキレがあって、かわいさもあって。 |
遥 | ふふ。もう一度同じところを踊ろうか? |
リン | いいの!?やったー♪ よろしくお願いしまーす! |
リン | あーあー。よし、マイクオッケー♪ |
遥 | あとはみのりと雫とミクが来るのを待つだけだね |
愛莉 | ミクが一緒だからなんか安心よね |
遥 | そうね。少なくとも道に迷うことはないだろうし |
リン | (って言いながら、なんだかソワソワしてる。 ふふ、ふたりとも心配性だなぁ) |
リン | そういえば、ユニットのリーダーとか決めたの? |
雫 | あ……そういえば、そういう話はまだしていないわ |
遥 | そうね。それに、どんなふうに活動していくのかも まだ手探り状態だから |
リン | そっか。本当の想いは見つけたけど、 みんなにとってはこれからがスタートなんだね |
雫 | そんなに心配しないで、リンちゃん。 4人で力を合わせて頑張っていくから |
遥 | ええ。ミクやリンがしてくれたこと、 絶対に無駄にしない |
リン | うん……! わたし、ミクちゃんと一緒に これからもみんなのこと応援してるからね! |
リン | 愛莉ちゃん、聞いたよ~。 愛莉ちゃんのレッスン、ものすごくスパルタなんだって? |
みのり | あ、リンちゃんその話は……! |
愛莉 | あら、みのり。そ~んな話をリンにしてたの? |
みのり | え、えっと! 大変だよっていう話はしたけど、 それはその、やりがいがあるっていう意味で……! |
愛莉 | あら、そう。 明日の放課後練習が楽しみねー |
みのり | あ、あわわわわ…… |
リン | 一緒に練習できていいなぁ。 どんなだったか、あとで感想聞かせてね、みのりちゃん! |
リン | 愛莉ちゃんってすごくしっかりしてるよね。 もしかして、妹か弟がいたりする? |
愛莉 | ええ、下に妹がいるわ。 でも上にも、お姉ちゃんがいるのよ |
リン | わあ、三姉妹なんだ! いいなぁ、お姉ちゃんもやれるし妹にもなれるなんて |
愛莉 | そうね。まっ、間に挟まれて大変っていう時の方が多いけどね |
愛莉 | しかもうちのお姉ちゃん、めちゃくちゃ厳しい人なのよ。 スパルタていうか鬼っていうか…… |
リン | 普段は愛莉ちゃんがみのりちゃんにビシビシしてるのに? ねえねえ、もっとその話聞かせて! |
リン | 雫ちゃんはモデルの経験もしてるんだよね? ポーズとか、自分で考えるの? |
雫 | 私の場合は、カメラマンさんが 指示を出してくれることが多かったわ |
雫 | 肩越しに、哀しそうな表情でカメラを見る、とか |
リン | なるほど~。 遥ちゃんは? そういう撮影の経験ある? |
遥 | うん。雑誌とか、CDのジャケット撮影で。 でも、私はポーズよりも立ち位置を気にしてたかな |
遥 | 特にジャケットの写真はASRUNのメンバーと一緒だから、 同じ画にならないようにって、メンバーで工夫したり |
リン | へぇ、撮り方にもいろいろあるんだ。 面白そう! もっと聞かせて! |
みのり | ミクちゃんとリンちゃんの衣装、いいなぁ。 よく見る衣装以外にも、いろいろあるんだよね? |
ミク | うん。立つステージによって変えたり、 曲によって変えたりもするから |
みのり | いいなあ、アイドルっぽい! |
ミク | ふふ、そういうみのりちゃんだってアイドルでしょう? どんな服装よりも、気持ちが大事だよ |
みのり | そうだね。いつかみんなに希望をあげられるように、今日も練習がんばるぞー! |
みのり | ここに来るたびに、 ミクちゃん達いつもライブしてて忙しそうだね |
ミク | あ、それはたぶんツアー開催中だったからだよ |
みのり | えっ、ツアー!? |
ミク | ふふ、このセカイ、ステージがたくさんあるでしょ? |
ミク | それで、あっちこっち巡って パフォーマンスすることをツアーって呼ぶことにしたの |
みのり | なるほど! |
みのり | ツアーか、いいなぁ! わたしもいつか遥ちゃん達とやってみたいな! |
みのり | ふんふふふ~ん♪ |
リン | みのりちゃん、何描いてるの? |
みのり | えへへ。実はね、わたしなりのサインを考えてるの! いろいろなパターンを考えてみてるんだけど…… |
みのり | あ、よかったら相談に乗ってほしいな |
リン | サインかぁ。なんだか楽しそうだね! わたしでよかったら、もちろん協力するよ! |
みのり | リンちゃん達、いろいろな歌を歌うために 衣装もたくさん持ってるんだよね? |
みのり | たくさんありすぎて、どれがどれだか わからなくなっちゃったりしないの? |
リン | あはは……一度うっかり間違えちゃったことあるけど…… |
リン | でもそこからは、ちょっとした名前をつけて 区別するようになったから、間違えなくなったよ |
みのり | へぇ、衣装に名前か……うん、いいね! |
みのり | わたしも遥ちゃん達と相談して あのクローバーの衣装に名前つけてみようかなぁ |
みのり | ここで歌う時に着るあのクローバーの衣装、 可愛いよね! |
みのり | でも、どうしてクローバーなんだろう? |
遥 | それ、私も気になって調べてみたの |
遥 | クローバーの花言葉は『希望』。 それと『約束』とか『愛』っていう意味もあるみたい |
みのり | え……ミクちゃん、それって! |
ミク | ふふ。歌だけじゃなくて、あの衣装も、 みのりちゃん達の想いから生まれたものなんだよ |
遥 | やっぱり、そうだったんだ。 歌だけじゃなくて、 あの衣装も大事にしていきたいね |
みのり | うん……! |
みのり | リンちゃん、今日も練習がんばろうね! |
リン | うん! みのりちゃん、雫ちゃんよろしく……ふふっ |
みのり | ……? リンちゃん? |
リン | ごめんごめん。今日もあのちょっとおもしろい ラッコさんのTシャツなのかなって思って |
雫 | ふふ。あのTシャツ、かわいいわよね。 私も見るたびに和んでるの |
みのり | 本当!? うれしいなぁ。 あのTシャツ、すっごくお気に入りなの! |
みのり | いい感じに力が抜けるっていうか、 気持ちが楽になるっていうか! |
雫 | ふふ。それ、なんだかわかる気がするわ。 今度、私も似たようなTシャツ探してみようかしら |
みのり | リンちゃんって、かわいい曲だけじゃなくって、 大人っぽい曲もこなせちゃうんだね! |
遥 | 笑顔も少し違うよね。明るい無邪気な笑顔だったり、 ちょっと恥じらいのある笑顔だったり |
遥 | 曲によって雰囲気を変えられるって、 アイドルとしての幅の広さでもあると思うし、羨ましいな |
リン | そ、そうかなぁ? |
リン | えへへ。そんなにいろいろ褒められちゃうと 照れちゃうよー |
遥 | ふふ。照れてる時の、 普通の女の子みたいな表情も魅力的だね |
みのり | うん。そんな表情しててもかわいいなんて、 羨ましいなぁ |
みのり | 遥ちゃんは小学校3年生の頃に アイドルになりたいって思い始めたんだよね |
遥 | うん。私にも、憧れていたアイドルがいたから |
みのり | えへへ。きっかけ、一緒だね |
みのり | わたしも、遥ちゃんみたいなアイドルになりたいて 憧れて目指し始めたから |
遥 | ふふ。私達、意外と似た者同士なのかな? |
みのり | ライブって、2時間とか3時間とか 長時間、たくさん歌わないといけないんだよね |
愛莉 | ええ。体力勝負と言っても過言じゃないわ |
遥 | それはわかるけど……どうしてここに? |
愛莉 | 学校とかその周りを走ろうにも、 アンタと雫は目立ちすぎるのよ |
遥 | それなら、マスクをして走れば? 呼吸しづらくなって、ランニングの効果も上がるよ |
愛莉 | えっ。まあ、それはそうだけど…… |
みのり | 遥ちゃんの発想って、ときどき アイドルじゃなくてスポーツ選手みたいだよね |
みのり | あれ? あのステージのライティング、ちょっと変わった? |
愛莉 | ん……ああ、本当だ。 前は確か、もう少し位置が下の方だったわね |
遥 | ええ。ミク達、同じステージを使う時でも ライブ内容によって演出いろいろ変えてるみたい |
愛莉 | なるほど。ステージ演出も工夫できるなんて、 さすがね、ミク達は |
みのり | わたし達が気づかなかっただけで、 ほかにも変わってるところあったりするのかな? |
遥 | そうね。勉強になりそうだし、ちょっと探してみようか |
みのり | うう……今日も疲れた |
雫 | お疲れさま、みのりちゃん。 それじゃあ最後に、クールダウンしましょう? |
みのり | うん!あ、そういえばクールダウンって なんのためにするんだっけ? |
遥 | 運動のあとは神経も筋肉も興奮状態になっていて、 そのままだと翌日にも疲れが残ってしまうの |
遥 | だから、気持ちを落ち着けるのと同じように 身体もゆっくり落ち着かせてあげる必要があるの |
雫 | さすが遥ちゃん、身体のこと詳しいのね |
遥 | 自分でいろいろ調べて 勉強するのすきだから |
遥 | それじゃあ、疲れてるだろうけど クールダウンをしっかりしましょう |
みのり | はーい! |
みのり | あーあーあー |
遥 | みのり? ステージに立ってどうしたの? |
雫 | ふふ。どこまで自分の声が通るか、 挑戦してみたいんですって |
みのり | えへへ、これだけ広いステージだから、 大きな声出してみたくなっちゃって |
みのり | ふたりは、ステージの後ろに行って わたしの声が聞こえるか、聞いててね! |
雫 | わかったわ。 ふふ。ああいうわくわく、私も初めて ステージに立った時、感じたわ |
遥 | ええ、私も…… |
遥 | (ああいうところに 私達は救われてるのよね) |
みのり | わぁ……広くて大きなステージ! |
みのり | すごいな……愛莉ちゃん達は、 今までこういうステージに立ってきたんだよね…… |
愛莉 | そうだけど、これからはアンタだって一緒なのよ? ほら、シャキッとしなさい! |
みのり | ……! うん! よーし、がんばるぞー! |
みのり | 愛莉ちゃん、アイドルを研究する時って、 どういうところを見てる? |
愛莉 | ずいぶんざっくりとした質問ね…… |
愛莉 | まあ、ライブ映像を見る時とかは、 お客さんの反応も見るようにしてるわ |
愛莉 | どういうフリをすればお客さんは乗ってくれるのか、 楽しく一緒に盛り上がれるのか、とか |
雫 | なるほど…… |
愛莉 | って、この中で誰よりもライブやってるくせに なるほどってなによ、なるほどって |
雫 | 実は、お客さんへの呼びかけって苦手意識があって。 だから、私もいろいろ知りたいの |
愛莉 | しょうがないわね。じゃあ、ふたりのために 参考になるライブDVD持ってきてあげる。感謝しなさいよ? |
みのり | うん! ありがとう、愛莉ちゃん! |
みのり | 雫ちゃんは、ステージの本番前って緊張する? |
雫 | ええ、もちろん。でも、私なりの緊張のほぐし方があるから、 それをやってから本番に臨むようにしてるの |
みのり | へぇ。どんな方法? |
雫 | 深呼吸よ。シンプルだけど、タイミングも、 場所も選ばないから、気楽にできるでしょう? |
みのり | なるほど……!今度わたしも、 緊張したときとか試してみるね! |
みのり | ステージに立ってるミクちゃんとリンちゃん、 いつ見てもキラキラしてるね |
愛莉 | ええ。それに歌もダンスも 勉強になるところがたくさんあるわ |
愛莉 | だから今日は、一度練習のことを忘れて ふたりのライブをしっかり見るわよ! |
遥 | それ、ただライブが見たいだけじゃ…… |
愛莉 | 何言ってんのよ。 アイドルの研究はわたしのライフワークなの |
みのり | そうそう! ほら、遥ちゃんも行こう! |
遥 | ここに来ると、胸の奥がそわそわする |
ミク | それは、いい意味? それとも…… |
遥 | 初めてここに来た時は、いい意味の方じゃなかった。 でも…… |
遥 | みんなのおかげで、 もう一度ステージに立ちたいっていう、 いい意味のそわそわになったと思う |
ミク | そっか! ふふ、わたしも遥ちゃんの笑顔が 見られるようになってよかった |
遥 | うん。ミクやみのり達のおかげ……。 だから今度は私が、みんなを笑顔にしなくちゃね |
遥 | ミク達って、何をアイドル活動の原動力にしているの? |
ミク | 原動力?うーん、歌えること、かな。 私もリンも、何より歌うことが好きだからね! |
ミク | 遥は? |
遥 | 私は……みのりがとり戻してくれた気持ち、かな |
ミク | ふふ、ステキな原動力だね |
遥 | たしか……こう、かな! |
リン | わっ、さっきのステージでわたしが踊ったダンスだ! 見ただけで覚えちゃったの!? |
遥 | 曲とマッチしてて、覚えやすかったから。 それに、完コピならみのりのほうが得意じゃない? |
みのり | ううん。わたし、完コピできるようになるまで 何度も直さないとできないし |
リン | やっぱり遥ちゃん、すごいなぁ。 元トップアイドルは、伊達じゃないって感じだね! |
みのり | うん。いつ追いつけるかわからないけど、 わたしも頑張らなくっちゃ! |
遥 | あ、あそこのステージの花道、 昔ライブをやったステージとちょっと似てる…… |
みのり | え、ホント?うーん、どのツアーのライブだろう。 DVDは全部持ってるから、わたしも見てるはず……! |
みのり | あっ!結成2年目の記念ライブの会場だ! 真ん中でそれぞれの花道が合流してる形……間違いない! |
遥 | ふふ、正解 |
遥 | (……本当に、私のことずっとずっと応援してくれてたのね。 ありがとう、みのり) |
遥 | ……ミクとリンのステージ、いつ見ても勉強になる |
愛莉 | そうね、1曲1曲のパフォーマンスの質も高いし、 観客とのコール&レスポンスもあって…… |
遥 | 会場との一体感が脇で見てる私達にも しっかり伝わってくる |
愛莉 | ホントすごいわよね。 でも、わたし達だって! |
遥 | 4人できっと、こんなステージをつくりあげてみせる |
遥 | あれ……?あそこにある小さいステージ。 よく出させてもらってた歌番組のセットに似てる |
雫 | 遥ちゃんもそう思う? 実は、私もそうじゃないかなって思ってたの |
愛莉 | わたしも、全部じゃないけど いくつかのステージにはなんとなく懐かしさを感じるわ |
雫 | ええ。見覚えのあるステージを見つけるたびに、 懐かしくて、温かい気持ちになるわ |
遥 | うん。この、セカイっていう場所が 私達の想いでできてることと関係があるのかも |
愛莉 | そうね。そのあたりの話、 もう少し詳しく聞ける機会があるといいわね |
遥 | このセカイっていう場所、 どこまでステージが続いているんだろう |
愛莉 | たしかに気になるわね。 ずっと先の方にまでステージがあるみたいだし |
雫 | それじゃあ、みんなでランニングしながら 確かめに行ってみる? |
遥 | いいけど……雫、大丈夫? |
雫 | あら? 遥ちゃんほどじゃないかもしれないけど 体力なら自信あるわ |
愛莉 | そうじゃなくて……。 迷子にならないかを心配されてんのよ |
愛莉 | ミク、みのりの練習につきあってくれたって聞いたわ。 ありがとう |
愛莉 | わたし達、それぞれ用事があって 放課後の練習に参加できなかったから…… |
ミク | ううん。いつもリンちゃんとふたりきりでやってたから、 3人でやれて楽しかったよ |
ミク | もしよかったら、今度は全員と一緒にやりたいな! |
愛莉 | あ、合同練習ね! 確かにお互いいい刺激になりそう! 戻ったら、みんなに話してみるわね |
愛莉 | ねえミク、前に話した合同練習のこと覚えてる? |
ミク | もちろん!あっ、もしかして…… |
愛莉 | ええ、近々やれそうよ。 それで、ちょっとお願いがあるんだけど…… |
愛莉 | みのりのために、実際のステージを使った練習をしたいの。 だから、どこかのステージを借りられたら嬉しいんだけど…… |
ミク | 任せて♪良さそうなステージを、 リンちゃんと一緒に探してみる! |
愛莉 | いいの?ありがとう、ミク! |
ミク | ううん、こっちこそ!合同練習、楽しみにしてるね! |
愛莉 | ミクもリンもすごいわね。いつ見ても、 衣装もネイルもすみずみまで手入れが行き届いてて |
リン | もっちろん! わたし達はみんなに希望を届けなくちゃいけないからね |
リン | キラキラ輝けるように、すごーくすごーく気をつけてるよ |
ミク | ふふ。前、セットに服をひっかけて破いちゃった時、 ものすごく落ち込んだもんね |
リン | わあっ!ミクちゃん、それは言わないでー! |
愛莉 | リン、ちょっとリボンが曲がってるわよ |
リン | えっ、ホント!? |
愛莉 | ホントよ。少し触るわね? ……はい、直ったわよ |
リン | ありがとう! ふふ。愛莉って、お母さんみたいだね! |
愛莉 | え、お……お母さん!? そこは、せめてお姉さんと……いえ、いいけどね…… |
愛莉 | じゃあ、ここからは自主練習ね。 みのり、課題感を持って取り組むのよ?いい? |
みのり | は、はい! えっと、わたしの今の課題は…… |
愛莉 | ………… |
リン | そんなに気になるなら、 一緒に練習すればいいんじゃない? |
愛莉 | う……でも、それじゃあいつまでたっても、 みのりが成長できないでしょ |
愛莉 | それに、まず自分のことがしっかりできなくちゃ 誰かに何かを教えるなんて、しちゃダメ |
リン | そっか。ふふ、愛莉ちゃんの そういうところかっこいいよね! |
愛莉 | 最近、雫とみのりがな~んかこそこそしてるのよね~ |
リン | えっ、そ、そうなの? |
遥 | そうね。リンは何か知らない? たとえば……みのり達だけでこっそり居残り練習してる、とか |
リン | な、なんでそれを……ハッ! |
リン | し、知らないよ!わたしは何も知らない! みのりちゃんと雫ちゃんと約束したんだもん! |
愛莉 | そこまでわかりやすく反応されちゃうと…… |
遥 | うん。これ以上は聞きづらいね |
愛莉 | あれ? ミク、今日はひとりなの? |
ミク | うん。リンちゃんは今、 ソロライブのリハーサルに出てるの |
雫 | え、ソロライブ? |
愛莉 | そっか。ふたりはユニットを組んでいるわけじゃないから、 ソロの活動もあるのね |
ミク | うん! あ、せっかくだし、 リハの様子、見に行ってあげて? |
ミク | ふたりが来てくれたって知ったら、 リンちゃんきっと気合入ると思うから! |
雫 | ええ。そうしてみるわ。 教えてくれてありがとう、ミクちゃん |
愛莉 | リン、ソロライブの準備は順調? |
リン | もちろん! |
リン | ミクちゃんと一緒じゃないっていうのは、 ちょっとドキドキだけどね |
雫 | 私、グループでしかステージに上がったことがないから 想像もつかないけれど…… |
雫 | あんなに広いステージにたったひとりだもの、 緊張するのも仕方がないわ |
愛莉 | そうね。けどこういう時どうするかは決まってるわ |
愛莉 | 失敗したらどうしようって思うより、 早くみんなの笑顔が見たいなって思うのよ |
リン | あはは、さすが愛莉ちゃん! ポジティブシンキングっていうやつだね! |
愛莉 | そうよ。後ろ向きな笑顔より、 前向きな笑顔のほうがいいに決まってるもの |
雫 | ふふ。そうね |
愛莉 | 雫、さっきのミクのパフォーマンス、見た? |
雫 | うん。曲に合わせて、ダンスにキレを持たせたり、 かわいさを出したり、すごいね…… |
愛莉 | どこまで練習したらあのレベルにいけるのかしら |
雫 | わからない。でも……負けてられないって気持ちになる |
愛莉 | そうね。すごく力をもらえる不思議なパフォーマンスよね。 ……うん、がんばらなくっちゃ! |
愛莉 | ……あ、今のミクの動き。体重を後ろにかけて 次のステップへの入りを早くしてるのかしら? |
愛莉 | こう……あ、いけるかも! |
雫 | 見ただけで出来るようになるなんて。 愛莉ちゃん、すごいね |
愛莉 | 見てるだけ、じゃなくて観察してるよ。 教えましょうか? |
雫 | いいの?うん、教えて! |
愛莉 | 遥達って、ステージの演出は自分達で考えてたのよね |
遥 | ええ。ツアー毎にテーマを決めて、 セットリストを決めて、細かい演出を決めて…… |
愛莉 | いいわね。わたしはそういうことさせてもらう前に、 テレビの方の仕事が増えちゃって。でも…… |
遥 | これからやればいい。私達、4人で |
愛莉 | ……わ、わかってるわよ! そう言おうと思ってたの! |
雫 | え、モデルウォークの仕方? |
ミク | うん。次のステージで、ちょっとヒールの高めのくつを 履くんだけど、なるべくかっこよく歩かないといけなくて |
雫 | あら、私でよければ喜んで |
雫 | あ、それなら私も、撮影に使ってた衣装とかヒールとか 持ってこようかしら。少し待っていてもらえる? |
ミク | もちろん! わたしもちょっと準備してくるね! |
雫 | こんなにいくつもステージがあると うっかり迷ってしまいそう…… |
リン | それなら、ステージの配置を覚えておくといいよ。 どのステージが、どのステージの隣にあるかを 覚えておくと探しやすいでしょう? |
雫 | ええ、すごく便利そう! ノートにメモしておこうかしら |
リン | じゃあわたしが、左端のステージから言っていってあげるね! |
雫 | 練習に付き合ってくれてありがとう、リンちゃん。 おかげで、ようやく完璧に踊れるようになったわ |
リン | どういたしまして!でも、 できるまで帰らないなんて、意外と思い切ったことするよね |
雫 | 自分の覚えが悪いせいで、 他の人に迷惑かけてしまうのが嫌だから |
雫 | それに、このパート好きだから、 早くみんなと肩を並べて踊れるようになりたかったの |
リン | そっか!じゃああとはみんなで楽しく踊るだけだね! |
雫 | ええ、そうね。 今日の練習を無駄にしないように頑張るわ |
雫 | あーあーあーあーあー。 ……声出しはこれくらいかしら |
リン | ふたりとも、今日は歌の練習なの? |
みのり | うん! やっぱりアイドルといえば歌だしね! |
みのり | 今日は裏声……えっと、ファルセットだっけ? その切り替えがスムーズになるように練習するの |
リン | へぇ! ねえねえ、ちょっと見学していってもいい? |
雫 | ええもちろん。 意見や感想も大歓迎よ |
リン | ――♪ ――♪ |
雫 | あ、今日はバラード系の歌の練習なのね |
愛莉 | 珍しいわね。いつもはパワフルで元気いっぱいな曲の 練習をしていることが多いのに |
リン | さっきの曲ね、次のライブで歌うんだけど、 すごーく大事な役割を持ってるんだよ |
雫 | 役割? |
リン | ふふっ。その役割とは……! 『ライブの構成にメリハリをつける!』っだよ |
愛莉 | ああ、そういうこと |
雫 | アップテンポな曲ばっかりだと、 お客さんも疲れちゃうものね |
リン | うん。今度のライブの目標は、ストーリー性を持たせること! どんな風になるか、期待しててね♪ |
雫 | みのりちゃん、アイドルのライブに行くときは やっぱりペンライトを振るの? |
みのり | もちろん!会場やアイドルグループ毎にルールが 違ったりもするから公式のペンライトを使ってるよ |
みのり | 電池を入れ替えればずーっと使える物とか、 面白いのだと、太陽光で充電できるのとかもあったなぁ |
雫 | いろいろあるのね。ほかにはどんなのがあるの? もっと聞いてみたいわ |
みのり | いいよ。じゃあ、グループ毎に話すね! まずは…… |
雫 | ………あら? |
愛莉 | どうしたの、雫。 ぼーっとしてるとはぐれるわよ |
雫 | あのね、ずーっと遠くの方に キラキラ光が見えるの |
みのり | 本当だ!キラキラ……あっ、色が変わった! |
みのり | あれきっとペンライトだよ! あんな遠くにもステージがあるんだ |
愛莉 | そうみたいね。ほんと、このセカイには 一体いくつのステージがあるのかしらね |
雫 | どんな場所の、どんなステージも やっぱり立つと緊張するわ |
遥 | 私もデビューしたての頃はガチガチだったよ。 そのせいでいっぱい失敗して、メンバーにも迷惑かけて |
雫 | そうだったの……。 じゃあ、そこから練習も努力もたくさんして…… |
遥 | それは雫もでしょう? 他のアイドルの子達だって |
雫 | そうね。努力してない子なんて、きっといない。 そういう世界よね |
雫 | ここに来ると、なんだかソワソワするわ |
遥 | ソワソワ? |
雫 | あ、ワクワク……かもしれないんだけれど、 歌いたいなっていう気持ちになるの |
遥 | ……そうね。ここに来ると、あの時ミクとリンが 見せてくれたステージのことも思い出すし |
雫 | ええ。見ている人の気持ちを揺さぶる、 本当に素敵なステージだったわね |
ミク | あ……ドリンクメニュー、ちょっと増えてる |
ミク | いつも同じのを頼んじゃうけど、 今日は新しく増えたのを頼んでみようかな |
ミク | レン、最近スピーカーの調子悪いって言ってたけど あれ、直ったの? |
レン | うん。メイコに見てもらったら直ったよ! えーっと、せ……せっしょく?がどうとかって言ってた |
ミク | ふーん。接触不良だったんだ。 じゃあ、また調子悪くなったりするかもね |
レン | へへっ、大丈夫! |
レン | 背中を優しく叩いてあげると元気が出るって 教えてもらったから! |
ミク | 元気が出るって……。 メイコ、ときどき大胆なことするよね |
ミク | はぁ……カフェオレ、美味しい |
MEIKO | すっかりくつろいじゃってるけど、お手伝いの方はどうなったの? |
ミク | だって、お客さんいないじゃん。 来たら、ちゃんとやるよ |
MEIKO | ふふ、まったく |
ミク | ――♪ ――♪ |
MEIKO | あら、またレパートリーが増えてるわね |
ミク | まあね。こはね達ともっといろいろな曲歌いたいし |
ミク | メイコだって、本当は歌いたくてうずうずしてるでしょ。 最近、コーヒー淹れながらよく歌ってるし |
MEIKO | ふふ、バレちゃった? |
MEIKO | その時がいつ来てもいいように、 準備はバッチリしておきたいもの。ふふ |
ミク | ここにはもう慣れた? |
冬弥 | そうだな。ここは謙さんの店と同じくらい居心地がいい |
レン | 冬弥は来始めた頃から そんなに抵抗感ないって感じだったよね |
ミク | ふふ。彰人なんて、レンを幻覚だーなんて言ってたしね |
冬弥 | ああ見えて常識人だからな。びっくりしたんだろう |
レン | んー、けど冬弥みたいに すんなり受け入れられちゃうのもなんかなぁ |
ミク | 物足りない? |
レン | そうそれ! 今思うと、 あの時の彰人はナイスリアクションだったんだなー |
ミク | いらっしゃい、また来てくれたんだ |
こはね | うん、メイコさんのお店に行こうかなって思って |
MEIKO | ふふ、すっかり常連さんね。 そうだ、いつも飲んでくれてるコーヒーとか、 ちょっとカスタマイズしてみる? |
こはね | カスタマイズ……ミルク多くしたりとか、 ホイップのっけたりとか、ですか? |
MEIKO | そう!せっかく来てくれるんだから、 より楽しんでもらえる工夫がしたいの |
ミク | いろいろ候補考えてるから、 今日、ついでに試していく? |
こはね | わぁ! はい、ぜひ! |
ミク | ねえ、杏達はラップでバトルとかしないの? |
杏 | んー、そういうのも燃えないわけじゃないけど…… |
杏 | でも私は、どうせ一緒にステージに立つなら、 力を合わせて一人じゃ作れないものをつくりたいかな |
MEIKO | ふふ、例えばお父さんが仲間とつくりあげた、 伝説のイベント、かしら |
杏 | そう、その通り! |
ミク | いいね。キミ達がつくりあげるイベントが どんなものになるか、ますます楽しみになってきたよ |
ミク | こはね、最初に出会った頃から結構変わったね |
こはね | あ、髪切ったり、眼鏡もコンタクトにしたから |
ミク | それもあるかもしれないけど、 顔つきとか、すごく凛々しくなった |
ミク | 自信、もっと持っていいんじゃない? |
こはね | ミクちゃん…… |
こはね | うん。ありがとう! |
ミク | 杏って、お父さんのカフェでどんな手伝いしてるの? |
杏 | ミクと一緒で、ホールの手伝いがほとんどだよ。 一応、お店で出してるメニューは全部作れるけど |
ミク | へぇ、やるね。私は……。 ……できる未来が見えない |
杏 | もう、こはねの背中押してくれた人が何言ってるの? 失敗なんて誰にでもあるんだから、やってみればいいのに |
ミク | そう?じゃあ、一回くらいはやってみようかな |
ミク | カフェの手伝いをしてるのは前に聞いたけど、 家でも料理とか手伝うの? |
杏 | まあね。うち、お母さんも仕事してて共働きだからさ |
杏 | 特に朝は忙しいから、 私が朝ご飯作る時もあるよ。 まあ、全然たいしたメニューじゃないけど |
ミク | 中身より、やってることが大事でしょ。 杏は偉いね。親孝行で |
杏 | そう?あはは、ミクに褒められるなんて ちょっと不思議な気分かも |
ミク | 彰人、最近、こはね達とは歌ってる? |
彰人 | いや……イベントにはだいたい4人で出るけど、 まだ4人でやってく時の正解が見えなくてな |
ミク | 試行錯誤の途中って感じ? |
彰人 | ああ。早くしっくりくる形を見つけたいもんだな |
ミク | ねえ、ピアノ弾けるんでしょう? もしピアノがあったら、弾いてくれる? |
冬弥 | ……もうずいぶん弾いてない。 たぶん、聴くに堪えない演奏になる |
ミク | つまり、弾きたくない? |
冬弥 | …………すまない |
ミク | ううん。ちょっと聴いてみたかっただけだから。 でも、いつかもしピアノを弾くことになったら、 私にも聴かせてね |
冬弥 | ああ。その時は、必ず…… |
リン | この場所、開けてるし、メイコのお店も近いし 歌うのにちょうどいいかも! |
リン | あ、でもレンはもう知ってるかなぁ。 ひとりであっちこっちいろいろ探検してるみたいだし |
リン | それなら、こはねちゃんや杏ちゃんに教えてあげようかな! それで、一緒に歌ったら絶対楽しいよね! |
リン | よーし、決まり! ふたりをさーがそっと! |
リン | もー、レンってば、なんで全然来ないの? |
リン | この通りにある、イヌの落書きの前に集合って……あれ? これ……イヌの落書き、じゃない!? |
リン | も、もしかしてわたしが間違えた? だったら、急いで落書き探さなくちゃ! |
リン | って、ここのセカイ落書きだらけだよ~! メイコのカフェで待ち合わせにすればよかったー! |
リン | わっ、すごーい!レンが言った通り、さっきの細い道、 メイコのカフェの前につながってたんだ! |
リン | ああいう道、他にもたくさんあるみたいだし、 ちゃんと覚えたら、すっごく近道になりそう |
リン | えへへっ、レンにもっと教えてもらおーっと |
リン | ミク、メイコのお店のお手伝いって、面白い? |
ミク | んー。別に普通、かな |
リン | 普通? じゃあなんでお手伝いしてるの? |
ミク | コーヒー飲んでるだけだと、すごく暇だから。 あとは……店員相手なら、お客さんも話しかけやすいかなって |
リン | あはは。なーんだ、じゃあお店を手伝ってるのは こはねちゃん達のためなんだね! |
ミク | ふふ。まあ、そんなところかな |
リン | ミク! わたしね、メイコのお店のお手伝いしたの! |
ミク | へえ。それで、どうだった? |
リン | 面白かった! |
リン | あのね、注文の飲み物届ける時に『どうぞ』って言うと、 みんな『ありがとう』って喜んでくれるの! |
リン | これからもちょっと手伝っちゃおうかなぁ? |
ミク | いいんじゃない? メイコは喜ぶと思うよ |
リン | ホント? じゃあこれからも ときどきお手伝いしーよっと! |
リン | ねえねえ、待ち合わせ場所に落書き使うのやめようよ。 どこになんの落書きあるか全然覚えられないし |
レン | えー、今更? |
レン | しょうがないなぁ。 まあ、オレも前みたいに待ちぼうけするのやだしね |
レン | それで、代わりの待ち合わせ場所は…… やっぱ、メイコの店? |
リン | うん! だって絶対に間違えないでしょ? ちょっと待つことになっても、 メイコやミクがいるからつまらなくないし |
レン | そうだね! けど、だからって遅れるなよー? |
リン | えー、自分だって歌に夢中になってたーって、 約束の時間よく忘れちゃうくせにー |
リン・レン | 『ぷっ……あはは』 |
リン | ねぇ、レンっていつからコーヒー飲めるようになったの? しかもミルクなしで |
レン | へへっ。そんなの、最初からだよ |
リン | もう、ウソばっかり~。 最初は苦い~って言ってたよね? |
レン | まあね。でも、飲んでるうちに だんだん慣れてきたって感じかな |
リン | そうなんだ……! じゃあわたしも、 飲めるようになるように、ちょっと挑戦してみようかな! |
リン | メイコのお店って、なんだかず~っと いたくなっちゃうんだよね。ふしぎー |
MEIKO | ふふ。居心地がいいって思ってくれてるってことかしら |
リン | うん、でもなんでだろう。 やっぱりBGM? それとも雰囲気? |
リン | あ……メイコやミクやレンに、 こはねちゃん達にも会えるからかな? |
MEIKO | リンはいろいろな楽しみ方をしてくれてるのね。 マスター冥利に尽きるわ |
リン | んー。でも結局、なんでず~っと、 いたくなっちゃうのかわかんないなぁ |
MEIKO | ふふ。のんびりジュースでも飲みながら考えてみたら? |
リン | メイコ。お店で流れてる曲、いつもと雰囲気違ってたね。 どれもちょっと大人っぽかったっていうか |
MEIKO | ええ。今日はミクからリクエストをもらっていたから |
リン | えっ!リクエストしたらその曲流してくれるの? |
MEIKO | そうよ。たいていの曲は用意できると思うわ |
リン | そうなんだ!じゃあわたしのリクエスト曲も、 お願いしたらお店で流してくれる? |
MEIKO | いいわよ。準備が必要だから、決まったら教えてね |
リン | うん!よーし、どの曲にするか考えよーっと♪ |
レン | ミクもメイコも、なんでミルクも砂糖もなしで コーヒーが飲めるんだろ? |
レン | いや、オレだってちょっと慣れれば……! |
レン | よし! 今日はブラックを頼むぞ! |
レン | ねえ、ミク! たまには一緒に歌おうよ! |
ミク | いいけど、リンがへそ曲げるんじゃない? |
レン | 大丈夫! リンはDJやって盛り上げてくれるって! |
ミク | ふーん。それなら、メイコのカフェでやろう。 店を開けたまま、メイコも参加できるでしょ |
レン | おー! ミク、ナイス! じゃあそれで行こう! |
レン | はぁ…… |
MEIKO | あら、ため息なんてついてどうしたの? |
レン | だって、彰人も冬弥も全然来ないもん |
MEIKO | あのふたり、結構来てくれてるわよ。 たまたまレンがその時にいないだけで |
レン | そうなの!? むー、男同士でいろいろ話したいのに。 もう、オレから会いに行っちゃおうかな |
MEIKO | ふふ。どうしても会いたいなら、いいんじゃないかしら。 でもびっくりさせちゃうだろうから、ほどほどにね |
レン | ふんふふ~ん♪ |
彰人 | やけに上機嫌だな |
レン | えへへ。さっき、冬弥とちょっと歌ったんだ♪ すっごい気持ちよかった |
ミク | レンが歌いやすいように、 いろいろ気を遣ってくれてたからね |
彰人 | ああ、あいつそういうフォロー上手いからな |
ミク | うん。完璧な子守りだった |
レン | 子守!?もう、心外だなぁ。 コラボレーションって言ってよね! |
レン | あれ、今日はこはねひとり? |
こはね | うん。杏ちゃん、今日は委員会活動で帰り遅いみたいで。 レンくんも、リンちゃんと一緒じゃないの? |
レン | さっきまで一緒だったよ。あとミクも。 リンはミクにまだ付き合ってる。で、オレは休憩中 |
MEIKO | ふふ、ミクがマスターしたい歌があるって、 ちょっと前からずーっと練習してるみたい |
レン | ミク、すっごいこだわっててさ。 付き合わされるこっちの身にもなってほしいよねー |
こはね | ミクちゃんがそんなに練習を……。 どんな歌を練習してるんだろう。早く聴いてみたいな |
レン | ねえねえ、彰人にはお姉さんがいるんだって? どんな人? |
彰人 | は? どんなって……面倒くせえヤツだよ |
レン | あれ、もしかして仲悪いの? |
彰人 | そういうわけじゃねえけど…… |
MEIKO | レン、仲良しだけが 姉弟の在り方っていうわけじゃないのよ |
レン | ふーん。まっ、オレとリンも結構ケンカするしね |
レン | ケンカしちゃったら、オレが相談に乗ってあげるよ。 冬弥の時みたいに! |
彰人 | そうだな。その時は頼んだ |
レン | やっほー、こはね! 今日も元気に歌ってる? |
こはね | うん! レンくんも、リンちゃんと仲良くしてる? |
レン | ぎく…… |
こはね | えっ!? ま、まさかまたケンカを……? |
レン | あははっ! 冗談だよ。 ついさっき、一緒に歌ってきたばっかりだしね |
レン | あれ、珍しい組み合わせだね。 さては……彰人またこはねをイジメてたなぁ? |
彰人 | はぁ……なんでそうなるんだよ |
こはね | えっと、杏ちゃんと青柳くんが 委員会で遅くなるっていう話を聞いてただけだよ |
レン | なーんだ。じゃあふたりももう仲良しなんだね |
彰人 | その、0か100かみたいな言い方なんなんだよ。 別にオレ達は仲良しこよしで組んでるわけじゃねえ |
レン | えー、そんなに照れなくてもいいのに |
彰人 | 照れてねえ |
こはね | ふふっ |
レン | ふたりはさ、あんまり自分から 何かをするタイプじゃないよね |
レン | アグレッシブな相棒で 大変だって思うこととかないの? |
こはね | んー。私は、杏ちゃんをすごいなって思うけど、 大変だって思ったことはないかな |
レン | 冬弥は? |
冬弥 | 彰人は……音楽にも夢にもまっすぐで……。 まっすぐすぎて、自分にも他人にも厳しい |
冬弥 | そういう意味では、 あいつの理想に応えるのはいつも大変だな |
レン | そっか。でもその『大変』は きっと『やりがい』とおんなじなんだね! |
レン | 聞いてよ、杏! オレ、この前ミクの代わりにメイコの店手伝ってみたんだ! |
杏 | そうなんだ! それで、どうだった? |
レン | もちろん、ちゃんとやれたよ。 メイコも、ミクがいない時はお願いしたいくらい、だって! |
レン | ちょっと面白かったし、今度はサンドイッチ作りを 手伝ってみようかなって思ってるよ |
杏 | いいね! じゃあその時はこはねと食べに来ようかな |
レン | うん、来て来て! とびきり美味しいのご馳走しちゃうからさ! |
レン | あ、また来てる |
彰人 | なんだよ。来ちゃ悪いのか? |
レン | だって、学生の仕事は勉強することって言うじゃん? なのに、ふたりとも勉強できないんでしょ? |
杏 | もう、人聞き悪いな。 全然できないわけじゃないよ? |
彰人 | オレだって、そこまで悪くねえよ |
レン | ふーん。けどさ、悪くないって言うだけで、 良くもないんでしょ? |
杏・彰人 | う…… |
レン | はあ。今度のテストも、こはねと冬弥は大変かもねー |
レン | ねえ、彰人は冬弥のピアノとか バイオリンとか聴いたことあるの? |
彰人 | ねえよ。オレがあいつと会った時には もうやめてたみたいだしな |
彰人 | それに、見るのも聴くのも嫌かもしれねえし |
レン | うーん……例えばジャズとかさ。 冬弥がピアノでオレと彰人が歌ったら面白そうなのに |
彰人 | ジャズか……。 歌うだけならともかく、弾くとなるとな |
レン | そっかぁ。でも、いつかやれたらいいなぁ |
レン | あーきとっ! |
彰人 | わ……脅かすなよ。つーか、どっから出てきた? |
レン | へへ、そこの脇道。 このセカイ、いろいろなところに秘密の路地があってさ! |
レン | ねえねえ、向こうでメイコがテラスの掃除してるんだけど、 ちょっと驚かせに行かない? |
彰人 | ……いや、あとが怖いからやめとく。 というか、お前もやめとけ。店、出禁になるぞ |
レン | 杏のお父さんってすごいミュージシャンなんだって? えっと、名前は…… |
彰人 | 謙さんだ。街の音楽好きなら、 知らないヤツはいないってくらい有名な人でな |
冬弥 | 彰人のように憧れたり、 影響を受けてるヤツも大勢いるみたいだ |
レン | へぇ、じゃあやっぱりすごい人なんだね! |
レン | いいなぁ。会えないのはしょうがないけど、 歌とか聴いてみたいな! |
冬弥 | それなら、彰人がCDをいくつか持ってる |
彰人 | ああ。それでよければ今度持ってきてやるよ |
レン | 本当!?うん、聴く聴く! 絶対、忘れずに持ってきてね! |
レン | 彰人、冬弥、今度はいつこっちに来られそう? |
冬弥 | そうだな……定期テストがあるからな。 しばらく空いてしまうかもしれない |
レン | わ、出たテスト! 彰人、大丈夫? |
彰人 | 問題ねえよ。自信もあるしな |
冬弥 | ヤマ勘の、だろう |
レン | うわー、すごい心配 |
冬弥 | ああ。歌に対する真面目さを、ほんの少しでいいから 勉強にも向けてくれればいいんだがな |
レン | んー、冬弥くらい身長があったら、 カウンター席座るのも楽なんだろうけどなぁ |
冬弥 | たしかに、レンの身長だと不便だろうな |
冬弥 | それなら、俺が抱き上げて座らせれば…… |
レン | ええっ! ダメダメ、 それじゃあミクや彰人に笑われちゃうよ |
レン | それに今、かっこいいカウンター席への 座り方を研究中なんだ。だから気持ちだけもらっておくよ |
冬弥 | そうか。見つかるといいな、かっこいい座り方 |
レン | 冬弥と彰人だと、ケンカしたらどっちが勝つの? |
冬弥 | どっちと言われても、 まずケンカをしたことがほとんどないからな |
レン | そうなの? でも、ゼロじゃないんでしょ? じゃあ、そのときの勝敗は? |
冬弥 | そうだな……お前達にも迷惑をかけてしまった “あのケンカ”の時は、俺の負けかもしれない |
レン | ああ、あの時ね! |
レン | でも、2年も組んでるのに ケンカがほとんどなかったなんてすごいや。 オレなんてリンとケンカしてばっかりだよ? |
冬弥 | いいんじゃないか。 俺にはそれが、レンとリンらしい気がする。 |
MEIKO | コーヒーって、ちょっと手間をかけるだけで、 香りも味も全然違うわね。 |
MEIKO | こうなったら、焙煎前のコーヒー豆の選別も やってみようかしら |
MEIKO | あ、レン! いいところに。 これ、カフェのデザートの試作品なんだけど…… |
レン | えっ、食べていいの!? やったー! |
MEIKO | はい、ストップ! リンと仲良くわけるのよ? |
レン | はいはい。子供じゃないんだから、 ひとり占めなんてしないよ |
MEIKO | その言葉、忘れないでね。 あと、食べた感想もちゃーんと聞かせてね! |
MEIKO | あら? こはねちゃん、なんだか元気ないわね |
こはね | あ……実は、東雲くん達と杏ちゃんと、 4人で練習したんですけど、 なんだか、私だけ息が合わなくて…… |
レン | そうなの? こはね、あんなに歌上手いのに |
MEIKO | ……経験の差、かしら。 あの子達、誰かと歌うことにかなり慣れてるから |
レン | そっか。となるとづぐには埋まらない、よね |
MEIKO | こればかりは仕方がないわ。 焦らず、経験を積んでいきましょう? |
こはね | そう、ですよね。 杏ちゃん達もそう言ってくれましたし。 ……よし、頑張ります! |
MEIKO | えっと。ここがこうだから、こっちがこうで……。 うーん。接触不良ってところかしらね |
冬弥 | ん? レン、メイコさんは何をしてるんだ? |
レン | オレが使ってるスピーカーの調子が悪くてさ。 見てもらってるんだ |
冬弥 | メイコさん、直せるんですか? |
MEIKO | 本格的に壊れちゃってたらちょっと難しいわ。 でも接触不良くらいなら、こうやって軽く……えいっ! |
レン | た、叩いた!? |
冬弥 | ……! 音も出た…… |
MEIKO | ふふ。背中を叩かれるとちょっと気合入るでしょ。 それと一緒よ。あ、でも優しくね? |
レン | そっか! メイコ、すげー! |
冬弥 | (そう、なのか? いや、直ったんだからいいのか) |
MEIKO | コーヒーの淹れ方を教えてほしい? |
こはね | はい。いつも杏ちゃんが紅茶をごちそうしてくれるので、 私はコーヒーを淹れられるようになれたらなって |
MEIKO | ふふ、いいよ。じゃあちょっとやってみる? |
こはね | ありがとうございます、メイコさん! |
MEIKO | でも、教えるからにはビシバシ行くわよ? |
こはね | はい! よろしくお願いします! |
MEIKO | はい、冬弥くんのブラックと、 こはねちゃんのカフェラテ。お待ちどうさま |
こはね | ありがとうございます、メイコさん |
冬弥 | ……小豆沢は、牛乳が好きなのか? |
こはね | え? |
冬弥 | ホットミルクとか、ラテとか、 牛乳を使った飲み物を頼むことが多い気がする |
MEIKO | あ、そういえばそうね…… |
こはね | 自分では意識したことなかったけど、 もしかしたら、好き……なのかな? |
MEIKO | 杏ちゃん、いらっしゃい。 お父さんのお店の手伝いはいいの? |
杏 | うん。バー営業の時間になると、 未成年じゃできることはほとんどなくて |
MEIKO | あら? それじゃあお家に帰って宿題とか 明日の予習をやるっていう選択肢もあったんじゃない? |
杏 | う……それは…… |
MEIKO | ふふ。はい……これを飲んだらお家に帰って やらなくちゃいけないことをするのよ? |
杏 | はーい。 メイコさんにはかなわないなぁ |
MEIKO | お父さんのお店で、いろいろ手伝ってるんだって? 親孝行ね |
杏 | そうかな?私はただお店に来てくれる人達と 話したいなって思ってやってるだけだよ |
MEIKO | ああ、お客さん、お父さんのファンや 地元のミュージシャンの人達が多いみたいね |
杏 | うん。しかも長いつきあいの人も多いから、 接客っていうより、もう世間話だね |
MEIKO | ふふ。杏ちゃんを見てると、お父さんのお店の アットホームな雰囲気が伝わってくる気がするわ |
MEIKO | 冬弥くんはコーヒーの好みいろいろ教えてくれるけど、 彰人くんには好みとか、こだわりとかないの? |
彰人 | 別に。美味けりゃ美味いで文句ねえよ |
MEIKO | そう? あ、じゃあ嫌いな食べ物は? |
彰人 | え、別にねえよ…… |
MEIKO | あらー? それは別にっていう顔じゃないわよね。 恥ずかしくて言いにくいものってことかしら。例えば…… |
彰人 | あ、オレ急用思い出したんで帰ります。じゃあ! |
MEIKO | あら、いらっしゃい。ちょうどよかった ちょっとしたアンケートに協力してくれない? |
彰人 | まあ、いつもお世話になってるんで、別にいいですけど |
MEIKO | ずばり、デザートメニューなんだけど。 チーズケーキとシフォンケーキのほかに 何か食べたいものある? |
彰人 | あー……じゃあ、パンケーキ |
MEIKO | ふふ、意外とかわいいチョイスするのね。 デザートというよりサイドメニューだけど、考えておくわね! |
MEIKO | 冬弥くん、いつものブラックでいい? |
冬弥 | はい。お願いします |
MEIKO | 本当にコーヒーが好きなのね。 ふふ、いつも美味しそうに飲んでくれて、 マスター冥利に尽きるわ |
冬弥 | 俺のほうこそ、少しずつ好みに寄せてもらって……。 味の違いを感じるのが楽しいです |
MEIKO | あ、さすが! 気づいてたのね。 近いうちに、好みのど真ん中にぴったり寄せてあげるわね |
MEIKO | あら? 冬弥くん、なんだか疲れてない? |
冬弥 | …………。家を出る前に、父親とちょっと…… |
冬弥 | 出かけようとすると、どこに行くんだとか 誰と会うんだとか、しつこく聞かれて困ってます |
MEIKO | ……親だもの。子供の心配をするのは当たり前よ |
MEIKO | でも……わかってもらえるといいわね。 冬弥くんが本当にやりたいこと |
冬弥 | ……そうですね。 いつかそうなれたら…… |
こはね | ミクちゃんと一緒に歌うと、杏ちゃん達の時とは ちょっと違うどきどきが胸の中にあふれてくる…… |
ミク | 組む相手や歌う曲、歌う場所……。 その数だけいろいろなどきどきがあるんだよ |
こはね | そっか……。 私、もっといろいろなどきどきに出会いたい! |
ミク | そうだね。でも、こはねなら出会うだけじゃなくて、 自分自身で新しいどきどきもつくっていけると思うよ |
こはね | あ、レンくん。もしよかったら、 一緒に歌ってくれないかな |
レン | え、こはねとオレで? |
こはね | うん。私はとにかく経験が全然足りてないから、 杏ちゃん達以外の人とも歌ってみようかなって |
こはね | でも私、ビビッドストリートには 知り合い全然いないから…… |
レン | そういうことなら、喜んで協力するよ! けど、オレについてこられるかな? |
こはね | ありがとう、レンくん。 私、頑張る! |
こはね | あ……メイコさんカラーの赤いドリッパーだ。 新しくしたんですか? |
MEIKO | ふふ。これはまだお試しの段階よ |
MEIKO | ドリッパーの形とか内側についてる溝とか ちょっとした違いで、コーヒーの抽出の速度が変わるから |
MEIKO | よかったら飲み比べ一緒にやってみる? |
こはね | いいんですか? やってみたいです! |
こはね | メイコさん、お店のお手伝いって ミクちゃんしかいないですね |
杏 | じゃあ開店準備とか、食器洗いとか掃除とか、 すごく大変じゃない? |
MEICO | そうでもないわよ。 そもそも、お客さんがすごく限られてるし |
MEIKO | でも、お手伝いならいつでも大歓迎よ! |
こはね | 本当ですか?いつもお世話になってるし、 何かできることがあったらしたいです |
杏 | 私も。父さんのお店でいろいろ手伝ってるし、 ちょっとは役に立てると思うよ! |
MEIKO | ふふ、ありがとう。 じゃあ、今度お願いしちゃおうかしら |
こはね | ふたりって、もともと音楽が好きだったの? |
杏 | んー、私は父さんがミュージシャンだったし、 歌や音楽がある生活が当たり前でさ。 好きっていうより、身体の一部……みたいな? |
こはね | そっか。東雲くんは? 杏ちゃんのお父さんと会う前から音楽好きだったの? |
彰人 | まあ、普通のヤツらと同じ程度には。 はまったのは、やっぱ謙さんと出会ってからだな |
こはね | きっかけは、『RAD WEEKEND』だよね。 いいな、私も見てみたかったな…… |
杏 | でも似たような……ううん、それ以上の体験ができるよ。 私達で、あの夜をこえるイベントをつくれば、ね! |
こはね | ……! うん、そうだね! |
こはね | こうやって一緒に歌うのももう何回目かな? |
杏 | もう、数えきれないくらい歌ってるよね |
冬弥 | ……そういえば、白石はどうやって 小豆沢を相棒に選んだんだ? |
杏 | こはねがうちのお店に来てくれた時、 ちょっとだけ歌を口ずさんでたのを聴いたの |
杏 | その瞬間に、これはもしかして……って予感がしてね! |
こはね | あの時びっくりしたなぁ。 急に歌ってみてって言われて |
こはね | でも、あの日から始まったんだよね |
杏 | そうそう。それからなんだかんだあって、 今じゃ4人で歌ってるなんてね |
冬弥 | ああ。今では、当たり前になりつつあるな |
こはね | うん、これからも4人で頑張っていけるといいよね! |
こはね | あ……何か聞こえる。楽器、かな。 えっと、ベース? |
冬弥 | いや、コントラバスだな。 メイコさんの店で、レコードでも流しているのかもしれない |
冬弥 | リクエストすると、ジャズも流してくれるからな |
杏 | へぇ、そうなんだ! それにしても、さっすがメイコさん。 いい曲とかいろいろ知ってるんだろうなぁ |
こはね | うん。……この曲も、もっとちゃんと聴きたいな。 杏ちゃん、青柳くん。メイコさんのお店にはやく行こ? |
こはね | 東雲くん、ヒューマンビートボックスが出来るってホント? |
彰人 | は? なんだよいきなり |
こはね | えっと、青柳くんが教えてくれて……。 ちょっと見たいな……なんて…… |
彰人 | あいつ…… |
彰人 | はあ……まあ、そのうち機会あるだろ。そのうちな |
こはね | あ……またどこかでミクちゃんが歌ってるのかな |
彰人 | ひとつひとつのリリックがしっかりしてて、ブレがない |
彰人 | バーチャル・シンガーおして歌ってるならまだしも、 実際、目の前で歌われると、 もうスゲえとしか言いようがないな |
こはね | うん。滑舌の訓練とかしてるのかな? |
彰人 | まあ、まず大前提として、自分の声質を活かす歌い方を ちゃんとしてるっていう感じがあるしな |
こはね | そっか、そういうことも歌には大事なんだね |
こはね | ここにも、ビビッドストリートにも、 こういう落書き…… |
こはね | あ、グラフィティアートって言ったほうがいいのかな? |
冬弥 | いたずらと思うか芸術と思うか、 人それぞれだろうな |
彰人 | だな。落書きにしか見えないやつもあれば 時どき、これは!って目を引かれるもんもあるよな |
彰人 | まっ、大体許可なく描いてるもんだし、 ダメなんだけどな |
こはね | うん。でも……。 かっこいいなって思っちゃう自分もいるんだよね |
冬弥 | ああ。歌に不思議な魅力があるように、 絵にもそういう力があるんだろうな |
こはね | あ、あの……青柳くん。歌について勉強したいんだけど、 何から始めたらいいと思う? |
冬弥 | それは、歌い方の手法について、か? |
こはね | うん。私、なんとなくこう歌えたらかっこいい、 楽しいなっていうイメージだけで歌ってるから…… |
冬弥 | 俺もそのあたりは割と我流だが……。 とりあえず、表現の種類や用語は知っておくといい |
冬弥 | 無意識にもうしている表現もあるかもしれないが、 知っていることでより効果的に使えるようになるかもしれない |
こはね | 表現の種類と、用語……うん、そうする! ありがとう、青柳くん |
杏 | メイコさんのお店って本当にオシャレ。 レイアウトはメイコさんが? |
MEIKO | ええ。でも、決める前には ミクやリンに意見を聞くこともあったわ |
レン | えー、ミクとリンだけ? オレは? |
MEIKO | ちゃーんと聞いたわよ。 全然興味なさそうだったけどね |
杏 | そういえば、私も父さんがお店を開く前に、 あれこれ聞かれた気がするけど…… |
杏 | その頃は、歌うこととか相棒を探すことが楽しくて、 何を聞かれたか全然覚えてないな |
レン | だよねだよね! 楽しいことがあると、 そっちに全部気が持って行かれちゃうよね |
MEIKO | こらこら。 意見を聞きたい側の気持ちも考えなさいね |
杏 | 相棒との活動で気をつけてることとかあるの? |
レン | んー、リンとケンカしてたオレが言うの恥ずかしいけど、 相手をよく見る、かな |
レン | 何がしたいんだろうとか、何が言いたいんだろうとか、 顔を見ればなんとなくわかるから |
レン | あ、冬弥は別かも |
杏 | 確かに……難易度高いよね。 でもまあ、そこは彰人が頑張るでしょ |
杏 | 知り合いにDJがいるからなんとなくわかるんだけど、 レンくんって相当技術高いよね |
杏 | 自分が中心になってお客さんを盛り上げられるし、 バックでサポートもできるし |
レン | えへへ、そうだよねー! オレってなかなかやるよね! |
MEIKO | そうね。これでもう少し大人になってくれたら、 リンとのケンカも減るのにね |
レン | えー、それじゃあまるでオレだけが子供みたいじゃん? リンが悪い時だってあるもん |
MEIKO | まったく。そういうところよ |
杏 | メイコさん、実はテストが近くて 勉強したいんだけど、いいかな? |
MEIKO | ええ、いいわよ。 好きに使ってちょうだい |
こはね | ありがとうございます! |
こはね | この時期、勉強禁止にしてるお店も多くて どこでやろうか困ってたので |
MEIKO | ふふ、役に立ててよかったわ。 思う存分勉強していきなさい、学生諸君 |
杏・こはね | はーい |
杏 | メイコさんって本当にすごいね |
杏 | さっき聞いたんだけど、美味しいコーヒーを淹れるために 豆の選別までしてるらしいよ |
冬弥 | そうなのか |
レン | なになに。それって、すごいの? |
冬弥 | ああ、形が悪くないかとか、カビが生えていないかとか、 いろいろなことを目で見て、一粒一粒判断していくんだ |
レン | えっ、一粒一粒って……。 お店のビンに入ってるあれ全部!? |
杏 | だろうね。……あの美味しいコーヒーは、 本当に手間暇かけて淹れられてたんだね |
冬弥 | ああ。今度ごちそうになる時は、もっと味わって飲まないとな |
杏 | そういえば、この壁のグラフィティアート、 ビビッドストリートで見かけるのと似てるんだよね |
冬弥 | ああ。だがビビッドストリートのは スペルが間違ってるが、ここのは正しいスペルになってる |
杏 | スペル? あ、そっか! そこがちょっと違うように見えたんだ |
杏 | んー、歌も生まれちゃうくらいだし、 スペルチェックもセカイの不思議効果だったり? |
MEIKO | 実はね、ミクがどーしても気になるって言うから、 私達で描き直したの |
MEIKO | 正しいスペルのほうが、 描いた誰かの想いがわかるかもしれないからって |
冬弥 | そうですね。俺もこっちのほうがいい。 落書きとはいえ、 伝えたい何かがあるなら伝わったほうがいい |
MEIKO | ふふ、そうね |
杏 | すごいね、メイコさん。 軽食のマフィンとか手作りらしいよ |
こはね | そうだったんだ! あんなに美味しいマフィン作れるなんてすごい |
杏 | あはは。それ、今私が言ったのとほとんど一緒じゃん |
こはね | え、あっ、そ、そっか。 他に、言葉が出てこなくって |
杏 | ふふ。美味しいものは素直に 美味しいって言うしかないもんね! |
杏 | ねえ、こはねがあんたの ヒューマンビートボックスを見たがってるんだけど |
彰人 | ああ、そのうちな |
杏 | なんで? 別にパパっと見せてあげればいいじゃん |
彰人 | 見せびらかしてるみたいで嫌なんだよ |
杏 | え、なんで? 私、歌ってって言われたら普通に歌うけど |
彰人 | ……お前と一緒にすんな |
杏 | ひょっとしてさ。彰人もあの夜、あそこにいたの? |
彰人 | あの夜……ああ、『RAD WEEKEND』のことか |
彰人 | まあな。たまたま通りがかったら 盛り上がってる声とか歌とか聞こえてきて…… |
彰人 | 何かに引っ張られるみたいに、 気づいたら会場の中に入ってた |
こはね | 『RAD WEEKEND』かあ。 本当にすごいイベントだったんだね |
杏 | 彰人みたいにあれきっかけで歌始めた人も、 結構いるみたいだしね |
こはね | へえ……あ、じゃあ、もしかして その人達みんな、『RAD WEEKEND』を目指してる ライバルだったりするのかな |
彰人 | そういうヤツらも、少なからずいるだろうな。 けど、いちいち怖気づいてんじゃねえぞ |
こはね | う、うん! やるって決めたんだもん、頑張る |
杏 | さすがこはね! 頼りにしてるよ! |
杏 | ねえ。レンくんやリンちゃんと私達で、 ここに新しい落書きをしちゃおうって 話してるんだけどどう? |
冬弥 | いいのか、そんなことをして |
杏 | メイコさんの許可はとってるから大丈夫! |
杏 | 彰人、あんたたしか画家の息子でしょ。 ちょっと腕前見せてよ |
彰人 | 何を期待してんのか知らねえが。 別にそうたいして上手くねえぞ |
杏 | それが謙遜か本気かは描いてみせてもらうとして……。 冬弥も、もちろんやるでしょ! |
冬弥 | ……今の言い方、拒否権がないように聞こえたんだが? |
杏 | ひとりだけ見てるなんてつまんないじゃん。 というわけで全員参加ね! |
杏 | ふふ、当日が楽しみ! |
杏 | この世界にある機械、 ちょっとレトロだけど、いい音出すよね |
冬弥 | メイコさんの手入れが行き届いてるんじゃないか? |
彰人 | そうだな。けど、そう考えるとメイコさん大変だな。 店の切り盛りに、こういう設備の手入れまでしてるなんて |
杏 | だからミクはメイコさんを手伝ってるのかもね |
冬弥 | たまには俺達も何か手伝うか |
彰人 | そうだな。今度聞いてみるか |
彰人 | お前、本当にミクなんだよな? |
ミク | そうだけど、今更どうしたの? |
彰人 | いや、やっぱオレが知ってる初音ミクと姿も 雰囲気も違うっつーか…… |
ミク | 私はこのセカイのミクだからね。 まあそこは難しく考えるより、慣れて |
彰人 | 慣れてって……まあ、ごちゃごちゃ説明されるより そっちの方が楽だけどよ |
ミク | ふふ。でしょ? |
彰人 | なあ、ここのカフェには甘いものとか置いたりしないのか? |
MEIKO | 甘い物? 例えば……パフェとか、パンケーキとか? |
彰人 | そう、それ! パンケーキ! |
レン | へぇ、彰人ってパンケーキ好きなんだ? あはは、ぜんぜんっぽくないのに |
彰人 | ぽくないってなんだよ……。 まっ、コーヒーに砂糖山ほど入れてるような、 見たまんまなヤツからするとそうかもなー |
レン | あっ、何それー。子供っぽいってこと? |
MEIKO | ふふ。ほら、そこまで。 近いうちに、他のみんなも呼んで、 パンケーキの試食会を開きましょう |
彰人 | なあ、メイコさん。ちょっといいか? |
MEIKO | あら、彰人くんにこはねちゃん。 珍しい組み合わせね |
こはね | 杏ちゃんと青柳くんは委員会があって まだ学校なんです |
彰人 | で、どうせそろうまでひまだから、 こいつにいろいろなマイクを試させようと思ってさ |
彰人 | ほら、マイクによって歌の聴こえ方とか、 クセっていうか、いろいろ違ったりするだろ? |
MEIKO | それを体感させておきたいってことね |
MEIKO | オッケー!参考になりそうなマイク見繕ってあげる。 そこでちょっと待ってて |
彰人 | あの壁の『RAD WEEKEND』のフライヤー、 懐かしいな |
杏 | ……あれ、うちにも1枚も残ってないんだよね |
杏 | まあ、記念に取っておく、なーんて 父さんガラじゃないし…… |
杏 | けど、また見られてちょっと嬉しいな |
MEIKO | ふたりにとっては、夢を持つきっかけになったイベントだものね |
MEIKO | 大丈夫。ここへ来ればいつでもあそこにあるわ |
MEIKO | ここはそういう場所だからね |
彰人 | ……ここ、落書きはあちこちにあるくせに、 妙にキレイだよな |
こはね | そうだね。キレイにしてくれる人がいるのかな? |
杏 | どうだろう? そもそも、 ゴミをポイ捨てするような人、いないんじゃない? |
こはね | そっか、ここで会うの ミクちゃんやメイコさん達だけだもんね |
こはね | あ、でも、ビビッドストリートも 他の通りよりキレイだなって思うよ |
彰人 | それはそうだろ。通りに店だしてる人達が、 定期的に掃除してくれてんだから |
こはね | そうだったんだ! |
こはね | (初めて行った時は雰囲気だけで怖がっちゃったけど、 あそこの通りの人達は、いい人達ばっかりなんだな……) |
彰人 | お前、普段からちゃんと歌の練習とかしてんだろうな? |
こはね | あ、うん。杏ちゃんとも練習するし、 あと、家でもちょっと練習してる |
こはね | ご近所に迷惑だから、夜遅くとかダメだし、 そんなに大きな声出せないけど |
彰人 | 練習してるならいい。 なるべくサボんなよ。駆け出しのひよっ子なんだからな |
こはね | うん! |
冬弥 | (……ひよっ子、か。 俺達が活動を始めた時、謙さんに同じこと言われたな) |
彰人 | あ……おい、レンがお前らを探してたぞ |
杏 | え? なんだろ? |
彰人 | 一緒に歌おうっていうお誘いだろ。 こっちもついさっきされた |
杏 | へぇ、レンくんって確かDJだったよね。 どんなパフォーマンスするか楽しみ! |
彰人 | まあな。まだ店にいるはずだし、 ついでに話、聞いて来いよ |
彰人 | ここ便利だよな。いつでも練習させてもらえるし |
冬弥 | 疲れたら休憩できるカフェもあるしな |
杏 | まあね。 けど、私はあんまり入り浸ってもいられないな |
杏 | うちの店、そんなに大きいほうじゃないけど、 父さんひとりでお客さんさばききれないだろうし |
杏 | って、そろそろお店の手伝いに戻らなきゃ! あんた達は? |
冬弥 | 俺達はもうしばらく練習していく |
彰人 | ああ。寄れたら寄る。 謙さんによろしくな |
杏 | はいはーい。じゃあまたお店でね! |
彰人 | 客を前にして歌うのもいいけど、 たまにはこっちで、ふたりだけで歌うのも気持ちがいいな |
冬弥 | ああ、すごく歌いやすい |
彰人 | ま、雑踏とかなくて、お互いの声も、 微妙な音程も聞き取れるしな |
冬弥 | 聴いている人たちのリアクションを気にせず、 お互いの声だけを意識して歌えるのも大きい |
彰人 | 確かに。オレ達にしては珍しい歌い方かもな |
冬弥 | ああ。これはこれで楽しいな |
冬弥 | ミク、しばらくここで 歌の練習をしていても構わないか? |
ミク | 別にいいけど、どうかしたの? |
冬弥 | ……父さんと、少しもめた。 それで、部屋では練習しづらくなってしまった |
ミク | そう……。私はメイコの店にいるから、 練習終わったら寄ってよ |
ミク | そしたらきっとメイコが とびきり美味しいコーヒーをご馳走してくれるよ |
冬弥 | そうだな。あとで必ず寄る。 ……ありがとう、ミク |
冬弥 | ……いつものBGMと音の聴こえ方が少し違う気がする |
MEIKO | ふふ、さすが耳がいいわね。 これ、レコードで流してるの |
レン | ねえ、冬弥はさ! レコードがどうやって音を出してるか知ってる? |
レン | 実は表面にデコボコがあって、 それを針がなぞった振動で音が出るんだよ! |
冬弥 | ああ、知っている。 父親がコレクションしているものがあるからな |
レン | ちぇっ、知ってたのかー |
MEIKO | ふふ。知識自慢する相手を間違えたわね |
冬弥 | メイコさんがいれてくれるコーヒー、美味いな |
こはね | うん。杏ちゃんのお父さんがいれてくれるものとは、 なんだか違う感じの美味しさだよね |
冬弥 | 濃さや煎り方がきっと違うんだろうな。 試しに、同じ豆のコーヒーも飲んでみたが違って面白かった |
こはね | ふふ。さすがコーヒー好き。もういろいろ試してるんだね |
こはね | 私、ついいろいろトッピングお願いしちゃうけど、 次はブラックで飲んでみようかな |
冬弥 | ……メイコさんの店、またメニューが増えてるな。 今度はサンドイッチか |
こはね | えへへ。実はそれ、私がリクエストしたんだ。 ちょっと小腹がすいた時に食べられたら嬉しいなって |
こはね | そういえば、青柳くんも前に何かリクエストしてたよね |
冬弥 | ああ。コーヒーのブレンドを。 いろいろ自分の好みに合いそうな豆を試させてもらった |
杏 | んー、お客さんのリクエストに即座に柔軟に対応か…… |
こはね | 杏ちゃん? |
杏 | あ、ごめんごめん。 ちょーっとライバル心っていうか、対抗心ていうか |
杏 | (うかうかしてたら、 常連ふたりが持って行かれちゃうかもしれないしね) |
冬弥 | 小豆沢は、動画を見て歌の練習をしていたんだよな |
こはね | うん。これかっこいいなって思う歌い方を マネしてみたりしてたよ |
彰人 | ふーん。そこから今のお前の歌い方ができてきたわけか |
こはね | 私の、歌い方……? |
冬弥 | 同じメロディーで同じ歌詞を歌うとしても、 お前と白石とでは表現の仕方が違うだろう |
彰人 | まあ、クセとか個性みたいなもんだな |
冬弥 | しっかり把握してうまく活かすことができれば 自分らしい歌い方を確立できる |
こはね | 自分らしい、か……! |
こはね | 私、まだ自分がどんな風に歌えるとか、 何が自分らしいとかよくわかってないから考えないとだね! |
冬弥 | ……白石は、謙さんから音楽をやれと 言われたわけじゃないんだろう? |
杏 | まあね。音楽、というか歌が身近にあるのが 当たり前だったし |
杏 | それに……自慢じゃないけど、 うちの父さんカッコイイじゃん? |
杏 | あんな姿見せられちゃったらねー。 やりたいって思わない方がおかしいっていうか |
冬弥 | そうだな。俺も同じ立場なら、 きっと同じことを思っただろうな |
冬弥 | ……遅いな、レン |
彰人 | だな……。この落書き前に集合って、あいつが言ったのに |
彰人 | ……なあ。この落書きで、合ってるんだよな? |
冬弥 | たぶん、な。だが、少し自信がなくなってきた |
彰人 | はぁ、もうちょい待って来なかったら、探しに行くか |
ミク | るんるんるるーん♪ るんるんるるるるーん♪ |
ミク | えへへっ、今日もたっくさんたっくさん、 楽しいショーをやっちゃおー☆ |
ミク | カイトー! ついに完成したよっ☆ ぬいぐるみ大砲~♪ |
KAITO | ぬ、ぬいぐるみ大砲……? |
ミク | うん! ぬいぐるみのみんなが中に入って、 すぽぽぽぽぽぽーんって飛ぶの! |
ミク | 軽いから、火薬じゃなくて 空気圧だけで飛べるよーって、類くんが設計してくれたっ☆ |
KAITO | 最近よく見かけると思ったら、 これのためにわざわざくてくれてたのか…… |
KAITO | まあ、危なくないなら、いいかな |
ミク | ねえねえ、カイト! 衣装が欲しい! |
KAITO | え……衣装? ミクの衣装なら舞台裏にいろいろ…… |
ミク | ミクのじゃなくて、ぬいぐるみくん達! ミク達だけあるなんて、ふびょーどーだもん |
KAITO | そうだね。ショーを一緒につくりあげる仲間なんだから 衣装を着させてあげたいね |
KAITO | でも、数が多そうだし僕ひとりじゃ難しいな。 ミクも手伝ってくれるかい? |
ミク | うん、なんでも手伝う! |
KAITO | よし、デザインに採寸、材料集め。 いろいろあるから、手分けして頑張ろう! |
ミク | 寧々ちゃん、もうみんなとは普通に話せるようになった? |
寧々 | ネネロボなしでっていうこと? それなら、まあ…… |
寧々 | でも、ステージに立つ時はまだ…… |
KAITO | ネネロボちゃんと一緒じゃないと不安なんだね |
ミク | 大丈夫♪ 寧々ちゃんにはみんながついてるよっ☆ |
KAITO | うん。それに僕達も力になりたいな |
寧々 | あ、ありがとう……ミク、カイトさん |
ミク | 寧々ちゃん、ネネロボちゃん、こんにちはっ☆ |
寧々 | あ、ミク、カイトさん。 ふたりとも段ボールの箱なんて持って何してるの? |
KAITO | これからショーなんだけど、 出てくれる予定のぬいぐるみくん達を迎えに行くんだ |
ミク | ショーの前に疲れちゃわないように いつもこうやって運んであげてるんだよ♪ |
寧々 | へぇ…… |
KAITO | 寧々ちゃん、良かったら君も手伝ってくれないかな |
寧々 | え……いいの? |
ミク | もっちろん♪ それじゃあ、3人でみんなをお迎えに行こーう! |
ミク | ネネロボちゃんがつくれちゃうなら、 類くんならもう何でもつくれちゃうね♪ |
類 | フフ。完成するまでには、 あれこれ試行錯誤が必要だけどね |
類 | 狙った通りの見栄えにならなかったり、 効果が生まれなかったり、やることは多いよ |
KAITO | そういえば、技術的な専門知識は 類くんしか持っていなかったね |
ミク | あっ、じゃあ『みんなに手伝ってもらう』が できないんだ? |
類 | たしかに、技術的な協力は得られない |
類 | でも、自分にしかできないことというのは、 名誉なことでもあるからね。 不便だとか、面倒だとか思ったことはないよ |
KAITO | そうか。さすがは類くん。頼もしいね! |
ミク | えへへ。次のショーでね、ミク達楽器を演奏するの! だから、司くんもやろう♪ |
司 | なにが『だから』なのかはよくわからんが、 ピアノがあるなら参加してやってもいいぞ |
ミク | ピアノ? 司くん、弾けるの!? |
司 | 母親がピアノの講師でな。オレも小さい頃に習っていた。 今でもそれなりには弾けるぞ |
ミク | すごーい! じゃあ司くんはピアノね! よーし、カイトにお願いして準備してもらわなくっちゃ! |
ミク | 寧々ちゃん、みぃーつけた。 逃がさないぞー |
寧々 | えっ……な、何!? |
ミク | クックックッー。さあ……、 ミクと一緒に歌うのだー♪ |
寧々 | う、歌? もう……芝居がかかった顔するから何かと思った |
寧々 | いいよ別に。 ここに来たの、練習するためだし |
ミク | やったぁ、なのだー |
寧々 | えっと……もう普通にしゃべったら? |
ミク | ねーねちゃん! |
寧々 | ……そっち、ネネロボ |
ミク | わわっ、間違えちゃった! ごめんね、ねーねちゃんっ☆ |
寧々 | だから、違う……って、わざとやってる? |
ミク | えへへ、寧々ちゃんがツッコミしてくれるの楽しい♪ |
寧々 | はぁ……これでちっとも悪気がないんだから もう驚きしかないよ…… |
ミク | 類くん、えむちゃんから聞いたよっ☆ ステージでぎゅぎゅっばばばーんしたんだって? |
類 | ぎゅぎゅっばばばーん……ああ、 司くんをポップアップで打ち上げたアレかな |
ミク | そうそう! お空に司くんが飛んだやつ! こっちでもやれないかなぁ? |
類 | 資材がどうにかなればつくれると思うよ |
類 | (それにしても、オノマトペの使い方がえむくんと どこか類似している。ふふ、面白い共通点だ) |
ミク | 類くんはネネロボちゃんだけじゃなくて、 ステージの仕掛けまで自分でつくっちゃうんだね! |
類 | だいたいは、もともとあった設備を使えるようにしたり ちょっと応用したりするだけだけどね |
類 | 特にステージの仕掛けは、安全性の問題もあるからね。 必要以上にいじったりはしないんだ |
ミク | 安全性……じゃあ、 類くんが作ったものはみんな安全なんだ |
ミク | でも、司くんはいつもドギマギしてるよね |
類 | フフ。僕なりに安全であることは 伝えているつもりなんだけど、不思議だね |
レン | あはは。メリーゴーランドや汽車が空を飛んでるなんて、おっもしろーい! |
レン | こんなセカイでやってるなら、カイト達のショーもきっとすっごくおもしろいんだろうなぁ! |
レン | ショーの種類もいろいろあるってミクも言ってたし、あ~、もう待ちきれないよー! |
レン | ボクもカイトの劇団に入るんだから、演技の練習しないとね! さて、カイトが貸してくれた台本を使って、と…… |
レン | へえ、これ主人公が騎士の話なんだ。 あっ、このシーン! ライバルの騎士に向かって言うセリフ、カッコイイ! |
レン | えっと……剣を構えて、お互いにらみ合って……。 んー、これで合ってるのかな? |
レン | やっぱり、カイトにお願いして、 見ててもらいながら練習しよっと! |
レン | 演技って面白いなぁ。王子になったり、 魔法使いになったり、海賊にだってなれちゃうし! |
レン | 『さあ、ヤロウどもー! いかりを上げろー! おもかじいっっぱーい!』 |
レン | 『伝説の秘宝はオレ達がみつけるんだ! えいえいおー!!』 |
レン | な~んてねっ♪ そのうちヒーローの役もやってみたいなぁ |
レン | ミクはさ、あの空を飛んでる汽車に乗ったことある? |
ミク | うん♪ ぬいぐるみくん達とも司くん達とも乗ったよ! |
レン | 司くん……あっ、このセカイの想いの持ち主だよね! |
ミク | そっか! レンはまだ会えてなかったよね。 今度みんなに紹介しなくっちゃ! |
ミク | みんなとのショー、すっごくすっごく楽しいんだよっ☆ |
レン | ホント!? えへへっ、司くん達、か。会えるの楽しみだよ! |
レン | ねえねえ、ミク! カイトといろんなショーを やってるって聞いたけど、どんなショーがあるの? |
ミク | え~と、昨日はマジックショーをやったよ♪ 身体が浮いちゃう空中浮遊とか、瞬間移動とか! |
レン | すごいじゃん! ほかにはほかには!? |
ミク | あとはカイトが入ってる箱に、 グサグサ~って剣を刺していくやつだよ♪ |
ミク | 刺すときの慌てるカイトの演技、すっごかったよ! まさに迫真の演技っていう感じだった! |
レン | そうなんだ! ねえ、ボクそれ見てみたい! |
ミク | いいよっ♪ じゃあカイトにもお願いしに行こ~う! |
レン | ねえっ、ミク、カイト! ボクの演技、上手くなってきた? |
KAITO | ああ、すごく自然に役になりきれていると思うよ |
ミク | うん♪ この前の王子様の役、すっごくかこよかった♪ |
KAITO | それじゃあ次は、ちょっと大人の役とかも やってみてもらおうかな |
レン | 大人の役!? |
KAITO | うん。例えば王子様も、今の少年じゃなくて、 青年の王子様をやってもらうとか…… |
KAITO | 年齢が変わるだけで演技もかなり変わってくるから、 ちょっと難しくなるよ |
レン | 大丈夫! だって、演技楽しいもん! ちゃんと頑張れるよ! |
ミク | おー! 気合い十分だねっ★ |
KAITO | うん。それじゃあ、さっそく明日からやってみよう |
レン | おー! |
KAITO | それではみなさん! 楽しい楽しいショーの始まりだー! |
KAITO | ……いや、「始まりだ-」でしめるなら、 みなさん、はちょっと固いか…… |
KAITO | さあ、みんな! 楽しい楽しいショーの始まりだよー! |
KAITO | あ……今のは結構しっくりくる。 今日はこれで挨拶をしようかな! |
KAITO | よいしょっと……ミク、こんなにたくさんの フラフープを引っ張り出してどうするんだい? |
ミク | えむちゃんと寧々ちゃんと一緒に フラフープ何本回せるか競争するんだよ |
KAITO | えむちゃんはともかく、寧々ちゃんも居るのかい? |
ミク | うん、ネネロボちゃんで参加するって! すごいんだよっ! 10本まとめてぎゅいんぎゅいんって♪ |
KAITO | フラフープを10本!? あのネネロボちゃんが!? |
KAITO | ネネロボちゃんがすごいのか、 それとも寧々ちゃんの操作技術がすごいのか…… |
KAITO | どっちにしても面白そうだね。 その勝負、立ち会わせてもらおうかな! |
KAITO | ミク、今度のショーの打ち合わせをするよー! |
KAITO | ミクー! おかしいな、このあたりでぬいぐるみ達と 楽しそうに話してたと思うんだけど…… |
KAITO | おーい、ミクー! ……って、あっ! |
ミク | わぁっ、バレたっ☆ みんな逃げろー! |
KAITO | あっ、みんなも! コラ、待てー! 打ち合わせが始められないじゃないかー! |
KAITO | 君達のショーは、司くんが脚本を書いているんだね |
司 | 今のところはそうなっているな |
司 | だいたい、寧々はともかく、 類やえむにやらせたらオレの身体がどうなることか! |
KAITO | あはは…… |
ミク | でもでも~、司くんの頑張りでたーくさんの人が 笑顔になってくれるんだよっ☆ |
司 | ぐぬっ……! |
司 | ミク……鬼か…… |
ミク | へ? |
KAITO | 司くん達はショーの内容を考える時どうしてるんだい? |
司 | まずはアイディア出しだな |
司 | なんでもいいからやりたい案がある者が発言して、 そこからいろいろ広げて行くんだ |
ミク | わぁ☆ なんでも言っていいの? じゃあきっと、たっくさんの面白案が出るね! |
司 | 面白いというか……。大体えむが変なことを言いだして 類がそれに乗っかっていってな |
司 | あれよあれよという間に とんでもない内容になっていくな |
ミク | いいねいいねっ♪ ミク、そういう予想できないほうがワクワクする☆ |
KAITO | ふふ。ありきたりなショーは、君達には似合わないしね |
司 | うーむ。オレもそう思うが……。 たまに『普通』が恋しくなるんだよな |
KAITO | えっ、殺陣の練習がしたいのかい? |
レン | うん! ズバズバーって敵を倒していくのかっこいいもん! |
KAITO | じゃあ、まずは練習用の剣を用意しないとね。 小道具の中にあったかなぁ…… |
レン | えー、カイトがショーで使ってるやつじゃダメなの? かっこいいし、あれを使いたいなぁ |
KAITO | んー、あれは本番用だからね。 それに殺陣はできたらかっこいいけど、危ないし…… |
KAITO | やっぱり、まずはきちんと練習用の剣を使おう。 本番用の剣は練習後のお楽しみに取っておかないかい? |
レン | しっかり練習すれば使ってもいいってことだよね! いいよ! ボク、練習がんばる! |
KAITO | ありがとう、レン。 じゃあ、さっそく練習してみようか |
KAITO | レン、いくつかショーにも参加してみてもらってるけど、 実際にやってみてどうだい? |
レン | すっごく楽しい! それにぬいぐるみくん達がいろいろ助けてくれるんだよ |
レン | 出番が終わって着替えなくちゃいけない時とか、 道具をしまう場所がわからなくて困った時とか! |
レン | みんなね『最初にカイトが教えてくれたことだから、 仲間が増えた時には教えてあげるんだ』って言ってた! |
KAITO | そうか。僕の知らない間に、 みんなそうやって助け合ってくれていたんだね |
レン | うん! だから毎日楽しいよ! |
KAITO | はは。それはよかった! ぬいぐるみくん達にあとでお礼を言わなくちゃね |
レン | ……………… |
KAITO | どうしたんだい? じーっと雲を見上げて |
レン | あの雲、ちょっとピンク色っぽくない? 見てたらなんだか、わたあめみたいに見えてきて…… |
ミク | あっ、ミクもそう思ったことあるよ♪ それで、空飛ぶ汽車に乗って食べに行ったこともあるよ~ |
ミク | でも、汽車が近付くと逃げて行っちゃうんだ~ |
レン | そうなんだ。でも、それってなんだか怪しいよね? 食べられたくなくて、逃げてる……とか! |
ミク | レンもそう思う!? ミクもそう思って、 今度ぬいぐるみくん達と捕まえに行こうと思ってるんだよ! |
レン | 楽しそう、それボクも行く! いいよね、カイト! |
KAITO | え、ああ。もちろんいいよ。 でも、たぶんあれは普通の…… |
KAITO | (……いやもしかしたら、もしかするかもしれないし。 ふたりも楽しそうだから、いいか) |
KAITO | ネネロボちゃんはいつ見ても、すごいなぁ。 類くんは、いつ頃からこういうロボットを作っていたんだい? |
類 | 確か中学生くらいの頃から、だったかな |
ミク | ねえねえ、その頃作ったロボット、 今もある? 動く? |
類 | ああ、あるにはあるけど、動くかどうかは……。 だが、彼らにスポットライトを当てるいい機会かもしれないね |
類 | 動くかどうか見てみて、今度持ってくるよ |
ミク | わーいっ! 類くん、楽しみにしてるねっ☆ |
KAITO | 司くん達のショーはミュージカル形式が多いみたいだけど、 ヒーローショーとかはやらないのかい? |
司 | ヒーローか…… |
司 | オレにとっては、 ショースターがヒーローのようなものだからな。 あまり考えたことなかったな |
えむ | じゃあさ、今度やろうよ! 『軟体戦士ぐにゃりーご』とか! |
KAITO | あ、戦隊ものかい? それなら僕にも心当たりがあるよ |
えむ | お、カイトお兄さんもノリノリだ~♪ ねえねえ、やろうよ司くん! |
司 | わかったわかった |
司 | どんなヒーローものにするかはともかく、 次のショーとして提案してみるか |
KAITO | 司くん、ここにいるぬいぐるみ達とか、 歌う花達にはもう慣れたかい? |
司 | 当然だ。ここへももう何度か来ているしな! |
寧々 | ふーん。じゃあ、あの歌う花が 突然頭に生えたりしても驚かないんだ |
司 | ……な、なに? |
司 | おい、まさか……まさかまさか! 頭に生えて……! |
寧々 | そんなことあるわけないでしょ。 バカじゃないの? |
司 | なぬー! |
KAITO | こらこら。ぬいぐるみ達や花達が 驚いてしまうから、ケンカはダメだよ |
KAITO | 司くん達のショーの演出は類くんが考えているんだよね |
KAITO | いや、すごいなあ。 まさかステージに、本物の雷を落とそうとするなんて |
司 | ああ。まったくもってあり得ん。 発想がもはや人の域を超えているぞ |
類 | 高評価ありがとう、司くん。 これは次のショーの演出も腕によりをかけて 考えなくてはね |
KAITO | ふふ。腕によりを、 と聞くとまるで料理をするみたいだね |
類 | そうだね。美味しい調理には 下準備と丁寧な調理工程が欠かせないと聞くし |
類 | となると、次は……フフ、フフフ…… |
司 | なっ、なんで今、こっちを見て笑った……!? |
KAITO | えーっと。 たぶんまたすごいアイディアを思いついたんだろうね。 司くん、頑張って…… |
KAITO | えむちゃん、ミクやぬいぐるみ達に アクロバットを見せてくれたんだって? |
えむ | うん! あと、バク宙の練習も一緒にして楽しかったよ♪ |
KAITO | そうか。ふふ、ミクとえむちゃんだと、 えむちゃんの方がちょっとお姉さんかもしれないな |
えむ | えっ、ホント!? あたしがお姉さん!? |
KAITO | 今のところは、一歩リードかな |
えむ | よーし、じゃあこのまま頑張って カイトお兄さんよりもお姉さんになっちゃおーっと! |
KAITO | お、これはうかうかしてられないな。 年長者として、僕も頑張らないとね |
KAITO | ん? ふたりからハーブみたいな香りがするね |
えむ | ふかさくんからほらったあへなへへるほ (司くんからもらった飴なめてるの) |
司 | 飴を口に入れたまましゃべるじゃない |
司 | フッ、スターたる者、のどのケアはして当然。 少し値ははるが、 ちゃんと効果が期待できる飴をこうして… |
えむ | (バリバリボリボリ) |
司 | ってこら! 噛むな! ちゃんとなめろ! |
えむ | わあ、司くん! 今の声、とってもきれいに響いたね☆ |
KAITO | あはは。さっそくのど飴の効果が出たのかもね |
KAITO | おや? 司くん、ずいぶん表情が暗いね |
えむ | 司くんね。本番でズコーッと転んじゃったの |
えむ | でね、手に持ってた剣がぴょーんって飛んで、 ドラゴンの頭にぐさーって刺さって…… |
司 | 奇跡的に、ショーは大爆笑で幕を閉じたが……。 まさか、あんな大事なシーンでつまづくとは! |
KAITO | ………… |
KAITO | でも、さすが未来のスターだね。 運も味方にしてしまうなんてさ! |
司 | ……! |
司 | たしかに、あんな大失敗が大成功で終わるとは……。 やはりオレは……オレは! |
司 | とてつもない星のもとに生まれた男、 将来を約束された輝けるスターに違いない! |
えむ | ……カイトお兄さん、ありがとう。 司くん、元気いっぱい! |
KAITO | ふふ。どういたしまして |
KAITO | 寧々ちゃんはいつも、ネネロボちゃんと一緒なのかい? |
寧々 | ううん。学校には連れて行かないようにしてる。 先生に没収とかされたら面倒だし |
KAITO | じゃあ、普段はお家でお留守番なんだね。 えらいね、ネネロボちゃん |
寧々 | (……そういえばカイトさん、ネネロボのこと ロボットして見ていないみたい) |
寧々 | (それって……そういう人、だから? それともバーチャル・シンガーだから……?) |
えむ | よかったねっ♪ ネネロボちゃん! よしよし! |
寧々 | あ…… |
寧々 | (そういうことまったく気にしてない子もいるし、 まあ、いっか) |
KAITO | ショーのほうはどうだい? うまくいっているかな |
寧々 | お客さんはたくさん来てくれるし……まあまあかな |
KAITO | まあまあ、か。何か物足りないところがあるんだね |
寧々 | ……わたし、結局ネネロボと一緒にステージに立ってるから |
KAITO | そっか。でも、それじゃいけないって 思う気持ちがあるなら、きっと大丈夫だよ |
寧々 | そこまでポジティブに考えられないけど……。 でも、一応……ありがとう |
KAITO | 類くんはショーの演出家なんだってね |
類 | ええ。地震、雷、火事、爆破はお手の物ですよ |
KAITO | え、えっと……どこまでが冗談なのかな? |
類 | フフ、ご想像にお任せしますよ |
KAITO | ロボットやステージの仕掛けとか、 類くんはどうやってそういう技術を勉強したんだい? |
類 | ほぼ独学だよ。ネットで調べようと思えば いくらでも調べられるしね |
類 | あとは、仕組みがどうなっているのか知りたくて オモチャのロボットや家にあった電子機器は いくつも解体(バラ)してみたね |
KAITO | なるほど、そのあくなき探究心が 今の類くんをつくっているんだね |
類 | ちなみに僕は、このセカイのぬいぐるみ達が しゃべって動く仕組みについても興味がつきないよ |
KAITO | あ、あはは……。 今のは聞かなかったことにしようかな…… |
KAITO | ふたりは幼馴染なんだってね。 昔から、よく遊んだりしていたのかい? |
寧々 | うん。ゲームとか、類が作ったロボットの試運転とか、 あとミュージカルの動画見たりとか |
類 | だいたいその3つのどれかだったね。 特にミュージカルはお互い共通の趣味でもあったしねぇ |
寧々 | わたしは役者を見てて、類は演出を見てたっていう 違いはあったけどね |
KAITO | へぇ、見るところが違う者同士で同じ作品を観劇か。 いいね、とても面白そうだ |
類 | フフフ、当時はただ気に入ったところを 言い合うだけだったけどねぇ。 でも、確かにとても面白かったよ |
司 | とうっ……ハッ! どうだ! オレの渾身のポージング……って、おい! |
ミク | ほえ? |
司 | ほえ? じゃない! お前が『ポーズしてっ!』と言うからしたんだぞ!? |
ミク | うーん。でも、見たかったのそれじゃない。 もっと、バキーン、ズガーンっていうやつ! |
司 | ば、バキ? むー、えむのようなわけのわからんたとえを…… |
司 | しかし、ファンの声に応えるのが真のスター! 見たかったポーズとやらを必ず見せてやる! |
司 | ぬう……なぜ未来のスターのオレが ステージ用の小道具の整備まで…… |
KAITO | ステージのすべてを知り、愛着をもつことが スターへの一歩だよ、司くん |
司 | と、上手いこと丸め込まれている気もするが…… |
KAITO | ははは、これが終わったら 楽しいショーの舞台が待っているから、頑張ろう! |
司 | カイト、ショーの練習風景を見学してもいいか? |
KAITO | もちろんいいけど、何かあったのかい? |
司 | いや、あの自由気ままなミクやぬいぐるみ達で どう練習が成り立つのか気になってな |
KAITO | あはは……たしかに普段はいたずらしたり 言うこと聞いてくれなかったりするけど、練習は真剣だよ |
KAITO | まあ見てもらったほうが早いね。早速行こうか |
司 | ああ、頼む! |
司 | ん? この声……えむのヤツ、 また歌う花と歌ってるのか |
寧々 | いいんじゃない。最近、一緒に歌ってる人の声に 合わせられるようになってきたし |
司 | たしかに。力いっぱい歌うだけだったのが見違えたな。 グッジョブだぞ、寧々! |
寧々 | とか言いながら、なんであんたがどや顔なわけ? |
KAITO | おや。もしかして寧々ちゃんがえむちゃんに歌を教えているのかい? |
寧々 | まあ……ちょこっとだけ。 前に本人からも相談されたことあるし |
KAITO | ふふ。じゃあえむちゃんの成長を感じられて、 嬉しさもひとしおじゃないかい? |
寧々 | ん……まあね |
司 | うわっ! ちびっ子用の乗り物だったパンダが踊っている!? |
えむ | あ、一緒に踊ってほしそうにしてる! はーい! あたし、一緒に踊る~っ☆ |
司 | ほ、本当にペアになって踊ってるぞ……。 はぁ、このセカイというやつは、本当にわけがわからな…… |
えむ | 見てみて! ほかの動物さん達も集まってきたよ! 司くん、ペアになってあげてよ! |
司 | なっ! ぐわー、やめろー! 毎度毎度オレを巻き込むんじゃない! |
司 | うおっ!? |
えむ | 司くん、突然ぴよよんってしてどうしたの? |
司 | どうしたもこうしたもあるか! 座ろうと思ったら、ベンチが空に飛んで行ったんだ! |
えむ | えっ、それホント!? すごーい! |
寧々 | すごいけど……。 それ、座ったまま空に飛ばれたらまずくない? |
えむ | そうかな? 足がぶーらぶらして面白そう! |
司 | まあ、お前はな…… |
寧々 | うん。えむはね |
えむ | ほえ? |
司 | あの空飛ぶメリーゴーランドの馬! 天馬の名を持つオレにぴったりの乗り物だな! |
寧々 | ……で、何そのニンジン |
司 | あの馬を呼ぶ!ほーらほら、美味しいニンジンだぞー |
寧々 | というか、そもそもあのメリーゴーランドが降りてこないと、 馬も降りてこられないでしょ |
司 | …………。あ…… |
司 | えむ、お前ミクと一緒に あの空飛ぶ汽車に乗ったらしいな |
えむ | うん! ものすごく高くて、早くて! ぜっけいかな、ぜっけいかなぁああって叫んじゃった♪ |
類 | フフ、狂言で石川五右衛門が言う有名なセリフだね |
えむ | ほえー、そうだったんだ |
司 | 知らずに言っていたのか…… |
司 | というか類、お前ミュージカルだけじゃなくて 狂言も見ているのか? |
類 | 狂言ならではの舞台の見せ方があるからね。 勉強がてら、たまに見るんだ |
類 | それより、ぜひ僕も えむくんが見たという絶景にお目にかかりたいな |
えむ | あたし、ミクちゃんから 乗り方教えてもらってるからいつでも乗れるよ♪ |
類 | それはよかった。では案内よろしく頼むよ |
えむ | ミクちゃん、ミクちゃん、ミクちゃ~ん!! |
ミク | わーいっ☆ えむちゃん、ぎゅー♪ |
えむ | えへへっ、ここのミクちゃんは不思議だね~。 ぎゅーってできちゃうんだもん! |
ミク | ぎゅー、のついでに、 一緒にステージで歌おうよ♪ |
えむ | いいの? やったーっ♪ |
えむ | はい! ほっ……とーうっ! |
ミク | すごーい! えむちゃん、 くるくるびゅびゅびゅーんした! |
えむ | えへへ、バク宙みたいなアクロバット得意なんだっ☆ |
ミク | いいなぁ。ミクもくるくるびゅびゅびゅーんしたい! |
えむ | じゃあ、トランポリン使って練習する? カイトお兄さんのステージにあったよね! |
ミク | うん! よーし、 くるくるびゅびゅびゅーんがんばるぞー! |
えむ | ミクちゃんの衣装、ハデハデキラキラでかっこいいねー! |
ミク | えへへー、ありがとう♪ でもでも、えむちゃんの衣装もハデハデキラキラだよねっ☆ |
KAITO | たしかに。 あれはテーマパークの制服なのかい? |
えむ | うんっ! でも、みんなおなじじゃなくて、 アトラクションとかで違ってたりするよ |
えむ | それにね。あたし、アップリケ貼ったりして、 スペシャルなアレンジもしてるんだ~♪ |
ミク | わぁお☆ いいね、スペシャルなアレンジ! |
KAITO | うん。えむちゃん自身が独創的で個性的だし、 やっぱり衣装もそうでなくっちゃね |
えむ | カイトお兄さ~ん♪ |
KAITO | ん? どうしたんだい? |
えむ | えへへ。呼んだだけっ☆ |
KAITO | がくっ……キミもかい? |
KAITO | 最近、やたらミクやぬいぐるみ達が……あっ! まさか、みんなで示し合わせて……? |
えむ | わっ、バレた! にげろー! |
えむ | えへへ、ミクちゃん、カイトお兄さん、これ見て! |
KAITO | これは……遊園地の絵? もしかしてこれ、 えむちゃん達がいるフェニックスワンダーランドかい? |
えむ | うん! ミクちゃんとカイトお兄さんに 見せてあげようと思って描いてきたんだ |
えむ | 本当は、フェニックスワンダーランドに 遊びに来てもらえたらいいんだけど…… |
KAITO | そうだね。でも、見てごらん? |
ミク | あはは、ジェットコースター大きいね! わっ、こっちは水がぶしゃーってなるやつだ! |
KAITO | ミクは十分、楽しそうだよ |
えむ | ……! うん! えへへ、描いてきてよかった♪ |
えむ | 寧々ちゃん! ネネロボちゃんのビーム、見~せてっ♪ |
寧々 | は? 急に何? |
KAITO | あはは。ネネロボちゃんができることを いろいろ聞いていたら、その話になってね |
KAITO | でも、ビームなんてショーに関係なさそうなもの、 本当にネネロボちゃん持ってるのかい? |
寧々 | さあ? けど類のことだから、 ビームを撃てないロボはロボじゃないって、 変なところにこだわってる可能性あるかも |
KAITO | ふふ、ロボにビームは男の子のロマンだからね。 わかる気がするなあ |
えむ | じゃあきっと本当に撃てるよ、ビーム! あたしも見てみたい! |
寧々 | え、でも……変に威力とかまで ちゃんとしたビームっぽくされてたら大変だよ |
寧々 | 最悪、一面焼け野原とかになっちゃうかも |
KAITO | あ、あはは……。 それはロマンと言えど、さすがに困るな |
えむ | ねえねえ、カイトお兄さん。 歌うお花さん達、いつも同じ歌を歌ってるね |
司 | 言われてみればそうだな。 耳なじみのいい歌だから、あまり気にしていなかったが |
KAITO | レパートリーはもっといろいろあるよ。 ショーでも、色々歌ってもらっているしね |
KAITO | でも、あの子達にとって、 あの歌は大切な物なんだよ |
KAITO | あの子達もこのセカイと同じで、 司くんの想いから生まれているからね |
えむ | ふむふむ。じゃああの歌は司くんの 大事な歌だったりもするのかな! |
司 | ……! だから、なんとなく 耳なじみが良かった、のか? |
KAITO | ふふ。たぶんね。よかったら、 今度あの子達の歌をじっくり聴いてあげてほしいな |
えむ | ここ、いつもシャボン玉や風船が たっくさん飛んでて、なんだかわくわくするよね! |
司 | そうだな。こういうの子供は好きだろうしな |
類 | じゃあ、僕達もやってみるかい? |
類 | けど、そのままマネするのはつまらないから、 ヘリウムと泡を利用した『空飛ぶ泡』なんてどうかな? |
えむ | 『空飛ぶ泡』!? |
類 | 少し前にSNSでも流行っていてね。 好きな形の泡が飛ばせるから、きっと楽しいよ |
えむ | うわぁ……! なんだかすごそう! ねえ、やろうよ司くん! |
司 | 類にしては安全かつ平和な提案だしな。 よし、向こうに戻ってさっそく実験だ! |
えむ | とぉりゃああああ! |
司 | ん? 急に木に登ったかと思えば今度は飛び降りて……。 おい、えむ。いったい何をしているんだ? |
えむ | 何って、飛ぼうとしてるんだよ |
えむ | メリーゴーランドみたいなおっきいものが飛んでるんだもん! あたしだって飛べるはずだもん! |
司 | だもんって、はぁ……。 おい、類からも何か言って…… |
類 | そうだね。まず、飛びたつには しっかりとした助走が必要じゃないかな。 あとはこう……腕をはばたかせたりね |
司 | おい、誰が真剣なアドバイスをしろと…… |
えむ | そっか、鳥さんになったつもりでやればいいんだ! あ、司くんも一緒にやりたい? |
司 | 誰がやるか! |
えむ | あっ☆ ねえねえ、ふたりとも! あそこの木、かわいいクマさんの形してるよ! |
寧々 | ああ、あれね。 本当だ、ここから見るとちょっとクマっぽく見える |
司 | クマっぽい木だと? そんなものどこにもないぞ。 お前らの気のせいじゃないのか? |
寧々 | ふん。あれはきっと、 心のきれいな人にしか見えない木なんじゃない? |
えむ | えっ……! じゃあ、司くんの心は真っ黒に汚れちゃって……。 か、かわいそうな司くん……! |
寧々 | ホントかわいそう |
司 | なっ! 二人して本気で憐れむのはやめろー! |
えむ | 類くん? なんだか悲しい顔して、どうしたの? |
類 | 実は、事故にあってしまったぬいぐるみくんがいてね。 ほら、この子なんだが…… |
寧々 | ちょっ……! あ、頭が、ない!? |
えむ | どどどどっ、どうしよう!? 救急車!? 救急車を呼べばいいの!? |
類 | フフ……。すまない、ふたりとも |
類 | ほら、もういいよ |
えむ | ええええっ!? 頭がぴょこんって出てきた! なんで、なんで!? |
類 | フフ、このぬいぐるみくんの特技のようでね。 みんなを驚かせたかったようだから、 ちょっと僕がお手伝いを、ね? |
寧々 | もうっ……! 本当にびっくりしたんだからね。 今度やったら、寧々ロボビームの的にするから |
類 | フフ、それは怖いな。肝に銘じておくとしようか |
えむ | ここに咲いてるお花さん、 ちょっとびっくりするとお顔がバッテンみたいになるね! |
類 | バッテン……ああ、 漫画の絵みたいになるっていうことかな |
寧々 | そういう感じの顔なら、えむも得意でしょ。 試しに、梅干し食べた顔してみてよ |
えむ | いいよ♪ さんはいっ……すっぱい顔っ! |
寧々 | ……! ほら、なった |
類 | 僕には、寧々がとても楽しそうなことが驚きかな |
寧々 | えっ、べ、別にいつも通りだけど…… |
えむ | 寧々ちゃーん。……すっぱい顔っ! |
寧々 | あ……ぷっ……ふふ、あははは |
類 | これは……フフ、寧々の思わぬツボを 発見してしまったかもしれないね |
寧々 | カイトさん達のミュージカルって、誰が考えてるの? |
KAITO | 脚本かい? だいたい僕が考えることが多いけど、 ぬいぐるみ達やミクのアイディアを使わせてもらうこともあるよ |
寧々 | そうなんだ。司が書いてくるのと違って、 わかりやすく感情移入させてくれるから、見てて楽しい |
KAITO | はは。でも、司くんの次の展開が読めない脚本も 僕はとてもいいと思うよ |
寧々 | まあ……確かに、あれはあれで面白いけど |
寧々 | ――♪ ――♪ |
寧々 | ……ありがとうございました |
KAITO | うん。やっぱりいつ聴いても、 寧々ちゃんの歌声は素晴らしいね |
類 | フフ、近くにいたぬいぐるみ達や 花達が興味津々で寄ってきてしまうほどにね |
寧々 | わっ! 本当だ、いつの間に…… |
KAITO | 良かったら、アンコールさせてくれないかい? みんなも、もっと寧々ちゃんの歌聴きたいよね |
類 | 今日はステージの練習ももう終えているし、 時間は気にしなくても問題ないよ |
寧々 | ……じゃあ、せっかくだし。 あと1曲、歌っていこうかな |
寧々 | あ、ねえ。あそこにいるぬいぐるみ、 ゼンマイあるんだけど……ロボット? |
司 | 知らん。ゼンマイなんて巻かなくても、 動いてしゃべっているしな |
寧々 | ……類が、バラしてみたいって言ってた |
司 | なぬ!? |
寧々 | まあ、本気じゃないでしょ。……たぶん |
寧々 | ここ、本当に賑やかだね |
えむ | うんっ! いつ来てもすっごく楽しいねっ☆ |
寧々 | まあ、みんな笑顔だし、嫌じゃないけど…… |
えむ | えへへ。やっぱり寧々ちゃんも、 みんなが笑顔でいてくれるの、嬉しいよね! |
寧々 | それは……まあ、そうだね |
寧々 | ねえ、次のショーの内容は決まったの? |
えむ | んー、それがね。やりたいことがたくさんあって、 まとまらないんだ~ |
司 | ふっ、オレに名案があるぞ |
司 | オムニバス形式、というのはどうだ? ひとつひとつ独立した話で構成できるから、 やりたいことも全部やれるぞ! |
寧々 | ふーん。確かにいい案かも。珍しく |
司 | 珍しく、は余計だ! |
えむ | いいね、オムニバス! よーし、類くんにも相談しに行こー! |
寧々 | 風船があちこちに飛んでるの、華やかでいいね |
類 | そうだね。たとえば……ああ、ネネロボの バルーンをたくさん飛ばしたらおもしろくなりそうだ |
類 | フフフ。たくさんのネネロボのバルーン。 その中に実は本物が…… |
寧々 | その先は言わなくていい。なんかやばい気がするから |
類 | おや、そうかい? せっかくいい案が浮かんだのに |
寧々 | ここのメリーゴーランドや汽車は飛んでるけど、 あそこにある観覧車は普通のと何が違うわけ? |
司 | そんなことオレに聞くな |
類 | 乗ってみたことはないのかい? |
司 | ない! 乗ったら最後、 どんな目にあわされるかわかったもんじゃない |
類 | フフ。これはミクくんやえむくんに あちこち連れ回された後遺症かな? |
寧々 | かもね |
寧々 | そういえばここって、花はあるけど 蝶とか虫は見かけたことないかも |
類 | 司くんが虫嫌いだからじゃないかな? |
類 | たしか、ムカデみたいな多足類がダメだったよね |
司 | まあ、そうだな。なぜあんなものが 地球上に存在しているのか、まったくもってわからん! |
寧々 | あー、それわかる。 ああいう虫、ホント無理 |
司 | おお! 寧々と初めて意見があったぞ! |
寧々 | 今さらだけど、雲、ピンク色がかってない? |
類 | そう言われてみると、たしかにピンク色だね |
司 | オレはもういっそ、 あれはわたあめが飛んでいるんだ、と思うことにした |
寧々 | へえ、メルヘンなこと考えるじゃん |
類 | ふふ。えむくんが聞いたら、本当にそうだと信じて あの雲を食べに行きそうだねえ |
類 | では、今回もできたてほやほやの 演出装置の確認に付き合ってもらうよ |
KAITO | へえ、演出の確認は司くんがやるんだね |
司 | 好きでやっているわけじゃない。 だいたいこいつの場合は確認というより、人体実験だ |
類 | フフ、だけどもうこの刺激なしでは 楽しめなくなってしまっているだろう? |
司 | いや、別にそんなことは…… |
類 | そうだろう、そうだろうとも。 じゃあさっそく始めようか |
司 | っておい! お前はえむと違って聞いているだろう! 聞いたうえで、無視してるだろう!? |
KAITO | あはは。いつも思うけど、 君達はなんだかんだいいコンビだよね |
類 | カイトさん、あの飛んでいる風船は いったいどこでどう作られているのかな? |
KAITO | ふふ。せっかくだし、探してごらん? きっとその方が楽しいよ |
KAITO | 名付けて『風船の秘密を探し出そう大作戦』! どうかな? |
えむ | だ、大作戦!? すっごく楽しそう! |
えむ | 類くん類くん! みんなで大作戦しよっ! |
類 | フフ。たしかに、答えだけ聞くのでは味気ないね |
類 | (こんなちょっとしたことでも、 誰かを笑顔にするアイディアにしてしまうとは。 さすがだね、カイトさん) |
類 | ここにはいろいろなぬいぐるみ達はいるが、 本物の動物とかはいないのかい? |
寧々 | そういえば、見かけたことないかも…… |
KAITO | そうだね。僕やミクがいるショーステージの近くには ぬいぐるみくん達だけだね |
類 | なるほど……では、人語を理解する動物が どこかに居る可能性は低い、か |
KAITO | 話してみたい動物がいるのかい |
寧々 | どうせカモノハシでしょ |
類 | ああ、そうとも。 彼等の生態はいまだ謎に包まれている |
類 | その生態について彼ら自身に聞けたらと思うと……! フフ、踊りだしてしまいそうだよ |
寧々 | ……こんな感じでだいぶ危ないから、 もしいても近づけないほうがいいかもね |
KAITO | あはは……まあ、 いるかいないか僕もわからないけどね |
類 | ……局地的な磁気嵐の影響……いや、 そもそもこの場所の緯度と経度がわからないと…… |
KAITO | 類くん、さっきからずっと何かつぶやきながら 空を見上げているけど、どうしたんだい? |
寧々 | たまに見えるオーロラが気になってるみたい。 どういう原理で発生してるんだ、って |
KAITO | ……かなり難しい問題に取り組んでいるね |
KAITO | あれは、本来オーロラが発生する理屈とは 全然違う仕組みで現れるみたいだから |
寧々 | うん、類も言ってた。解明できれば、 ワンダーステージの演出に応用できるかもって |
KAITO | なるほど、ステージ演出のためだったんだね。 さすが類くん、ブレないなあ |
類 | フフフ……ここは本当に面白いねえ。 あの空飛ぶ汽車はどういう仕組みで飛んでいるのか。 ぬいぐるみ達はなぜ会話ができ、動けるのか |
司 | ……汽車はともかく、 ぬいぐるみを捕まえて解剖するのはやめろよ |
類 | ああ、なんということだ! 司くんには、 僕がそんな非道な行いをする人間に見えていたなんて |
司 | いや、オレのことはさんざん好き勝手してるだろうが! |
類 | フフ、だって、司くんだからね |
類 | 司くん、次のステージの演出だけど、このセカイでのインスピレーションをもとに考えてみたんだ |
司 | ほう。ん……インスピレーションがどうこう言うわりに、 なんか、思ったより普通だな |
類 | そうだよね。では、こちらはどうだろう? |
司 | ……おい。1案目で物足りなさを感じさせておいて 本命の無茶な案を通そうとしてるだろ |
類 | ご名答。さあ、せめて目は通してくれるだろう? そして君は、面白い案にこそ、賛同してくれるはずだ |
司 | ぬー……。ああもう、わかった! そこまで自信があるなら、その演出でやってやる! |
類 | ミクくん達とぬいぐるみ達の共演、迫力のある音楽と演出……! |
えむ | あ、類くん、ワクワクしてる? |
類 | もちろん。彼等に負けないくらい、 みんなを笑顔にできるショーを作りたくて仕方がないよ |
類 | それに……実は少し、考えている演出があってね。 まあ、それには司くんの献身的な協力が不可欠なんだけど…… |
えむ | 大丈夫っ☆ 司くんなら、絶対協力してくれるよ! |
類 | カイトさん、ショーステージの舞台機構を 見学させてほしいんだが、いいかな? |
KAITO | もちろん、構わないよ。 えむちゃんもくるかい? |
えむ | わあ、いいの!? でも、舞台機構って何? |
KAITO | いろいろな装置のことを言うんだよ。 背景を上げ下げするための装置や、背景の幕やライトとかね |
類 | それから、迫りや、回転する廻り舞台、 水平に移動する水平移動舞台とか、種類は様々だよ |
KAITO | はは。さすがに全部の仕掛けはないけど、 それでも十分楽しめると思うよ |
えむ | 回転に、移動! なんだかすっごくわんだほーいな予感! えへへ、楽しみだなっ☆ |
類 | このセカイのぬいぐるみ達のように、ネネロボが 自分で動いたら面白いと思わないかい? |
寧々 | え、まあ、操作しなくていいのは楽だけど…… そんなことできるの? |
類 | より高性能で学習能力も高いAIを積めば、ね |
寧々 | で、そのうち『自分が本物だ』って言いだして、 人間をどっかにやっちゃうんでしょ |
類 | フフ、それは映画の見過ぎ……いや、ゲームのし過ぎだよ |
ミク | ……~♪……~♪ |
ミク | やっぱり、歌ってる時が一番楽しい |
ミク | ……あ、鏡…… |
ミク | ……怒った顔…… |
ミク | ……悲しい顔…… |
ミク | ……あれ? ……変わって、る? |
ミク | ……………… |
ミク | ……………… |
ミク | ……ひま |
ミク | 今作ってる曲は、どんな曲? |
奏 | バラード系と……ちょっとギターサウンド強めの2曲 |
ミク | ……奏、2曲同時に作ってるの? |
奏 | うん。ギターサウンドの方は わたし達の曲として使うかわからないけど、 イメージ忘れないうちに形にしておきたくて |
奏 | それが終わったら、 みんなに作業してもらってるバラードの方に戻るよ |
まふゆ | ……相変わらず、ひたすら曲を作り続けているんだね |
ミク | 奏……ムリ、してない? |
奏 | 大丈夫だよ、ミク。 やっぱり……これが、私だから |
ミク | ………… |
まふゆ | ………… |
奏 | (この顔ぶれだと、特にする会話がないけど……。 無理に会話しなくても、いっかって思える……) |
まふゆ | ……奏、どうかした? |
奏 | ううん、なんでもない |
ミク | (奏もまふゆも、今日はあんまり苦しくなさそう。 よかった……) |
ミク | ……絵名…… |
絵名 | あ……名前、覚えてくれたんだ |
ミク | うん。絵名……それと、奏 |
奏 | うん |
絵名 | なんだろ……ただ、名前を呼んでもらっただけなのに、 どうしてちょっと嬉しいんだろう |
奏 | そうだね。なんなんだろうね、この気持ち |
ミク | 奏、絵名……来てくれた |
奏 | 曲ができたから。これ…… |
ミク | これ、CD…… |
絵名 | ミクのためだけの特別製。 このジャケットも、描きおろしなんだから |
ミク | 聴ける? |
奏 | もちろん。よかったら、感想聞きたい |
奏 | それに、今度はまふゆと瑞希も連れてくる。 だから、前やったみたいに一緒に歌おう |
ミク | ……! うん……! 楽しみに、してる |
ミク | ………… |
絵名 | ミク、さっきから地面ばっかり見てどうしたの? |
ミク | 線、切れてる |
絵名 | 線……ああ、模様みたいに見える、これ? |
奏 | たしかに、途切れてるようにも見えるね。 絵名、これって描きなおせたりする? |
絵名 | んー、やろうと思えば……。 でも、全体を俯瞰して見ないと どういうバランスになってるのかわからないからなぁ |
ミク | 俯瞰……高いところ、登る? それなら、アレがあるよ |
奏 | そっか、あの鉄骨みたいなやつはこのために……? |
絵名 | えっと……奏、たぶん、それ違うよ |
ミク | 奏達本当にお互いのこと、知らなかったの? |
奏 | うん。ずっとボイスチャットで通話してたし 名前もハンドルネームだから、 相手の顔も本当の名前も知らなかった |
瑞希 | でもさ、よく考えたら ビデオ通話っていう手もあったんじゃない? |
奏 | そう? すぐ作業画面に切り替えちゃって、 対してお互いの顔見ないと思うけど |
瑞希 | あ……たしかに |
ミク | 今はみんな、お互いを知ってる。 それは……あんまりよくなかった? |
奏 | そんなことないよ。 まふゆのこともみんなのことも、知れてよかったと思ってる |
瑞希 | リアルでも会うようになって、 奏、前よりもちゃんと外に出るようにもなったしね |
ミク | ……そう。よかった…… |
ミク | ……瑞希も、歌を歌うの? |
瑞希 | うん、歌うよ♪ |
瑞希 | しかも、今度作ろうと思ってる曲なんて、 ボクがメインらしいよ。だよね、奏 |
奏 | うん |
瑞希 | ちなみに決め手は? |
奏 | 瑞希の声は、わたし達では出せない声質をしてる。 それが次の曲にマッチすると思ったから |
瑞希 | へえ……。奏達では出せない声質、か |
ミク | どうかしたの? |
瑞希 | ううん。やっぱり奏って鋭いなーって思っただけだよ |
ミク | ――♪ ――♪ |
ミク | ……あ。まふゆ。絵名…… |
絵名 | ごめん、歌ってるの 邪魔するつもりなかったんだけど…… |
ミク | ううん。気にしない。 またふたりと、話せるから |
まふゆ | ………… |
まふゆ | ……ミク。 まず、さっきの歌の続き聴いてもいい? |
絵名 | あ、私も聴きたい。 おしゃべりは、そのあとでもできるしね |
ミク | ……ありがとう、まふゆ、絵名。 じゃあ、続きから、歌う |
ミク | まふゆ……最近、楽しい? |
まふゆ | ……どうしてそう思うの? |
ミク | ……わからない。けど、感じた…… |
瑞希 | あー、なんとなくだけどさ。前よりも少しだけ、 呼吸がしやすくなってるのかなって思える時あるよ |
まふゆ | 呼吸が楽に…… |
まふゆ | そっか……。 今の私、まわりからはそう見えるんだね |
瑞希 | 少なくともボクには、ね。 そのうち、自分でも感じられるようになるといいね |
ミク | うん。なって、ほしいな…… |
まふゆ | ミク……。 ……そうだね。なれたら、いいのかもね…… |
ミク | 曲を作る時、みんな、どうしてる? |
まふゆ | どうって……? |
ミク | お話、しながら作ってる? |
まふゆ | ……私と奏は必要なことしか話さない。 絵名と瑞希はずっと話してる |
瑞希 | えー、ボクはちゃーんと手も動かしてるよ |
ミク | 絵名も、瑞希も。真面目に、やってない? |
まふゆ | うん。そうなの |
瑞希 | え、そんなことないってばー |
瑞希 | 本当だよ、ミク。 ボクはいつだって、一生懸命だからね |
奏 | はぁ……ここはまぶしくなくて本当にいいね |
ミク | 奏、まぶしいの嫌いなの? |
奏 | うん、特に朝、カーテンの隙間から 入ってくる太陽の光は、うっかりすると目がつぶれる |
ミク | ……!つ、つぶ、れる……!? |
奏 | あ……えっと、今の表現はたとえだから。 本当につぶれるわけじゃないからね |
奏 | ………… |
ミク | ………… |
奏 | (別に話さなくてもお互い気まずくないし、 一緒にいても気が楽だな……) |
ミク | (話さなくても、来てくれるだけで、嬉しい。 でも……ちょっと、話したい……) |
奏 | まふゆ、ミクといたんだ |
ミク | うん。ふたりでおしゃべり、してた |
奏 | ちなみに、どんな話をしてたの? |
まふゆ | 色の名前……。 錆、緑青、鳶、えんじ、朽葉…… |
奏 | ああ、伝統色の……。 そういえば、歌詞に使ってたね |
まふゆ | うん。……やっぱり、“ミク”だからかな。 歌詞には関心があるみたい |
ミク | ……わたし、歌詞の話好き |
まふゆ | そう……でも、もうすぐ25時だし、 続きは、また明日ね |
ミク | うん。楽しみに、待ってる |
奏 | そういえば、ミクにわたし達が作ってる動画、 見せたことあるかな…… |
瑞希 | ああ、曲は聴いてもらってるけど 動画はどうだったっけ |
ミク | たぶん、見てない。見てみたい |
奏 | うん。素材になってる絵名のイラストもいいし どれも瑞希の力作だから見てほしい |
瑞希 | 目の前で褒められると照れちゃうな |
瑞希 | じゃあ、ちょっと画面小さいけど スマホで見てみる? |
ミク | うん。……楽しみ |
奏 | まふゆって家事得意? |
まふゆ | そうだね、人並みにはできるよ |
奏 | 人並み……じゃあわたしは人じゃないのかな…… |
まふゆ | え? 何かあったの? |
奏 | 洗濯したら服が縮んだ。 お気に入りだったのに…… |
まふゆ | ああ……それ、洗濯あるあるだし、 そういう意味では、奏はかわいい部類の人だよ |
奏 | まふゆ、ここの英語の歌詞なんだけど…… |
まふゆ | ん?……曲調と合わなかったかな? |
奏 | ううん。ただ、ふたつの意味をかけてるのかなって思って |
まふゆ | ふふ。気づいてくれるなんて、さすが奏だね |
奏 | ……あれ、ミクいないね |
まふゆ | そうだね、散歩でもしてるのかな |
絵名 | 散歩って、こんななにもないところを? |
まふゆ | ……私がここで曲を書いてる時は ひとりにしてくれようとして、いつもいなくなるの |
まふゆ | 一度、どこに行ってたのかって聞いたら、 『どこにも……ただの散歩』って言ってた |
奏 | 散歩、か。作業で詰まった時とか、 わたしもそうしてみようかな |
奏 | それで、次の作業だけど…… |
奏 | さっきコメントを返した通りで進めてもらえればいいから |
瑞希 | それはいいんだけど……奏、今お腹鳴ったよね |
奏 | 鳴ってな…… |
まふゆ | 奏、ここにいてもお腹すくよ |
奏 | そっか……。ここなら不眠不休、食事なしで 曲を作り続けられるんじゃないかって思ったのに…… |
瑞希 | 相変わらず、曲を作るためなら人間捨てる気満々だね…… |
奏 | はぁ、ここで作業できたら すごく集中できそうなのに…… |
絵名 | そうだね。一応、スマホとかは持ってこられるみたいだし、 パソコンも持って来れば…… |
奏 | ノートパソコンなら、ね。 ……こうなったら、こっちでは紙を使おうかな |
絵名 | (そうまでして、ここで作業したいんだ……) |
奏 | ……絵名、学校に行く時間じゃないの? |
絵名 | うん。そろそろ…… |
絵名 | 奏は通信制高校だから、行かなくていいんだっけ? 私もそうすればよかったな |
奏 | でも、単位制だからちゃんととるまで卒業できないよ |
奏 | 人によっては10年くらいかけて のんびり卒業資格を取る人もいるみたいだけど |
絵名 | そこまで自分のペースでいいって言われると、 結局卒業できずに終わっちゃうかも…… |
奏 | それじゃあわたし、一度自分の部屋に戻……っ! |
瑞希 | わっ、奏!? 今、ふらつかなかった? まさか、立ち眩み? |
奏 | ……ううん。自分の髪を踏んだだけ。 床に直接座ると、たまにやるの |
絵名 | ああ……奏の髪、長いし結んでないもんね |
瑞希 | たしかに。結ぶか切るかしちゃえばいいのに |
奏 | ……面倒くさい |
瑞希 | うん……言うと思った |
まふゆ | ……ミク |
ミク | うん |
まふゆ | ミク |
ミク | ……! うん |
まふゆ | (声のトーンが変わるだけで反応変わるなんて、 ミクには悪いけど、ちょっと面白いな) |
まふゆ | ミク、ひとりだと暇じゃない? 本とか、読む? |
ミク | ……ううん |
ミク | まふゆや、奏達がつくった歌があるから。 それを歌っていたい |
まふゆ | ……歌っていたい、か |
まふゆ | (私の知っているミクとは姿形は違うけど、 “ミク”は“ミク”なんだね……) |
まふゆ | (じゃあ、私は……?) |
まふゆ | ……ミク。今日は、何してたの? |
ミク | 歌ってた。まふゆが作った曲や、 奏達と歌った歌を…… |
まふゆ | そう……楽しかった? |
ミク | うん |
奏 | そっか。よかった…… |
奏 | (ここは、なんとなく居心地いいけど、 それでも、ひとりでいるにはさみしいから……) |
まふゆ | 絵名、持ってきてくれた? |
絵名 | はいはい。ほら、配色カード |
ミク | 色が、たくさん……これ、何? |
まふゆ | 前に話した、色の図鑑。 色の違いや配色の違いを見るの |
絵名 | ……ミクに見せてあげるためだったんだ。 最初からそう言ってくれれば、 もっといろいろ持ってきてあげたのに |
まふゆ | そういうところ、気が利かないよね |
絵名 | は? もう一回言ってみなさいよ |
まふゆ | そういうところ、気が利かないよね |
絵名 | 本当にもう一回言わなくていいから! |
奏 | ――――――――♪ |
まふゆ | この声。やっぱり、奏だった。 メロディを歌ってみてたの? |
奏 | うん。でもまだ全然しっくりこない |
まふゆ | そう?……ねえ、もう一度歌って? |
奏 | いいよ。あとで聴いた感想、よろしく |
まふゆ | 相変わらずここはなにもなくて、静かだね |
奏 | うん、ここで作業したらいろいろはかどりそう。 機材、持ってこようかな |
まふゆ | まあ、集中できる場所ではあるけど…… 電源はどうするの? |
奏 | ……。 この、変な刺さってる物の裏とかにコンセントは…… |
まふゆ | もちろん、ないよ |
まふゆ | このあいだ送ってもらってた分の編曲、終わったよ |
奏 | もう? いつもよりも量あったと思うけど |
まふゆ | みんな頑張ってるし、私も頑張らなきゃなって思って |
奏 | ……ちゃんと栄養摂ってる? 寝てる? |
まふゆ | あはは。奏よりも、ちゃんと栄養摂ってるし、 寝てると思うけどなぁ |
まふゆ | 夜間定時制の人達って部活はしてるの? |
絵名 | してる人もいるんじゃない? うちの学校だと、 全日制の人が部活動してる時間に一緒にやるみたい |
まふゆ | 絵名はしないの? |
絵名 | しない。面倒だし。 逆に聞くけど、まふゆはなんで部活やってるわけ? |
まふゆ | なんで? 高校に入ったら、 大半の子は入るんでしょ。部活 |
絵名 | あ……そゆこと…… |
絵名 | ミク、センスいいよね。特に足元とか |
ミク | ……センス? |
絵名 | だって、片方素足じゃない。 結構思い切ったファッションだよ、それ |
ミク | ファッション、なの? |
絵名 | ……え、違うの? まさか、なくしちゃったとか? |
ミク | 最初からこうだから、わからない |
絵名 | そう……。まあ、 なくしちゃったわけじゃないからいっか…… |
絵名 | ふぁ……眠いし、気圧のせいで頭痛いし、学校行きたくない |
絵名 | ミク、頭痛がおさまるまでちょっと休ませて…… |
ミク | 絵名……大丈夫? 好きなだけいていいよ。 わたしも、そばにいるよ |
絵名 | あ、う、うん……ありがと |
絵名 | (う……入り浸る気満々で来ちゃったから、 なんかものすごく悪いことをしてる気分……) |
絵名 | (はぁ……頭痛が治ったら、ちゃんと学校行こう……) |
絵名 | あっちこっちにあるけど、 この地面に刺さってる三角みたいなヤツ、 結局なんなの? |
ミク | これも、まふゆの想い |
絵名 | ん、そう言われても…… |
奏 | ……これ。触ると冷たい |
奏 | (これも、まふゆの想い……。 じゃあこれが、今のまふゆの心の温度だったり……) |
ミク | ……大丈夫 |
奏 | ……! |
ミク | 奏や絵名の想いは、ちゃんとまふゆに届くから |
奏 | ミク……。 うん、そうだね。そうだといいな |
絵名 | ねえ、ここにいる時、 まふゆとミクってどんな話するの? |
まふゆ | 話? 特にしないかな |
ミク | うん。しない |
絵名 | そ、そう? |
絵名 | (……間が持たないっ!) |
絵名 | はぁ……重かった…… |
ミク | ……絵名。 その大きなカバン、なに? |
絵名 | 私が今まで描いた絵。 歌詞の参考にしたいって言われて、持ってきてあげたの |
ミク | これ全部、絵名の絵? すごい…… |
まふゆ | ……これとこっちの絵、雰囲気が少し違うね |
絵名 | 昔描いたのも混ざってるから……。 人に見せるの、嫌なヤツだってあったんだから |
絵名 | けど、そういうのガマンして持ってきたの。 だから、最高の歌詞を書いてよね |
まふゆ | ……そうだね |
ミク | どんな歌詞になるか、楽しみだね |
絵名 | まあ、ちょっとくらいは 楽しみにしててあげなくもないかな |
絵名 | ミクって、相変わらず私達がいない間はひとりなんだね…… |
ミク | うん…… |
瑞希 | フッ、フッ、フッ。 そんな退屈な時間をお過ごしのあなたに、 はい、これをプレゼント♪ |
ミク | ……ぬ、りえ? |
瑞希 | そう! ぜーんぶ塗り終わったら、 ボクがそれを素材にして動画にしてあげるよ! |
絵名 | へえ、いいじゃん。面白そう |
瑞希 | なんで絵名までやる気出してんの? 自分の作業があるでしょ |
絵名 | 休憩時間にやるくらいいでしょ。 それに、ミクとの合作も面白そうだし。ね、ミク? |
ミク | うん……。わたしひとりじゃ、できないけど。 絵名と一緒なら、できるかも |
絵名 | じゃあ決まり。一緒にきれいに塗って、 瑞希をびっくりさせようね、ミク |
絵名 | はぁ、最近すぐ集中力が切れちゃうな。 なんでだろ…… |
瑞希 | なんでって……。 絵名の場合、睡眠不足に決まってるよ |
ミク | ……眠れないの? |
瑞希 | 違う違う。だらしな~い夜更かし |
絵名 | 作業してるの! |
絵名 | 睡眠不足っていうのも当たってるかもだけど、 とにかく、集中できるBGMでも探さないと |
ミク | ……寝たほうがよさそうなのに、寝ないの? |
瑞希 | ホントだねー。 でもまあ、作業優先ってことなんだろうね |
絵名 | あ、奏!ログインしてこないなって思ったら、 こっちにいたんだね |
絵名 | ふふ。ねえ、ほら見て。昨日食べに行ったチーズケーキ! かわいくて、美味しくて、最高だったよ |
奏 | ……チーズケーキなら、わたしも昨日食べた |
絵名 | わぁ、本当!?それ、どこのお店? |
奏 | お店じゃない。缶詰 |
絵名 | か、缶詰!? ……ああそういえば、すぐ食べられるからって、 缶詰もいろいろ買ってるんだったね |
絵名 | (んー、美味しい……のかな。 ……ちょっと気になるかも) |
絵名 | 奏、最近よくこっちで作業してるね |
奏 | うん。部屋だと機材とか食料とか 生活感のあるものに囲まれてるけど、 ここは何もないから集中しやすい |
奏 | それ、ここにいるとみんなの想いにも触れながら 曲をかける気がする…… |
絵名 | 奏…… |
絵名 | (想いに触れながら、か。 私もちょっとこっちで絵、描いてみようかな) |
絵名 | はぁ……最近、寝ても頭がすっきりしないな。 奏はそういうことない? |
奏 | うん。あんまり |
絵名 | ホント? 奏も結構、睡眠時間短そうなのに……。 ねえ、平均でどれくらい寝てる? |
奏 | 知らない。いつも気がついたら寝落ちてるから |
絵名 | そ、そうなんだ…… |
絵名 | (奏の場合、寝起きうんぬんより、 床で寝て風邪をひかないかのほうが心配かも) |
絵名 | ここ、朝も夜もずっとこんな感じなんだね。 時間の感覚、狂っちゃいそう |
奏 | そう? わたしの部屋はいつもこれくらいの暗さだし そんなに気にならないかな |
奏 | あとは、ここにいるとおなかが減らなくて、 電源をつなぐコンセントがあれば、 最高の作業環境なんだけどね |
絵名 | もしそうなったら、 まふゆ以上に奏がここに引きこもっちゃいそうだね |
絵名 | ねえ、ふたりはどうやって自分のハンドルネーム決めたの? |
奏 | わたしは考えるのが面倒だったから、イニシャル |
まふゆ | 私も、特にこだわりなかったから、 名前から連想してつけたよ |
奏 | 絵名も、名前からとったんだよね |
絵名 | う、うん。親しみやすさを込めてね |
絵名 | (言えない……結構真面目に悩んで、 いろいろ迷走した挙句、結局名前に戻ってきたなんて) |
絵名 | 奏は通信制高校なんだよね。 ああいうのって、一回も学校に登校しなくていいの? |
奏 | スクーリングのこと? |
まふゆ | ……スクーリングって? |
奏 | 面接授業っていう言い方もするんだけど、 学校とか会議室とかに出て行って、先生から直接教えてもらうみたい |
まふゆ | ……みたい、ってことはやってないんだ? |
奏 | うん。オンラインで全部済ませられるところ選んでるから |
絵名 | じゃあ、本当に用事がある時以外は家にいるんだ。 うーん。羨ましいような、逆に窮屈なような…… |
絵名 | はあ、行き詰まっちゃった。 何かいい気晴らしになるBGMとかないかな |
まふゆ | ……私に聞いても答えられないよ |
絵名 | そんなことわかってる。 はじめから奏に聞くつもりだったの |
奏 | 気晴らしなら、この間瑞希がチャットに貼ってた ゲーム実況がいいんじゃない? |
絵名 | え? 奏、あれ見たんだ? |
奏 | うん。構成も演出もトークも考えられてて、 配信されてる分は全部見たよ |
奏 | ……あれならもしかすると、まふゆも楽しめるかも |
絵名 | ええっ! そ、想像以上の高評価! |
まふゆ | ふーん。じゃあ、そのゲーム実況、 私もちょっと見てみようかな |
絵名 | ここって、まっさらなキャンバスみたいだね |
まふゆ | ……じゃあそのキャンバスに、絵名なら何を描くの? |
絵名 | 何をって……。今思い浮かんだのは、花、かな。 一輪だけ、あのあたりに…… |
まふゆ | 花、か……。 ……いいね。そうやってすぐに “これがいい”っていうものが見つけられる |
絵名 | 別にあんただって考えて探せばいいでしょ。 ……ひとりじゃ見つけられないなら、手伝ってもいいし |
まふゆ | 絵名って、意外と優しいよね |
絵名 | はいはい。あんたみたいな 面倒くさいヤツ相手なんだから、仕方ないでしょ |
絵名 | あ……まふゆ。今、作業中? |
まふゆ | ううん、休憩中。そっちは? |
絵名 | こっちも、ちょっと息抜きに…… |
絵名 | ここさ……雰囲気暗いし、ちょっと不気味だけど、 でも、なんか来ちゃうんだよね |
まふゆ | そうだね。あ、せっかくだし、ミクに顔見せてあげて。 きっと喜ぶから |
絵名 | まふゆ、今度の曲の歌詞どう? |
まふゆ | ……だいたい、半分ってところかな。 見る? |
瑞希 | あ、ボクも見たい! |
絵名 | ……うっわ。相変わらずえぐってくる歌詞…… |
瑞希 | あはは。それが好きなくせに~ |
絵名 | 別にそういうわけじゃないから。 はい、返す |
絵名 | 今回、私もイラスト自信あるんだから、 負けないように、しっかり書いてよね |
まふゆ | ……それ、知ってる。 ツンデレって言うんでしょ |
絵名 | はぁ? ……勝手に言ってれば。 じゃあ、私、作業戻るから! |
瑞希 | やっほー、ミク! 会いに来たよ♪ 寂しかった? |
ミク | ……うん。少し |
瑞希 | あはは……ここ、何もないもんね |
ミク | うん。物は、ない……でも、歌がある |
瑞希 | ……確かに、歌が……音楽があると、 いろいろ違うよね、気持ちの持ちようとかもさ |
瑞希 | ボクも奏の曲に出会って、 いろいろ感じるものがあったしね! |
瑞希 | ミク、遊びに来たよ |
ミク | うん。いらっしゃい |
瑞希 | そういえばさ、ここにただ遊びに来るのって ボクくらいじゃない? |
瑞希 | 奏やまふゆはここでも曲づくりしてるみたいだし、 絵名はサボりたいときに来てるみたいだし |
ミク | わたしは、みんなが来てくれれば 理由はなんでもいい |
瑞希 | そっか。あはは、ボク達の中で一番大人なのは、 ミクかもしれないねー |
瑞希 | ここって、いつ来てもちょっと暗いね |
ミク | ……怖い? |
瑞希 | そんなことないよ。 ただ本当に暗いなあって思っただけ |
ミク | 良かった…… |
奏 | そんなに暗いかな |
奏 | 部屋で作業してる時の明るさと変わらない……。 ううん、こっちのほうがむしろ明るいかも |
瑞希 | どれだけ暗い部屋で作業してるのさぁ |
瑞希 | もう、目が悪くなっちゃうから 部屋は少しでも明るくしたほうがいいよ? |
瑞希 | まふゆはさ、作業に入る前に 集中を高めるルーティーンみたいなものある? |
まふゆ | さあ…… |
まふゆ | 部活で弓を射る時は、 決まった所作をするけど…… |
ミク | ……ルーティーンって、“いつもしてること”? |
瑞希 | うん、まあそんな感じかな |
ミク | じゃあ……ここに来るのが、 まふゆのルーティーンかもしれない |
まふゆ | そういえば、25時にみんなで集まる前に ちょっとだけミクに会いに、ここに顔を出してたっけ…… |
瑞希 | (ひとりになりに、じゃなくて……。 ミクに会いに、か) |
瑞希 | (まふゆも、ちょっとずつだけど変わってきてるのかな) |
瑞希 | はぁ……しんど……。 ごめんミク、ちょっとここで休憩していい? |
ミク | うん。でも……ふたりともどうして、 そんなに疲れてるの? |
瑞希 | 実はね、次の曲の動画、 ストップモーションで作ろうとしてるんだけど…… |
絵名 | 手間も、素材の量もとんでもなくて、 今ものすごく後悔してるとこ |
ミク | ……じゃあ、やめちゃうの? |
絵名 | まさか! やめたらここまでの苦労が水の泡だし、 ぜっっったい、やめない! |
瑞希 | という感じで、絵名も燃えてるし。 ボクも一度作り始めた物を途中で放り出しちゃうのはねー |
ミク | そう。完成、するといいね。 疲れたら、いつでもここにきて |
瑞希 | うん、ありがと! 完成したら、ミクにも見せに来るね |
瑞希 | ミクの服、いいよね。 個性的だし |
絵名 | そういえば、これ系の服をいろいろ扱う店が、 最近どこかにオープンしたって聞いたよ |
瑞希 | お、耳寄り情報! それどこ? 店の名前は? |
絵名 | え? えっと、SNSでエゴサしてた時に 見かけただけだから…… |
ミク | 覚えてないんだね |
瑞希 | えー、そんなこと話さないでよ~。 うわー、そのお店めちゃくちゃ気になるー! |
瑞希 | 奏ってさ、好きな食べ物はカップ麺だと思うんだけど、 嫌いな食べ物とかあるの? |
奏 | 匂いが強いもの、かな。パクチーとか、納豆とか |
瑞希 | へぇ、匂いか……。 ボクはぐにぐにっていう食感がダメで、 きのこ系は全部食べられないんだ~ |
奏 | 食感か……。そうだね、口の中に物を入れるっていうのは 実はそれだけで結構、ハードル高いものだし |
瑞希 | だよね!わかってくれる人いてうれしいよ! |
瑞希 | ねえねえ、美容院の割引クーポンあるんだけど、奏、使う? |
瑞希 | それだけ髪長いと、お手入れとか大変でしょ? 毛先とかいたんだりしちゃってるんじゃない? |
奏 | さあ? 気にしたことない。手入れも別に、 お風呂出た後、すぐ乾かしてとかすくらいで済むし |
瑞希 | へぇ、ご飯は食べたり食べなかったりなのに、 そういうところはマメなんだね |
奏 | 髪、乾かさないままうろうろすると、 床びしょびしょになるし、何より風邪ひく |
瑞希 | あはは。風邪ひいたら曲作るどころじゃないもんね。 確かに、奏にとっては死活問題かも |
瑞希 | 奏はいつぐらいから曲をつくったりし始めたの? |
奏 | ちゃんとやり始めたのは、小学校5年生くらいの頃かな |
瑞希 | そっかー、ボクは中学生くらいだったかなー。 あの頃は学校のこと気にせずにひたすら動画づくりしてたよ。 あ、今もか。あはは |
瑞希 | ……好きなことを、好きなまま続けられるのって 結構幸せなことだよね |
奏 | ……そうだね |
瑞希 | あー退屈だなぁ…… |
奏 | 何もないからね、ここ |
瑞希 | 奏は退屈じゃないの? さっきから、ボクと一緒で何もしてないみたいだけど |
奏 | メロディを考えてるから、退屈ではないかな |
瑞希 | あ、いいね! どんな感じで出来てる? ボクにもちょっと考えさせてほしいな |
瑞希 | はぁ……小腹すいてきたなぁ |
奏 | 何か食べに戻ったら? |
瑞希 | それはそうなんだけど……。 ちなみにさ、ここって飲食禁止? |
まふゆ | ……さあ、考えたことなかった |
奏 | わたしも…… |
奏 | でも……ここにカップラーメンとか フライドポテトの匂いが残るのは、なんだかやだな |
瑞希 | うわー、それたしかにイヤかも。 ちゃんと部屋に戻ってご飯食べてくるよ |
瑞希 | はぁ……このセカイは静かで落ち着くなぁ…… |
奏・まふゆ | 『…………』 |
瑞希 | 考え事したり、創作にはぴったりだよね。 ふたりもそう思わない? |
奏・まふゆ | 『…………』 |
瑞希 | もー! 何か答えてくれてもいいんじゃない!? |
奏 | あ、ごめん。 曲の展開考えてて、全然聞いてなかった |
まふゆ | 私も。ごめんね |
瑞希 | あ、ううん。気にしないで~。 それだけ集中してたってことだもんね |
瑞希 | やっぱり創作にはぴったりな場所っていうことか……。 ボクもこっちでできそうな作業はこっちでやってみようかな? |
瑞希 | そういえばさ、このセカイって場所は、 どこまで続いてるんだろうね |
絵名 | さあ……気になるなら 端っこ探してみれば? |
奏 | ……それ、一度試したことあるけど、 やめておいた方がいいよ |
奏 | 目印にできるものがないから、ふとした瞬間に どっちから来たのかわからなくなって、 元いた場所に帰れなくなる |
奏 | 実際、Untitledがなかったら、 わたし戻ってこられなかったかも |
絵名 | えっ、なにそれ怖い……! |
瑞希 | でもそれってさ、アリアドネの糸みたいなのが あればいいんじゃない? |
絵名 | 何それ |
瑞希 | ああ。えーっと、迷わないように 来た道に糸を垂らしていくんだよ |
瑞希 | んー、ちょっとした冒険気分あじわえそうだし、 ボク、ちょっとチャレンジしてみちゃおうかな? |
瑞希 | ミクは想いのセカイっていうけどさ。奏も絵名もまふゆも、 ここがなんなのか気にならないの? |
まふゆ | そうだね。居心地がいいから どうでもよくなってるのかもね |
瑞希 | えー!何かすごい謎が隠されてるかもしれないのに? |
まふゆ | すごい謎って? |
瑞希 | えっと……徳川の埋蔵金? |
まふゆ | テレビの見過ぎだよ、瑞希 |
瑞希 | あれ? お昼なのにまふゆがいる。 学校はー? |
まふゆ | テスト期間だから、午前中で終わりなの。 瑞希はいつものサボり? |
瑞希 | サボってないよ? 学校には来てるから。 でも、授業つまんなくて、こっち来ちゃった♪ |
まふゆ | ふふ。つまりサボりだね。 ミクに言って、追い出してもらっちゃおうかな |
瑞希 | ええー! あ、ほら、一緒に作業しようよー! それならいいでしょ? ね? ね? |
瑞希 | まふゆって作業してる時とか、口寂しくなったりしない? |
まふゆ | ……気にしたことないかな。 あるとないとじゃ、違うものなの? |
瑞希 | ボクは結構そうだね~。 作業中にガム噛んだり、チョコとかで糖分補給したり! |
まふゆ | 作業中ずっと食べてるの? |
瑞希 | そういう時もあるよ。 やめられない止められないって感じで♪ |
まふゆ | 作業の効率落ちそうだね |
瑞希 | あはは……ときどき、そうなっちゃう時もあるかな。 うーん。罪な食べ物だよね、お菓子ってさ |
瑞希 | うーん。ちょっと行き詰まってきたなぁ…… |
瑞希 | ねえ、ふたりはこういう時 どうやってアイディアを絞り出す? |
絵名 | 私は無理しないで、 気分変えるために外に出るかな |
瑞希 | うー、ただでさえ作業遅れ気味だし、 今すぐ絞り出せる方法が知りたいんだけど…… |
瑞希 | ねえねえ、まふゆは? 何かいいアイディアない? |
まふゆ | ……じゃあ、 『あと1時間で終わらなかったら殺される』 と思ってやってみたら? |
瑞希 | 怖っ!! というかそれ、 アイディアを絞り出す方法じゃな…… |
まふゆ | どうしたの、瑞希。 手が止まってるよ? |
瑞希 | す、すぐやりまーす…… |
絵名 | わ、私も作業戻ろうっと |
瑞希 | ねえ、まふゆ。最近、調子はどう? |
まふゆ | ……歌詞なら、順調だよ |
瑞希 | もう……そっちじゃなくて、 メンタル的なほうだよ。わかってるくせにー |
まふゆ | ……わからないよ |
絵名 | それは、瑞希の言ったことが、じゃなくて、 調子のいい悪いが、ってこと? |
まふゆ | ……そう |
絵名 | あ、そう。まあ多少は 話通じるようになってきたかもね |
瑞希 | そうだけど……もうちょっとわかりやすく 言ってくれても全然いいんだけどなぁ |
瑞希 | あのさぁ、ボク明日バイト代入るんだけど、ちょっと買い物付き合ってくれない? |
絵名 | 別にいいけど、バイトなんてしてたんだ? |
瑞希 | してるよー、いわゆる、アパレル店員ってやつ |
絵名 | ふーん。好きな物を仕事にしてる、みたいな? |
瑞希 | そうそう!よくわかったね |
絵名 | 彰人がそういう理由でバイト選んでたから、なんとなくね |
絵名 | (好きな物を仕事に、か。いいな……ちょっとだけだけど) |
瑞希 | あれ?スケッチブックに描いてる。珍し~ |
絵名 | 別にいいでしょ。たまにこうやって アナログに戻りたくなる時があるの |
瑞希 | どれどれ……あっ、隠した! ちょっと見せてくれてもいいのにー |
絵名 | イ・ヤ。何を描いてても私の勝手でしょ。 気が散るから、向こう行っててよ |
瑞希 | わかってないなぁ。人ってダメって言われたことほど やりたくなっちゃう生き物なんだよ |
絵名 | あっそ。じゃあ私、部屋戻るから。 |
瑞希 | えっ、本当に見せてくれないのー!? 絵名のケチー! |
瑞希 | ねえ、絵名。今度さリアルで会わない? |
絵名 | え?もう会ってるじゃん |
瑞希 | ここじゃなくて、街でってこと。 ショッピングモールに気になるお店が出来るらしいんだよね |
絵名 | あ、それ日本初出店っていうアパレルブランドの? |
瑞希 | そうそう、それ! |
絵名 | ふーん。まあ、興味ないわけじゃないし。 一緒に行ってもいいかな |
瑞希 | はいはい。情報知ってる時点で 興味ありありなのわかってるからねー |
一歌 | 焼きそばパンは……もう売り切れちゃってる……。 他に何かあるかな |
一歌 | ……あ、コロッケパン。 ええと、有名精肉店の名物コロッケをサンドしました、か |
一歌 | 今日はこっちにしようかな。 すみません、これひとつください |
一歌 | あ、志歩いた |
咲希 | しほちゃん、しずく先輩が探してたよ |
志歩 | げ……また……? |
志歩 | 昨日も一緒にお昼食べようって、 結構しつこかったんだけど…… |
一歌 | 仕方ないよ。ずっとアイドルの仕事が忙しくて、 話もできなかったって、先輩言ってたし |
咲希 | さっきも、しほちゃんと話したくて うずうずしてるって感じだったよ |
志歩 | ……はぁ、逃げてもあんまり意味なさそうだな。 仕方ない。次会ったら、一緒にお昼食べるよ |
一歌 | 咲希、何の雑誌読んでるの? またファッション雑誌? |
咲希 | ううん。これはしほちゃんに借りた雑誌なの |
志歩 | 国内のアーティストを特集してる音楽雑誌。 インタビュー記事とかもあって面白いよ |
一歌 | へえ、私も読んでみたいな |
咲希 | じゃあ、3人で読もうよ! これ、しほちゃんのだからしほちゃんを真ん中にして……! |
一歌 | そうだね。ちょうど志歩の隣空いてるし、じゃあ…… |
志歩 | ちょっと、お姉ちゃんじゃあるまいし。 そんなにくっつかなくても読めるでしょ! |
一歌 | 穂波、教科書ありがとう。助かったよ |
穂波 | どういたしまして。それにしても 今日じゃなくて、明日の時間割で来ちゃうなんてどうしたの? |
一歌 | えっと、明日、楽しみにしてたCDの発売日で…… |
穂波 | ふふ。うっかり一日間違えちゃうなんて、 よっぽど楽しみだったんだね |
一歌 | 志歩って、今でも書道に自信ある? |
志歩 | ん?まあ、普通の人よりはうまい自信はあるけど。 なんで? |
穂波 | 咲希ちゃんがね、Leo/needのかっこいいロゴを 志歩ちゃんに描いてもらったらどうかって言ってて |
志歩 | は?和楽器のバンドとかならともかく……。 ユニットの名前的にもあわないでしょ、さすがに |
穂波 | あ……やっぱり? |
一歌 | まあ、今回ばっかりは 咲希にあきらめてもらうしかなさそうだよね |
一歌 | 志歩、そんなにたくさんのお菓子どうしたの? |
志歩 | 今日、咲希の家で勉強会やるってお姉ちゃんに言ったら、 さっき急に渡された |
穂波 | あ、お昼過ぎに購買で雫先輩を見かけたけど、 これを買ってるところだったのかな…… |
一歌 | 咲希にもおしえてあげないとね。 こういうスナック菓子、好きだし |
志歩 | そういえば昔、お姉ちゃんにもその話したっけ。 覚えてたのかな |
穂波 | そうだと思う。雫先輩、志歩ちゃんのことも わたし達のこともきにかけてくれてたみたいだし |
一歌 | そっか。じゃあ今度、ちゃんとみんなでお礼を言いに行かないとね |
一歌 | 志歩、それ、ペットを育てるアプリゲーム? |
志歩 | ……そうだよ |
一歌 | 結構まめに世話してるよね。 私も、そろそろお世話しないと…… |
志歩 | 一歌も何か育ててるの? |
一歌 | うん。サボテン |
志歩 | サボテン……。 なんとなくだけど、一歌らしいね |
一歌 | 志歩って、バイト先のライブハウスで ヘルプでベースもやったりするんだよね |
一歌 | 大変じゃない? その……コミュニケーションとか |
志歩 | ベースがあるから平気。 というか、音楽以外の話する方が少ないし |
一歌 | あ、なるほど…… |
一歌 | 志歩って、ライブに行ったりするの? |
志歩 | 好きなバンドが出るイベントとか、ライブならね |
一歌 | もしかして、ライブ中にコールとかも…… |
志歩 | ……楽しみ方は人それぞれだから |
一歌 | ふふ、そうだね。志歩が楽しいなら、それが一番だね |
志歩 | そう、自分が楽しいのが一番だから |
一歌 | 明日、スタジオ練の日だったよね。 久しぶりだし、楽しみだなあ |
志歩 | 全員で音合わせする大事な練習だってこと、忘れないでよ |
一歌 | ふふ、もちろん |
志歩 | ……顔、なんか笑ってる |
一歌 | 志歩がバンドに前向きだから。 それがうれしいなって思って |
志歩 | 当然でしょ。やるからには妥協しない。 ビシバシ行くからね |
一歌 | あとは、穂波だけだね |
志歩 | あ……そういえば昨日、 バイト帰りにしばおの散歩してる穂波に会った |
咲希 | そうなんだ! しばお元気だった? |
志歩 | まあね。それに、相変わらずのもふもふ |
咲希 | あっ、しほちゃん、いいなぁ。 アタシも久しぶりにしばおをなでたい! |
一歌 | 私も。穂波が来たら、ちょっと頼んでみよっか |
咲希 | さんせーい! |
一歌 | 花里さんもミクの曲、結構聴くの? |
みのり | うん! 最近は……えっとスマホスマホ……。 はい、このクリエイターさんの曲を聴くことが多いよ |
一歌 | あ、この人……すごくパワフルなミクが 見られるって話題になってるよね |
みのり | さすが一歌ちゃん。やっぱり知ってたんだね! |
みのり | ふふ。学校の友達とミクちゃんの話が できるなんてうれしいな |
一歌 | 私も。よかったら、これからも話し相手になってほしいな |
みのり | もちろん、喜んで! |
一歌 | 桐谷さんって、なんでもできちゃうイメージあるけど、 何か苦手なことってあるの? |
遥 | うーん……怠けること、かな |
遥 | 休みの日も、家でゆっくりっていうのが出来なくて、 ついボイストレーニングしたり、 日課のトレーニングを増やしちゃったりするから |
一歌 | ふふ、なんだか桐谷さんらしいね |
一歌 | なりゆきで学級委員になっちゃったけど、 結構大変そうですね…… |
まふゆ | 全部一人でやる必要はないから、大丈夫 |
まふゆ | それに、私は去年もやってるから、 困ったことがあったら相談にのるよ |
一歌 | ありがとうございます |
一歌 | (朝比奈先輩っていつも真面目で優しくて、すごいな……) |
咲希 | うう、寝坊しちゃった……。 髪セットする時間あんまりなかったな…… |
咲希 | でも……けっこうちゃんとまとまってるよね? ふふ、最近、段々上達していってる気がするな~♪ |
咲希 | 今度、みんなにもやってあげようっと! |
咲希 | いっちゃん! なんの曲聴いてるの? |
一歌 | ん、ミクの曲だよ。一緒に聴く? |
咲希 | うん! じゃあ、イヤホンかたっぽ借りるね |
咲希 | ふんふ~ん……ってこの曲…… 前にみんなで聴いたことあるやつだよね? |
一歌 | うん、そう。……覚えていてくれたんだ |
咲希 | 当たり前でしょ! 思い出の曲だもんね |
咲希 | いっちゃん! 次の音楽の授業、 視聴覚室でミュージカルを見るみたいだよ! |
咲希 | しかも! アタシが入院してた時、 いつか見たいねって言ってたあの作品っぽいの! |
一歌 | え、それ本当? |
咲希 | うん! えへへ、運命感じちゃわない? |
一歌 | ふふ、もう咲希ってば。おおげさなんだから |
咲希 | いっちゃん、しほちゃん! 今日の放課後、ちょっと寄り道していかない? |
一歌 | あ、私はいいけど…… |
志歩 | 咲希、明日の通し練習は大丈夫なの? なかなか納得のいく演奏できてないって、 前の練習で言ってなかった? |
咲希 | うっ……。でも、その……今日オープンの かわいい雑貨屋さんがあって…… |
咲希 | 気になって練習に集中できそうにないの! のぞくだけ!のぞくだけだから!ねっ! |
志歩 | はあ。まあ、のぞくだけなら…… |
咲希 | ありがとうしほちゃん! お店のぞいた後は、めちゃくちゃがんばるから! |
志歩 | ……いいよ、練習はいつも通りで。 咲希の場合、頑張りすぎるから |
一歌 | (志歩って、なんだかんだ咲希には甘いよね) |
咲希 | ねえねえ。スーパーなんとかっていう、 すごい月が見られる日があるって、知ってた? |
志歩 | ……そういえば一時期、SNSとかで見かけたかも |
穂波 | ふふ。スーパームーン、ブラッディムーン、 ブルームーン、いろいろあるよね |
咲希 | わ、そんなに名前が出てくるなんて、 さすがほなちゃん、星に詳しいね |
志歩 | 月は星じゃないけどね |
咲希 | もう、そういう細かいところはいいの。 ねえねえ、ほかにはどんな月があるの? |
穂波 | それは……あ、せっかくだしスマホで検索してみよっか。 きれいな画像、きっとたくさん出てくるよ |
咲希 | しほちゃんのお母さんってお琴の先生なんだよね。 琴は弾ける? ベースを好きになる前に触ってたとか |
志歩 | 確かに、小さい頃はちょっと触ってたけど……。 本当にただ触ってたってだけかな |
咲希 | そっかー。あ、『弾けそう』っていうイメージだけで言うと、 ほなちゃんはすごく弾けそう! |
穂波 | えっ、わ、わたし? 弦楽器系は触ったことないし…… |
穂波 | それに、そういうおしとやかな芸事は、 わたしには全然似合わないよ |
志歩 | そう? 私達の中ではだんとつで似合うと思うよ。 特に、じっとしてられない咲希よりも、ね |
咲希 | うー、どうせアタシは、おしとやかじゃないですよーだ! |
咲希 | しほちゃんの字、きれいだよね。 どうしたらそんなにきれいに書けるのかなぁ |
志歩 | どうしたらって、忘れたの? 私、書道習ってたから…… |
咲希 | あっ、そういえば! 公民館で発表会もしてたよね。 袴はいて、大きな筆を持って「まごころ:って書いて |
志歩 | そうだね。誰かさんは思いっきり大声で がんばれーとか言って怒られてたね |
咲希 | あ、あははは…… |
咲希 | ほなちゃん。さっきの美術の授業、人物画だったんでしょ? アタシ達のクラスもやるみたいなんだけど、 どんな感じか見せてもらってもいい? |
穂波 | え? えっと……わたしじゃなくてほかの子のを 見たほうがいいと思うんだけど…… |
咲希 | いいからいいから~。 はい、スケッチブック、ゲットー! |
穂波 | わっ……!さ、咲希ちゃん! |
咲希 | これは……あ、もしかして、 美術の先生を描いたんじゃない? |
穂波 | ……な、なんでわかったの!? クラスの子には、熱射病になったゆるキャラって言われたのに! |
咲希 | ねえねえ、家庭科部ってどんな活動してるの? |
穂波 | 料理したり、お菓子作ったり。 あと裁縫や編み物もしたりするよ |
咲希 | じょ、女子力高い……! |
咲希 | いいなあ、料理ができれば誕生日にケーキ作ってあげられるし、 裁縫ができればライブの衣装づくりの手伝いもできるのに…… |
穂波 | ふふ。やってみたい? わたしでよければ、教えるよ |
咲希 | ホント!? わぁ、ありがとう、ほなちゃん! |
咲希 | ほなちゃん、何見てるの? |
穂波 | しばおに新しいボールのおもちゃをあげた時の動画だよ |
咲希 | わっ、かわいい! それに……あはは。 しっぽぶんぶん振って、すっごくうれしそう! |
一歌 | うん。……あ |
穂波 | 『――もう一回いくよ、しばお。えい……! あ……ちゃんと取ってこれたね! おりこうさんだね!』 |
一歌 | 一緒に遊んでる穂波も楽しそうだね |
咲希 | しばお愛が伝わってきますな〜 |
穂波 | あはは……。 改めて自分で聞くと、結構恥ずかしいかも…… |
咲希 | ううー。まさか小テストがあるなんて…… |
穂波 | あ、もしかして数学の? 咲希ちゃんのクラスでもあったんだね |
咲希 | ほなちゃんのクラスもあったんだ!? じゃあ、しほちゃんのクラスも? |
志歩 | まあね。あの先生、抜き打ち小テスト好きだよね |
咲希 | だよね! こうなったら、 抜き打ちテストがいつあるか法則を見つけなくっちゃ! |
穂波 | えっと……それより普通に予習復習したほうが いいんじゃないかな? |
志歩 | 咲希、楽しそうだし。別にいいんじゃない |
咲希 | ねぇねぇ、今日お弁当作って来たの! よかったら、おかず交換しようよ |
穂波 | うん、いいよ |
一歌 | あ、ごめん咲希。 私はいつものこれだから…… |
咲希 | 出た! 焼きそばパン! いっちゃん本当に好きだよねー |
咲希 | でも、そっか……。 みんなでおかず交換っていうの、したかったなぁ |
穂波 | 大丈夫。これからもまだまだ機会はあるよ |
一歌 | うん。今度、私もちょっと頑張ってお弁当作って来るから |
咲希 | おお、いっちゃんのお弁当どんな感じか見てみたい! 絶対だよ? 楽しみにしてるからね! |
穂波 | はぁ……次の美術の授業、人物のデッサンか…… |
穂波 | 先生は、独特のタッチでいいよってフォローしてくれるけど、 ただものすごくヘタなだけだし…… |
穂波 | みんながびっくりしない、普通の絵が描きたいな |
穂波 | 志歩ちゃん、みんなでロックバンドのライブに 行きたいなって考えてるんだけど、どうかな |
志歩 | え? どうかなって……なんでまた急に? |
咲希 | みのりちゃんから聞いたの! 志歩ちゃんともうひとりの友達と一緒に、 ロックバンドのライブに行ったことがあるって! |
穂波 | それで、私達4人でも行きたいって一歌ちゃんが |
志歩 | 咲希じゃなくて、一歌が言い出したの? 珍しい…… |
志歩 | まあ、演奏やパフォーマンスの勉強になるだろうし、 別にいいよ |
咲希 | じゃあ決まりだね! いっちゃんにも教えてあげよーっと! |
穂波 | 志歩ちゃん、明日の放課後あいてる? 今練習してる曲、リズムキープが不安なところがあって、 ちょっと練習に付き合ってほしいなって…… |
志歩 | 明日なら、バイトもないしいいよ |
穂波 | ありがとう、志歩ちゃん! 今度、お礼にお菓子焼いて持って来る |
志歩 | 別に。上手くなるための練習なら歓迎だし。 でも、どうしてもっていうなら、クッキーがいい |
穂波 | ふふ。クッキーだね。たくさん焼いてくるね! |
穂波 | 週末、ずっと雨だったね |
一歌 | うん。出かける気になれなかったから、 部屋でギターの練習したり、サボテン見たりしてた |
志歩 | そういえば、育ててたっけ。サボテン |
穂波 | 育てるといえば、志歩ちゃんは育成ゲームで ペット育ててるよね |
志歩 | まあね。そういう穂波だって、 お母さんと家庭菜園やってるでしょ |
穂波 | うん。ふふ、面白い共通点見つけちゃったね |
一歌 | これ、咲希が知ったらきっと、『アタシも何か育てる!』って言うんだろうな |
穂波 | はあ……どうしたら絵ってうまくなるんだろう? |
咲希 | ほなちゃん、服の型紙とかはちゃんと描けるのにね |
一歌 | んー、型紙を描く時みたいに補助線をたくさん引くとか あとは……定規で描けるものを描いてみるとか |
咲希 | それだ! やってみようよ、ほなちゃん。 あそこのビルなんて、定規でキレイに描けそうだよ! |
穂波 | そ、そうだね…… |
穂波 | (でもそれは、描いたっていうのかな) |
穂波 | 今日は雲ひとつない青空だし、 夜もきれいに星が見えそうだなぁ |
一歌 | 穂波は昔から星見るの好きだよね |
穂波 | うん、いつも空からわたし達を見守ってくれてるって思うと、 なんだかわたしも星を見たくなっちゃって…… |
一歌 | ふふ、穂波って実はすごくロマンチストだよね |
穂波 | えっ、そ、そうかな……。 思ったことを言っただけなんだけど…… |
穂波 | ……あ、花里さんこんにちは。サモちゃんは元気? |
みのり | 穂波ちゃん! うん、元気いっぱい! それにサモちゃん、しばおに会いたそうにしてたよ |
穂波 | ふふ、お散歩で出会ってから、 すっかり仲良くなっちゃったよね |
穂波 | 今日もいつもの公園来る? |
みのり | うん! また一緒にお散歩しよっ! |
穂波 | 雫先輩、委員会お疲れさまでした |
雫 | 穂波ちゃんもお疲れさま。 ところで…… |
雫 | ……しぃちゃん、元気? みんなと仲良くできてる? |
穂波 | はい。バンドの練習に夢中ですよ。 厳しいけど、根気よくいろいろ教えてくれたりもするんですよ |
雫 | そう! あのね、今度差し入れを持っていきたいのだけど、 しぃちゃんやみんな、喜んでくれるかしら? |
穂波 | もちろん! 志歩ちゃんも、喜ぶと思いますよ |
穂波 | 雫先輩、おうちでの志歩ちゃんはどんな感じなんですか? |
雫 | しぃちゃんは、テレビでニュースキャスターさんが 「こんにちは」って挨拶した時に、一緒にペコって頭を下げて、 それがとってもかわいいのよ |
穂波 | あっ、すみません雫先輩……。そういう意味じゃなくて、 普段の志歩ちゃんと家での志歩ちゃんとはどう違うのかなって…… |
雫 | それから、ハンバーグがお夕飯に出てくる時は2階から下りて くる時の足音がトントントンッ♪っていうの。いつもは トントントン、なんだけど、トントントンッ♪ってはずんでて…… |
穂波 | (……あはは。わたし、変なスイッチ入れちゃったみたい……) |
志歩 | 穂波 今日の準備はできてる? |
穂波 | うん。リズム隊、秘密の特訓だね! |
志歩 | ……なんか、ニヤついてない? |
穂波 | えっ、あ……志歩ちゃんと一緒なのがうれしくてつい。 大丈夫!練習は真面目にやるから! |
志歩 | まあ、そこは心配してない。 じゃあ、始めるよ |
みのり | えへへ、今日の昼練習も充実してたなぁ |
みのり | あとは、午後の授業を受けて、また放課後に……ハッ!! |
みのり | 次の授業、教室移動だった! わわわっ、予鈴が鳴ってる! 急がなくちゃ~! |
みのり | 一歌ちゃん、咲希ちゃん達とバンド始めたんだよね。 ボーカルやってみてどう? |
一歌 | ん……音程とかは思ったより大丈夫なんだけど 気持ちを歌にのせるって難しいね |
一歌 | たまに咲希が、練習用の曲だって ラブソングを持って来るんだけど 歌詞を読んでもぴんとこないっていうか…… |
一歌 | 自分が知らない気持ちを歌うのって、 すごく難しいんだなって最近、痛感してる |
みのり | それわかるかも! わたしも、応援ソングは得意だけど、 バラード系のしっとり歌う曲はちょっと苦手だし |
一歌 | ふふ。お互いまだまだって感じだね |
みのり | そうだね。 もっともっともーっとがんばらなくっちゃね! |
志歩 | …… |
みのり | 志歩ちゃん、きょろきょろしてどうしたの? 誰かと待ち合わせ? |
志歩 | 待ってない。むしろ、来ないでほしい |
みのり | あ……ひょっとして、雫ちゃん……? |
志歩 | ……暇さえあれば家でもベタベタされるのに、 学校でもベタベタされると、悪目立ちするし、困る |
みのり | ふふ。雫ちゃん、本当に志歩ちゃんが大好きなんだねー |
みのり | 遥ちゃん、教科書貸してくれてありがとう! |
みのり | はぁ、憧れのアイドルの遥ちゃんに 教科書を貸してもらう日が来るなんて……! |
みのり | 忘れられない、一生の思い出になったよ |
遥 | ふふ。それはいいけど、 忘れ物には気をつけないとダメだよ、みのり |
みのり | ハッ! そうだよね、次は気をつけます! |
みのり | ふんふふ~ん♪ |
愛莉 | みのり、朝見かけた時もスマホ見てニヤついてたけど、 まさか一日中、そんな調子だったわけ? |
みのり | えっへへ。だって、これ見てよ~。 トリミングしたてのサモちゃん! もっふもふでしょ~? |
愛莉 | こ、これは……! 確かに見てるだけでも、 幸せな気持ちになれるもふもふ具合! |
みのり | でしょでしょー! ああ、早く帰ってもふもふしたいなぁ |
みのり | 見てみて、購買でお菓子買ったらオマケのお菓子貰えたの!えへへ、今日はついてるみたい! |
愛莉 | えーっと……『火が出るウマさ。辛々くん』? |
雫 | あら……なんだかものすごくからそう |
みのり | へ?そう言われてみると、なんだかパッケージが真っ赤なような……! |
雫 | そうね。真っ赤っかね…… |
愛莉 | アンタがついてる、なんておかしいと思ったのよね |
みのり | 雫ちゃんって、志歩ちゃんのお姉さんなんだね! |
雫 | ええ、そうよ。そういえばみのりちゃん、 しぃちゃんと同じクラスだったわね |
雫 | しぃちゃんとどんな話をするの? よかったら教えて?ね? |
みのり | え、えーっと……最近は、お姉ちゃんが よくちょっかい出してくるから、 ベースの練習がはかどらないって話をついさっきも…… |
雫 | あら、そうなの? ふふふっ、しぃちゃんったら照れ屋さんね |
みのり | あはは。……あれは照れてるんじゃない気もするけどなぁ…… |
みのり | 愛莉ちゃん、視聴者からのリクエストに挑戦するっていう、 バラエティ番組、覚えてる? |
愛莉 | ああ、わたしがレギュラーで出てた番組ね。もちろん。 それがどうかしたの? |
みのり | 実はね。わたし、あの番組がすっごく好きで、 『一緒に学校の卒業式で歌ってください』って リクエストも送ったことあるの |
愛莉 | へぇ。……それ、がんばったら今からでもできそうね |
みのり | えっ……! ほ、ホント!? |
愛莉 | まっ、何事もまずはやってみるっていう気持ちが大事よ。 そうじゃなきゃ、道は開けないんだもの |
遥 | あの子たち、バスケットボール部の子かな |
遥 | ツーメンやクリスクロス、好きだったなぁ。 最初はうまくシュートまで行けなかったり、 パスが続かなかったりしたけどできるようになっていって…… |
遥 | ふふ、部活でやってた頃を思い出すなぁ。 そうだ、トレーニングの一環としてまたやってみようかな |
遥 | 星乃さんって、いつも昼休みに焼きそばパンを食べてるのね |
一歌 | うん、好きなんだ。 そういう桐谷さんも、いつもサラダ食べてるね? |
遥 | ええ。バランスよく栄養をとりたくて。 サラダは、ビタミンとミネラルがたくさんとれるの |
遥 | そう考えると……焼きそばパンは、炭水化物を炭水化物で はさんでいるのね。これだと、糖質がすごく高いかも…… |
一歌 | そうなの?でも、美味しいよ? |
遥 | ……ふふっ、それは確かにそうね |
みのり | ………… |
遥 | みのり……。そんなにじーっと見つめられると ちょっと練習しづらいんだけど… |
みのり | あ! ご、ごめんっ! 歌ってる遥ちゃんって、やっぱりキラキラしてるな~って…… |
みのり | それに、遥ちゃんみたいなアイドルになりたいっていう気持ちが もっともーっと大きくなるっていうか……! |
遥 | ふふ。ありがとう、みのり |
遥 | (でも、今の私がいるのは、あなたのおかげなのよ) |
遥 | みのり、そのノートはなに? |
みのり | 日記帳だよ! 毎日、ちょっとした出来事とか、 楽しかったこととか、練習したこととかを書いてるの! |
遥 | へえ、みのりってマメなのね。 なんだか意外 |
みのり | えへへ、日記と歌やダンスの練習はずーっと続いてるんだ。 遥ちゃんは日記とか、書いたりしないの? |
遥 | うん。でも、みのりに習って初めてみようかな |
みのり | 愛莉。それ、大福? どこかのお店で買ってきたの? |
愛莉 | たまたま購買で見つけたの。 わたし、こういう和菓子が好きだから、見かけるとついね |
愛莉 | いいわよー、和菓子! 季節ごとに目でも楽しめるのよ。 特に練りきりとか、色をつけたり飾りをつけたりして! |
みのり | 練りきり?そういう和菓子があるの? |
愛莉 | ああ、名前だけだとピンとこないかもね。 説明してもいいけど……せっかくだし、食べてみない? 今度、いいお店教えてあげる! |
みのり | ホント?やったー! |
遥 | じゃあ、その時は雫も誘って、 4人で行きましょう |
遥 | 愛莉って、ネコ好きだったよね? この間、買い物してたら見つけたの。これ…… |
愛莉 | え! なにこのミトン、ネコの手じゃない! かわいい……っ! |
遥 | 料理もするんでしょう? だからちょうどいいかなって |
愛莉 | 遥……アンタって子は……! 今度ペンギングッズをお返しするわ! |
遥 | え……? ふふ。じゃあ、楽しみにしてる |
遥 | 雫、ちょっといい? 雫は、身長を伸ばすためにやってたこととかある? |
雫 | え? いえ、特には…… |
遥 | そうよね……実は、みのりに『身長を伸ばすには どうしたらいい?』って聞かれて…… |
遥 | ストレッチして体を柔らかくすれば 伸びやすくなるんじゃないかって答えたけど…… |
雫 | あ、それはいいわ。なんだか、伸びそう |
遥 | そ、そう? |
遥 | ふたりは委員会や部活をやってるんだよね |
雫 | ええ、美化委員会と あまり行けてなけど弓道部に入っているわ |
みのり | わたしは部活はやってないけど、 委員会は飼育委員をやってるよ |
遥 | 私もせっかく学校に来られるようになったから 何か委員会や部活動に入ってみようかな |
みのり | うん! 違うクラスの友達もたくさん増えるし、 先輩とも仲良くなれるよ! |
雫 | そうね。せっかく学校にも通えるんだもの、 学生らしいことをするのもいいと思うわ |
遥 | そうだね。 じゃあ、前向きに考えてみようかな |
遥 | 雫のお父さんってギタリストだったのね? ギター、弾けたりするの? |
雫 | ううん。私、あんまり器用じゃないから。 |
雫 | でも、妹はベースが好きで、とても上手なの。 あ……よかったら、妹のしぃちゃんを紹介するわ |
遥 | ああ、大丈夫。みのりと同じA組でしょう? ときどき、挨拶はするから |
雫 | そうだったの? すごいわ、 いつの間にか友達の輪が広がって……! |
遥 | えっと……友達というか、ただ挨拶を……って、 これ、聞いてないね…… |
愛莉 | ふぅ、英語の小テスト、なかなか難しかったわね…… |
愛莉 | 雫も苦戦してたみたいだし、 ちょっと声かけて一緒に復習でもしようかな |
愛莉 | アイドルだから勉強の時間取れないなんて、 言い訳したくないしね |
愛莉 | ねえ、あなた。髪のリボン、ほどけそうよ |
咲希 | あっ、ありがとうございます。 ……って、あいり先輩!? |
咲希 | あの! アタシ、先輩のことよくテレビで見てて……! 入院中とか、すごく元気をもらったんです! よ、よかったら、握手してください! |
愛莉 | わたしが、元気を…… |
愛莉 | 握手くらい、いいわよ! あ、なんならサインもいる? 記念写真もオマケしてあげるわ! |
咲希 | いいんですか……!? やったあー! じゃあじゃあ、全部盛り盛りでお願いしますっ! |
愛莉 | みのり、妙にテンション高いわね |
みのり | えへへ、今日、好きなアイドルグループのCD発売日なの! ほら、この子達! |
愛莉 | ああ、この子達……!すごくいい子達よね。 一緒に仕事したことがあって、 今までもたまにご飯食べに行ったりするのよ |
みのり | えええっ!?そ、そうなの……!? |
みのり | あっ、あの、愛莉ちゃん……さ、サインとかって…… もらってきてくれたり……しない、かな? |
愛莉 | 言ってることと、目のぎらつきが合ってないわよ。 まあ、今度聞いてみてあげるわ |
愛莉 | 遥って普段からきっちりしてるわよね。 アイドルとして、スキがないっていうか…… |
遥 | そう? 確かに、アイドルの仕事してる時とのギャップは あまりないほうだと思うけど…… |
みのり | うんうん! 遥ちゃん、いつも背筋はしゃきっとしてるし、 遅刻もないし、運動もできて、勉強もできるし なによりすっごくキラキラしててまぶしいよね! |
愛莉 | とまあ、熱烈なファンは置いておいて…… |
愛莉 | 遥のことだから心配いらないと思うけど、 気を抜いても大丈夫な時は、抜きなさいよ |
遥 | ええ。オンとオフは自分なりに切り替えてるつもりだから。 ありがとう、愛莉 |
愛莉 | 今日はレッスンスタジオが借りられたから そこで練習するわよ |
雫 | ちゃんとしたスタジオで練習するのひさしぶりね |
遥 | そうね。みのり、頑張ろうね |
みのり | うん! ……えへへ |
愛莉 | ちょっと何よ。その締まりのない顔は |
みのり | だって、遥ちゃんや雫ちゃん、愛莉ちゃんとわたしが 毎日一緒にレッスンしてるなんて、 うれしいっていうか誇らしいっていうか |
みのり | これまでがんばってきて良かったなぁって 心から思えるっていうか |
愛莉 | 何言ってんのよ、 本当に頑張らなくちゃいけないのはこれからでしょ |
遥 | 大丈夫だよ。それはみのりだってわかってるから。 ね、みのり |
みのり | うん! 愛莉ちゃん、今日もビシバシよろしくお願いします! |
愛莉 | 言ったわね。 じゃあ、遠慮なくビシバシいくから |
雫 | ふふ。私も負けていられないわ |
雫 | ところで……えっと、スタジオはどっちかしら? |
愛莉 | 道わからないくせに先頭に立ってどうするのよ! ほらついてきなさい |
遥 | ふふ。じゃあ、私達も行こうか、みのり |
みのり | うん! |
愛莉 | はあ~……学生は勉強が仕事っていうけど、宿題はゆううつよね |
遥 | 年下の私にグチらないでほしいんだけど…… |
愛莉 | 別にグチってなんかないわよ。 家に帰ったら、数学の勉強やらなくちゃなーって思うだけ |
遥 | それをグチって言うのよ。 だいたい、日々、予習復習をしていれば、 宿題くらいそんなに苦労しないと思うけど? |
愛莉 | うっ……耳が痛い…… |
愛莉 | あ、遥。悪いんだけど、今日の放課後の練習、 部活があってちょっと遅れるってみんなに伝えておいて |
遥 | いいけど、部活してたのね |
愛莉 | ええ、茶道部よ。事務所辞めたあとに入ったの |
遥 | ……和菓子目当て? |
愛莉 | そういう打算がなかったかって言われたらあったけど。 純粋に興味があったのよ、茶道にもね |
愛莉 | なんていうか……アンタ、後輩のくせに ナチュラルにわたし達のこと呼び捨てにしてるわよね |
雫 | そういえば、遥ちゃんはしっかりしてるけど、 1年生だったわね |
遥 | 気になるなら改めますよ、愛莉先輩 |
愛莉 | な~んか、器が小さいんですねって バカにされてるように聞こえたんだけど… |
遥 | そんなまさか。気のせいですよ、先輩 |
愛莉 | うーん。もう今さらだし、違和感しかないわね |
雫 | そうだね。 遥ちゃん、やっぱり今まで通りの呼び方でお願い |
愛莉 | 本じゃなくて雑誌読んでるなんて珍しいわね |
雫 | あら、愛莉ちゃんも見る?図書室にあったの |
愛莉 | あっ、これ私が表紙のやつじゃない!懐かしいー! うんうん、何回見ても完璧な写りね! |
雫 | ええ。裏表紙も見てみて |
愛莉 | ……え?たしか中身は全部チェックしたけど…… って、この広告……アンタじゃん! |
雫 | ふふっ、私たち、知らない内に同じ雑誌に載ってたのね |
愛莉 | ……くっ、裏表紙のくせに表紙の私よりアップだなんて……! |
愛莉 | 雫、お弁当持って来たんだけど……。 作りすぎちゃったから、ちょっと食べない? |
雫 | じゃあお言葉に甘えて……ん、この煮物、 しっかり味が染みてて美味しい。 作るの、時間かかったんじゃない? |
愛莉 | 煮物は冷めるときに味が染みていくのよ。 だから手間はかかるけど、時間はそんなに要らないわ……って…… |
雫 | ……ん、こっちの卵焼きも。この唐揚げも……ふふ、美味しい |
愛莉 | ちょ、ちょっとー! 何わたしよりモリモリ食べてんのよ!? |
愛莉 | 弓道ってかっこいいけど、 弓を引けるようになるまでかなり大変みたいね |
雫 | そうだね。そう感じる人は少なくないかも |
遥 | 雫はそうじゃなかったの? |
雫 | ええ。しっかり時間を使って少しずつ頑張るっていうのが 私に合ってたみたい |
遥 | ふふ。雫はみのりと一緒でこつこつ頑張るタイプだしね |
愛莉 | ま、楽しそうで良かったわ。 部活とアイドルとしてのレッスンと、両立は大変そうだもの |
雫 | 心配してくれてありがとう、愛莉ちゃん |
雫 | でも、せっかく学校に通えてるんだから、 部活はこれからも続けていきたいな |
愛莉 | ねえ、遥から聞いたんだけど。 アンタ、兄弟がいるの? |
みのり | うん。小学生の弟がひとりいるよ。 |
愛莉 | ということは、アンタが長女なのね |
みのり | あはは……そう見えないよね。 友達とかにもよく言われるんだ |
雫 | そんなことないわ。 こう見えて、私だって長女だもの |
愛莉 | 話を振ったわたしが言うのもおかしいけど…… |
愛莉 | それ、フォローしてるようで 全然フォローになってないわよ |
雫 | はぁ、さっきの小テスト……とても難しかったわ |
雫 | そうだ、愛莉ちゃんと一緒に答え合わせしてみようかしら? 愛莉ちゃんとなら、苦手な勉強も嫌じゃないもの |
雫 | しぃちゃん、一緒にお昼ご飯食べない? |
志歩 | ………… |
雫 | どうしたの? 黙りこんで……。 ほら、しぃちゃんの大好きな ハンバーグが入ったお弁当持ってきたのよ |
志歩 | お姉ちゃん……私言ったよね。 学校で話しかけてくるのやめてって |
雫 | でも、今日はおひさまも出ているから 外で食べたらとっても気持ちがいいわよ? |
志歩 | いや……天気の問題じゃないから…… |
雫 | しぃちゃん、みのりちゃんとは仲良くしてくれてる? |
志歩 | ……それなりに |
雫 | そう。ふふ。みのりちゃん、いい子よね |
雫 | あんな子に姉妹そろって出会えるなんて、 すごく幸運なことなんじゃないかしら |
志歩 | まあ……そうかもね |
雫 | どうして動かないのかしら……。 スマホさん、機嫌を直して? |
みのり | 雫ちゃん、スマホつんつんしてどうしたの? |
雫 | それが……このふちのランプが赤く光ったと思ったら、 急に画面が真っ暗になってしまって…… |
みのり | ……えーっと。 それ、たぶん充電が切れちゃったんだと思うよ |
雫 | ああ、そうだったの! よかった、これで問題解決ね。ありがとう、みのりちゃん |
みのり | え、あっ、雫ちゃん?まだ何も解決してないよ!? スマホ、充電しないとつかないままだからね!? |
雫 | あら…… |
みのり | 雫ちゃん? どうかしたの? |
雫 | 耳を澄ませてみて。 チチチッ、て小鳥の声が聞こえるの |
みのり | ……ホントだ! きれいな声だね |
愛莉 | そういえば雫は、シマエナガとか ああいう小さい鳥が好きだったわね |
みのり | あ……志歩ちゃんも動物お世話するアプリやってるし、 姉妹ふたりとも動物が好きなんだね |
雫 | ええそうなの! ふふ、いつかふたりで小鳥やうさぎを飼ってみたいわ |
雫 | あら、みのりちゃん。 今日はお弁当なのね |
みのり | うん!欲しいCDがあるから、 ちょっと節約しようと思って作ったんだけど…… |
みのり | えへへ。自分で作ったから、 つい好きな物ばっかり入れちゃった! |
雫 | 好きな物でいっぱいのお弁当、いいわね。 私もおうどん入りのお弁当、つくってみようかしら |
愛莉 | 麺類でお弁当の定番はスパゲッティだけど……。 まあ、食べたいならいいんじゃない?うどんでも |
雫 | そうだよね!あ……それじゃしぃちゃんの分も 一緒に作ってあげようかな |
みのり | わあ、いいね! きっと志歩ちゃんも喜ぶよ |
愛莉 | けど、妹のお弁当にまで うどん入れるのはやめておきなさいね。 それはアンタの好物であって妹の好物じゃないんだから |
雫 | あ…… |
愛莉 | 入れる気満々だったのね…… |
雫 | 遥ちゃん、よかったら昼休み、 ダンスの練習に付き合ってくれないかしら? 昨日、覚えきれなかったステップがあって…… |
遥 | もちろんいいけど、愛莉は? |
雫 | できるようになって、愛莉ちゃんを驚かせたいの |
遥 | そう……わかった。協力する |
雫 | うん。ありがとう……! |
雫 | 遥ちゃん、愛莉ちゃん。ちょっといいかしら |
愛莉 | ん?どうしたのよ |
雫 | 放課後の練習なんだけど……。 弓道部にも顔を出したいから、少し遅れて合流するわ |
愛莉 | なんだそんなこと? 遠慮せず、行ってくればいいじゃない |
遥 | ええ。今日は昨日の反復練習になるだろうし 全員そろってなくても、影響ないよ |
雫 | うん。ありがとうふたりとも |
雫 | それじゃあ、今日はしっかり 弓道部で頑張ってくるわ |
雫 | あら? 遥ちゃんがネイルしてるなんて珍しいわね |
遥 | ああ……実は、お母さんがネイリストで。 新しいデザインができるたびにまず私にしてくれるの |
遥 | 今回のテーマは『学校でも悪目立ちしない。 ピンクとグレーの上品グラデーション』、らしいよ |
愛莉 | (へぇ。こういうの絵名、好きそう!) |
愛莉 | ねえ、アンタのお母さん、 どこのネイルサロンで働いてるの? こういうのが好きな友達に教えてあげたいんだけど…… |
遥 | わかった。じゃああとで、 お店のURL、メッセージで送っておく |
愛莉 | ええ、よろしく! |
雫 | あら、遥ちゃん。よかったら一緒に学食行かない? |
遥 | ごめん。今日はお弁当持ってきてるから |
雫 | お弁当、自分で作ってるの? |
遥 | まぁ、一応…… 学食のメニューだとどうしても糖質と脂質が気になっちゃって |
雫 | ふふっ。今でも体型維持とか、気を遣ってるのね |
遥 | そうね。もうすっかり生活の一部になっちゃってるから、 やめるにやめられなくて |
雫 | あっ、朝比奈さん。 ごめんなさい、なかなか弓道部に顔を出せなくて |
まふゆ | 気にしないで。最近、いろいろあったんだし。 落ち着いてから来てくれればいいと思う |
雫 | ありがとう。そうね、ちゃんと落ち着いてからじゃないと、 いくら射ても、矢も的に当たらないだろうし |
まふゆ | うん。また一緒に部活出来るのを楽しみにしてるね |
雫 | ええ。私も |
雫 | あ、朝比奈さん。今日は弓道部に顔を出せそうなの。 お邪魔していいかしら? |
まふゆ | もちろん。道具の手入れは大丈夫? 少し早めに道場開けてもらって、準備しておく? |
雫 | ありがとう、そうしてもらえると助かるわ |
まふゆ | ええ。じゃあ顧問の先生に伝えておくね |
雫 | (朝比奈さん、本当に頼りになるわ) |
こはね | 今日は、久しぶりの飼育当番だなぁ。 ウサギさん達、元気かな |
こはね | ふふ、みのりちゃんと一緒にお世話頑張らなくっちゃ! |
こはね | 志歩ちゃんって、かっこいいよね |
志歩 | なに、急に |
こはね | あ、えっと……自分を曲げないっていうか、 芯があるっていうか、いいなぁって思って |
志歩 | ……曲げられなくて起きるトラブルもあるけどね |
こはね | え? |
志歩 | ううん。なんでもない |
えむ | やっほっほ~い♪部活だぞ~っ♪ |
えむ | 今日はまず、新体操部でしょ、そのあと水泳部で、 それからダンス部にハンドボール部……! |
えむ | うんっ☆今日もみんなと楽しむぞ~っ! |
えむ | 穂波ちゃんはフェニックスワンダーランドで 遊んだことある? |
穂波 | うん。小さい頃に幼馴染みのみんなと |
穂波 | 懐かしいなぁ。その時、フェニーくんの ぬいぐるみを買ったんだけど、今でも大切に持ってるよ |
えむ | そうなんだ!ふっふっふっ、 ではそんな穂波ちゃんに素敵なお知らせ! |
えむ | あたし達がいるワンダーステージで 着ぐるみショーをやるんだ♪フェニーくんもいるよ! |
穂波 | 着ぐるみショーかぁ。 ふふ、志歩ちゃんが喜びそう |
穂波 | ありがとう、えむちゃん。 今度、幼馴染みの友達を誘ってみるね |
えむ | わっはっはっはっはー! |
志歩 | …………!? 今、誰かが物凄いスピードで通り過ぎていってた気が…… |
志歩 | ん? あ、ハンカチ…… |
えむ | わんだほーいっ! ごめんね、それあたしの! 拾ってくれてありがとうっ☆ |
志歩 | ど、どういたしまして…… |
まふゆ | この後、クラスの子の勉強を見てあげて、 放課後は学級委員会と、弓道部…… |
まふゆ | 家に帰ったらたぶん、すぐにご飯だし、お風呂も入って…… |
まふゆ | 今日はサークルの作業時間あんまり取れなさそうだなぁ |
まふゆ | あ、メッセージ……? お母さんからだ。 『今日は何時に帰ってくるの』か |
まふゆ | 『今日は、委員会と部活があるから いつもより遅くなるよ』と…… |
まふゆ | これでよし。さて、まずは委員会に行かなくちゃ |
まふゆ | カラオケか。クラスの子達は行きたそうだったけど…… |
まふゆ | ……別に行きたいとも思わないし、いいか。断ろう |
まふゆ | あ、みんな。 ごめん、さっきのカラオケの話なんだけど―― |
まふゆ | ……矢は心の鏡 無心となれば、矢は自ずと的を射る、か…… |
まふゆ | 私、的を外したことないな…… |
まふゆ | 心の鏡……無心、か…… |
杏 | ふー、今日はホームルーム長かったなぁ。 閉店準備の手伝い、間に合うかな |
杏 | 珍しく瑞希が学校来てたから、もうちょっと話したかったけど。 まっ、また今度か |
杏 | ……それで、こはねがさぁ |
彰人 | どーでもいいけど、お前、大体こはねの話ばっかだな |
杏 | そう? 彰人だって冬弥との話ばっかするじゃん |
彰人 | ……そうか? |
杏 | ねえ、このへんでダックスフント見なかった? |
彰人 | は? それって……あの犬の、か……? |
杏 | そう。近所で飼われてる子が逃げちゃったらしくてさ |
杏 | 万が一、生徒が噛まれたらまずいってことで 風紀委員総出で探してるんだけど、 あんた達も暇なら手伝ってよ |
冬弥 | 俺は構わないが、彰人には無理だ |
彰人 | あ! 冬弥、お前…… |
杏 | あれ、なんか用事? |
彰人 | あ、ああ。まあそんな感じだ。 悪いな、オレは行くぞ |
杏 | あ、ねえ。バスケ部の子に助っ人頼まれちゃって、 今日の練習遅れるから、こはねのことよろしく |
冬弥 | 白石、お前もか |
杏 | え? お前も、って? |
彰人 | オレも、紅白戦の人数足りないとかで、 サッカー部の助っ人頼まれてんだよ |
杏 | ふーん。じゃあ冬弥、こはねのことよろしく。 一応、遅れることはメッセージで伝えておくけど…… |
冬弥 | わかった。 何かふたりで出来そうな練習を先に始めておく |
杏 | ねえ、今回のテストの結果なんだけどさ。 彰人の結果、知らない? |
冬弥 | 本人に聞けば……いや、今回はたぶん素直に教えないな。 ヤマ勘外して、思いのほか点数が伸びなかったと言っていた |
杏 | ふーん、そうなんだ? ふふ、やっぱこういう時は、 私みたいな正直者が勝つのよね! |
冬弥 | 一夜漬けを正直者とは言わないと思うが |
杏 | 冬弥って、どういう時に声を出して笑うの? |
冬弥 | さあな |
杏 | ふーん……冬弥の爆笑してる顔とか、 ちょっと見てみたいんだけどなぁ? |
冬弥 | 何をするつもりか知らないが、 たぶん、期待には応えられないぞ |
杏 | あはは、さすがに無理に笑わせようとか思ってないから。 安心してよ |
杏 | 冬弥って、いつ勉強とかしてるの? 放課後はうちのカフェ来てるし、休みの日彰人といるでしょ?は |
冬弥 | いつもというわけじゃない。 それに、授業の予習復習をしていれば そこまで根を詰めて勉強しなくてもいいはずだ |
杏 | う……予習、復習…… |
冬弥 | ……その反応、彰人とまるで同じだな |
杏 | は? あいつと一緒にしないでよ。私はヤマはらないで、 ちゃんと試験範囲の勉強しようとするもん |
冬弥 | いや、しようとする、ではダメなんだが…… |
彰人 | 冬弥のヤツ、図書委員の当番か |
彰人 | 仕方ねえな。今日は先に 謙さんのところに行って、待ってるか |
彰人 | おい、こないだのテストどーだったよ |
杏 | 私? いい感じだったよ。追試ゼロだったし |
彰人 | 基準そこかよ |
杏 | そういう彰人はどうなの? |
彰人 | 追試なんてゼロに決まってんだろ。 今回は特に余裕だったな |
杏 | はいはい。ヤマ勘当たっただけのくせにー |
彰人 | ん? お前まだ帰ってなかったのか? 謙さんの手伝いはいいのかよ |
杏 | 今日は店の手伝いはナシ。 バスケ部の友達に助っ人頼まれてるからね |
杏 | そっちこそ、なんで帰ってないわけ? あ……ひょっとして補習受けてたとか |
彰人 | んなわけあるか。 サッカー部の助っ人だよ |
杏 | なんだ、そっちも助っ人か。 って、呼ばれてる! じゃあね |
彰人 | はいはい。 さて、オレも行くか |
彰人 | あそこの花壇、緑化委員が管理してるらしいんだけどよ。 例の2年の先輩も緑化委員らしいな |
杏 | 例のってどっち? |
彰人 | 変なもんをいろいろ作る方 |
冬弥 | 神代先輩のことか? |
彰人 | そう。で、うっかりあの花壇を 荒らしちまった野球部のヤツがいるんだが…… |
彰人 | その日以来、 なんかやたらと不幸な目に遭うって騒いでた |
冬弥 | それが神代先輩の仕業だと? |
彰人 | まさか。オレはそいつの気のせいだと思ってるよ |
杏 | でしょうねー。だいたいあの先輩、 他人のことに全然興味なさそうだしね |
彰人 | お前が風紀委員って、なんか違和感あるな |
杏 | 私もガラじゃないって最初は断ったんだけど、 中学からの友達にどうしてもって言われてさ |
彰人 | 面倒に巻き込まれたな。 この学校、2年に変人がふたりもいるのに |
杏 | そうそう。 大体なんかやらかすのあのふたりなんだよね |
冬弥 | 問題を起こすような先輩がいるのか。 知らなかった |
彰人 | ひとりはお前の知り合いだろ |
冬弥 | ん?いや、2年にそんな知り合いはいない。 尊敬している先輩ならいるが…… |
彰人 | (だから、そいつだっての) |
彰人 | はぁ……のど乾いた |
冬弥 | ……飲むか? |
彰人 | あー……それ、ブラックコーヒーだろ |
冬弥 | そうだな |
彰人 | オレ、ブラックはちょっとな。 ちょっと購買行って買ってくるわ |
彰人 | センパイって、虫嫌いでしたよね |
司 | む?嫌いだが……それがどうした |
彰人 | 背中に黒い線みたいなものがついてるんですけど、 それって、もしかしてムカデじゃ…… |
司 | ム、ムムム……ムカデ!? |
司 | ど、どどどどどこだ!どこについて……!? |
彰人 | あ、すみません。ただの制服のしわだったみたいです。 ただの見間違いですね。それじゃ |
司 | あっ、こら待て!ほ、本当に見間違いなのか? 見間違いなんだろうなー!? |
彰人 | おい、冬弥……って アイツいねぇのかよ……・・ |
彰人 | あ……ねえ、そこのキミ。 冬弥と同じクラスだよね? どこ行ったか知らないかな |
寧々 | ……たぶん、図書室 |
彰人 | ああ、図書委員か。ごめんね、ありがとう |
寧々 | (……あの人、二重人格なの?) |
冬弥 | もうすぐ定期試験か。 彰人はまたヤマをはるんだろうが… |
冬弥 | 要領もいいし、普通に勉強すれば当てが外れて追試験、 なんてことにはならないはずなんだが…… |
冬弥 | ……くぎを刺しておくか |
冬弥 | …………彰人 |
彰人 | ああ、お前か。なんだよ |
冬弥 | ……今、司先輩に声をかけようとしていたな |
彰人 | それが? |
冬弥 | よからぬことを企んでいただろう |
彰人 | ……わかったわかった。今日のところはやめておくよ |
冬弥 | 司先輩、昼間のあれ、大丈夫でしたか? 昼練中のサッカー部のボールが顔に…… |
司 | あっ、あれか……。 あれはだな、あえて顔面で受け止めたんだ! |
司 | 手にはランチを持っていたからな。 ランチを守るためのやむを得ない負傷だった |
冬弥 | そうだったんですか。 てっきり、ヘディングしにいって失敗したのかと |
司 | オ、オレがそんなかっこ悪い失敗を するはずがないだろう! は、ははははは……! |
司 | 今日は待ちに待ったあのミュージカルの公演日! どれほど苦労してチケットを手に入れたことか……! |
司 | 観劇前にパンフレットも読み込んでおきたいな。 よし! 放課後、即、劇場に向かわねば! |
司 | フッ……! ハッ……! |
彰人 | ……センパイ、こんなところで何してんすか? |
司 | 見ればわかるだろう! かっこいいポーズの練習だ! フッ、見学は自由だぞ。満足の行くまで眺めるがいい! |
彰人 | あ、急いでるんでオレはこれで |
司 | まず、このポーズはこの角度がポイントで…… って、おい! どこへ行くー! |
司 | 寧々! この前の金曜オリジナル特番は見たか? |
寧々 | ……この前って、いつの? |
司 | フッ、その様子では見ていないな。 仕方がない! ではオレがその特番で得た貴重な情報を…… |
寧々 | あ……もしかして、人気劇団の密着取材? それなら見た。はい、話終わり |
司 | なっ!? なんだその態度は―! ステージに活かせる情報を、親切心で……親切心で! 教えてやろうとしていたのに! |
寧々 | はいはい。本当に親切心で教えようって人は、 二回も繰り返さないから |
司 | 寧々、お前B組だったんだな。じゃあ、冬弥と同じクラスか |
寧々 | 冬弥? ……ああ、あの図書委員の人かな |
類 | 司くんはその彼から、先輩としてとても慕われているみたいだよ |
寧々 | は? なんで? |
司 | フッ。それはもちろん、幾度となく人生相談に乗ってやっているからだ |
寧々 | あ、もしかして反面教師? |
類 | そうだね。僕もそうだろうと思った |
司 | 誰が反面教師だ! |
司 | くそー。お前もいつか、オレという存在のありがたみを思い知る時が絶対に来るからな! |
司 | 次のショーの演出なんだが、跳ぶというのはどうだ? |
類 | 跳ぶ、か……それはスケールも大きくて素晴らしいね。 でもまずは、筋力を鍛えるところから始めなくては |
司 | ん? 筋力? |
類 | ジャンプそのものは装置やジェット噴射で可能だろうけど、 空中での姿勢の維持には体幹や筋力が不可欠だよ |
類 | というわけで、司くんにはボディビルダーも真っ青な、 バキバキマッスルになってもらおうじゃないか! |
司 | い、いかん、変なスイッチを入れてしまった……! 類、さっき言ったことは忘れろ。 ショーで大事なのはストーリーだ。そっちで頑張ろう! な? |
えむ | 類くん、お願いがあるんだけどいいかなー |
類 | おや、わざわざ学校にまで訪ねてきてくれるなんて、 どんなお願いだい? |
えむ | あのね! ネネロボちゃんみたいな、 司くんロボが欲しい! |
類 | フフフ、なるほど。彼がふたりに増えたら、 ショーが今以上に賑やかになるね |
類 | それなりの準備と素材が必要になるけど……。 可能かどうか、検討してみるよ |
えむ | 類くん、こんにちはー! |
類 | フフ、また来たのかい? よくここまで入ってこられたね |
えむ | えへへ。ちゃんとすれ違った人に、 こんにちはー!ってあいさつしたら大丈夫だったよ |
類 | うん。きっと面倒事に巻き込まれる気配を察知して 見てみぬふりをしたんだろうね |
類 | ではせっかくだ。 司くんと寧々を迎えに行こうじゃないか |
えむ | やったー! 司くんと寧々ちゃん、どーこかなぁ~♪ |
寧々 | はぁ……体育の授業、スポーツテストなの? しかも強制参加って…… |
寧々 | ……ロボでやれたらいいのに |
寧々 | ねえ、C組のあんたの友達、二重人格なの? |
寧々 | この間、やたら爽やかな感じで あんたがどこに行ったか聞かれたんだけど…… |
冬弥 | C組……彰人か |
冬弥 | 二重人格ではないが……たまに悪い顔はするな |
冬弥 | ……潰すと決めたら、徹底的に潰そうとするからな |
寧々 | な、なにそれ。 二重人格よりヤバそうなんだけど…… |
寧々 | ねえ……あんた、図書委員、でしょ。 図書室に……この本あるとか、わかる? |
冬弥 | 『ミュージカルの歴史』か……この本はないな。 だが、似たようなものであればあったと思う |
冬弥 | 図書室に入って、一番右奥にある棚だ |
寧々 | 一番右奥……わかった、探してみる。 えっと、ありがと…… |
寧々 | ……あ、ひとりでお弁当食べてる。 なに、クラスでハブられてるの? |
司 | 人聞きの悪いこと言うな! 心穏やかに優雅なランチを満喫するためだ |
寧々 | ふーん……どんまい |
司 | だから、あえてひとりで食べていると言って……。 あ、コラ! 誤解したまま去って行くんじゃない! |
寧々 | ネネロボに入ってるAIってどれくらい賢いの? |
類 | 難しい質問だ……。 AIの賢さを何をもって『賢い』、と表現するかによるからね |
寧々 | あ、説明長くなるならもう別に…… |
類 | 例えば、ビッグデータ……つまり 知識量を基準とする場合もある |
類 | それから無数のデータを共有できたり それらを情報として結びつけたりできる機能を有するかで…… |
寧々 | (う……失敗した。 これもう、絶対長くなるヤツだ……) |
寧々 | 類って相変わらず野菜食べないよね。 外でご飯食べるときとか、困らないの? |
類 | んー。そもそもなじみのない店では食事をしないからね。 そんなに困ることもないよ |
寧々 | 食べられるようになろうとは思わないわけ? |
類 | フフ、野菜なんて食べなくてもここまで大きくなれたんだ。 いまさら、必要性は感じないねえ |
類 | なぜ、ありとあらゆる健康番組は野菜を食べることを 勧めるんだろうか…… |
類 | 僕にとっては、むしろ健康を害する味にしか感じられないというのにねぇ |
類 | やあ、君は確か図書委員だったね。 図書室にはこういうたぐいの資料はあるかい? |
冬弥 | ……タイトルを見る限り、専門書ですよね。 さすがにないです |
類 | まあ、そうだよね。 やはり大型の書店か公の図書館に行くしかないようだ |
冬弥 | 図書館ならこの学校の近くにもありますよ。 専門書も、そこならあるかもしれません |
類 | へえ、それはいいことを聞いた |
類 | この学校には転入したばかりだから 周りに何があるのか、まだよく知らなくてねえ |
類 | ありがとう。 さっそく週末にでも、その図書館に行ってみるよ |
類 | 司くん、君、裁縫が出来るんだって? 穴が開いてしまって困っている衣装があるんだけど…… |
司 | ほう、衣装か。 いいぞ、穴のひとつやふたつすぐに縫って……ん? |
司 | な、なんだ。この穴だらけの衣装は…… |
類 | 元々穴の開いたデザインだったんだけど、 もっと突き抜けたデザインにしようと思ったら……フフ、 こうなってしまったんだ |
司 | 突き抜けすぎだろ物理的に! というか、これ…… どれが元の穴で、どれがお前が開けた穴なんだ? |
類 | やあ、司くん。この体に優しい野菜サンドと、 そちらの高カロリーな生姜焼き弁当を取り換えないかい? |
司 | 急に来て、また無茶苦茶な取引だな!? そんなの応じるわけないだろう |
類 | そんな……つまり、司くんは野菜サンドを食べて 僕が悶え苦しむ様を見たいんだね。 ああ……! なんて無慈悲で冷酷なんだ……! |
司 | 人聞きの悪いことを大声で言うんじゃない! お前はただ野菜が嫌いなだけだろうが! この偏食家めっ! |
類 | じゃあ、寧々が来たら みんなでフェニックスワンダーランドに向かおうか |
えむ | うん♪ 今日の練習も楽しみだな! |
司 | ……と、ナチュラルに会話に入ってきているが、 お前、他校生だろうが! |
えむ | えー、司くんまだそんなこと言ってるの? あたしもう、結構ここに来てるのにー |
司 | たくさん来ればいいってもんじゃない! ったく、先生に見つかりでもしたら…… |
類 | 大丈夫さ。その時は司くんが 囮になってくれるからね |
司 | お前らなぁ……! 無茶振りはせめてステージの上だけにしろ! |
寧々 | ………… |
類 | おや?今日はなんだか楽しげだね |
寧々 | さっきちょっと購買のぞいたら、グレープフルーツのゼリーがあって |
司 | グレープフルーツ? |
類 | 寧々の好物なんだよ。あの独特の苦みがいいらしいね |
司 | ほう。変わってるな |
寧々 | そうかもしれないけど、あんたに言われると、ちょっとムカつく |
司 | なんでだ!? |
類 | それはもちろん。君がとても変わっているからだよ |
司 | いや、お前にだけは言われたくないぞ! |
類 | 突然だけど司くん。実験がしたいから、 ステージでよくやる名乗り口上、やってもらえるかい? |
司 | 本当に突然だな…… |
司 | だがまあ、スターたるもの求めには応じるものだ。 それくらいいだろう |
司 | ……天翔けるペガサスと書き、天馬! 世界を司ると書き、司! その名も――天馬司! |
類 | ありがとう、司くん! それで寧々、どうだった? そのヘッドホンの遮音性は |
寧々 | 完璧。司のあの大声も ちゃんとシャットダウンできてた |
司 | っておい! 実験って……ヘッドホンのか! |
寧々 | あ、なんかしゃべってる。 でも、全然聞こえない |
司 | コラ、寧々! オレがしゃべる時だけ ヘッドホンするんじゃ……だからするなー! |
類 | おや、えむくん。また来たのかい? |
えむ | うん!遊びに来たよー! |
寧々 | 友達の家みたいな軽いノリで言ってるけど、 先生に見つかったら怒られるよ |
えむ | でもここ、友達の学校だよ? |
寧々 | はぁ……。あんたに常識が 通じると思ったわたしがバカだった |
類 | まあまあ、寧々。ひとりだけ学校も違うからね。 これくらい許してあげようじゃないか |
えむ | 寧々ちゃん…… |
寧々 | う……な、なんか、わたしが駄々を こねてるみたいになってるのおかしくない? |
類 | 最近ネネロボの調子はどうだい? |
寧々 | ……ちょっとだけ動きが鈍くって、左腕がひっかかる |
類 | ふむ、ならば10秒ほど待っていてくれ |
寧々 | うん |
類 | ほら、これでどうだい? |
寧々 | ……うん、すごい動くようになった |
類 | フフフ……まるで魔法のようだろう? |
寧々 | …………いや、油差しただけでしょ |
類 | 寧々、ロボットに新機能を追加){{{したよ。 そこのタグを引っ張ってみてくれるかい? |
寧々 | ……これ? ……えい |
寧々 | ……!! う、うるさい、何これ |
類 | 防犯ブザーだよ。最近、ショーの練習で 夜遅くなることが多くなっているからね |
寧々 | は? 何? 煩くて聞こえないんだけど? |
類 | おや、こんなに朝早くから君に会えるとはねぇ。 いったいどうしたんだい? |
瑞希 | あはは。今日、知り合いと映画見に行く約束してるんだけど、 待ち合わせの時間まで暇なんだよね~ |
類 | なるほど。それで学校で時間潰し、を? |
瑞希 | まっ、そんな感じ? それにたまには学校の友達とか大事にしないとね。 あと……古い知り合いもね? |
類 | フフフ、それはどうも |
絵名 | あれ、まだ全日制の子結構いる |
絵名 | 部活がようやく終わったところって感じなのかな |
絵名 | 朝からこんな時間まで学校にいなくちゃいけないなんて、 私、絶対全日制ムリだな…… |
絵名 | 彰人のヤツ、どこ行ったんだろ |
絵名 | 買い物頼みたかったから、いつもより早めに来たのに |
絵名 | いいや、メッセージで頼んどこ |
瑞希 | 今日の学食のメニューは……あっ、 特製スパイスカレーだ! |
瑞希 | これ本当に美味しいんだよね~。 いい感じに辛さもピリッとしてて |
瑞希 | あーあ。これで猫舌じゃなければなぁ。 あっつあつを食べられるのに |
瑞希 | ねえ、杏。そのヘアアクセ、キラキラしててカワイイね |
杏 | ああこれ? 私のお気に入りなんだよねー |
瑞希 | そういうの、どこで買ってるの? ショッピングモールとか? |
杏 | ああ、これは家の近くの通りにいいお店があってさ |
瑞希 | へえ、ボクもそのお店行ってみたいなぁ |
杏 | じゃあ、放課後ちょっと行ってみよっか |
一歌 | このロックバンド、初めて見たかも。 志歩、このバンド知ってる? |
志歩 | ん、名前だけなら。ポップロック系だから、 私の好みとはちょっとズレてるんだよね |
咲希 | ポップロック? |
志歩 | ハードロックとか、パンクロックって聞いたことあるでしょ。 ロックにもいろいろジャンルがあるの。 検索かければ、いくらでも出てくるよ |
咲希 | いくらでも!? よーし、ちょっとスマホで調べてみようっと! |
咲希 | あ、出た! えっと……プログレッシブ・ロック、 アート・ロックにオルタナティブ・ロック……? |
一歌 | 名前だけだとどんなのか想像つかないし、 動画とかも探してみよっか |
一歌 | 穂波って普段どんな音楽聴くの? |
穂波 | 普通だよ。CMとかドラマの主題歌になった曲とか 生活の中で出会う音楽を好きになることが多いから |
穂波 | 一歌ちゃんは、やっぱりミクちゃんが歌ってる曲? |
一歌 | うん。種類も多いし、いろいろな人が作った曲を 聴けるからね |
一歌 | (この子、すごい綺麗な髪だな……クセ1つないストレート) |
奏 | (この人の髪……真っ黒で綺麗だな) |
一歌・奏 | あ…… |
一歌 | えっと、すみません |
奏 | ……いえ、こちらこそ |
一歌・奏 | (ちょっと触ってみたかったな……) |
咲希 | いっちゃん見て!このポスター! |
一歌 | あ、この人たち、確か志歩が好きなガールズバンドの…… |
咲希 | うん!かっこいいなあ……! こんなふうに、アタシ達もなれるかな? |
一歌 | それにはまず、志歩が納得できるクオリティの演奏が 出来るようにならないとね |
咲希 | あはは……厳しい道のりだけどね。 でも、4人なら大丈夫!がんばるぞー! |
咲希 | ねえねえ、次の練習曲、これはどうかな? |
一歌 | これって、ミクが歌ってる歌……。 私も好きだけど、ギターパート大変そう…… |
志歩 | 難しくないと練習にならないでしょ |
咲希 | それに、難しくても好きな曲のほうが モチベーション続くよ! |
一歌 | もう、他人事だと思って。 ……だけど、せっかくだしやってみようかな |
志歩 | じゃあ決まり。 穂波にも伝えておかないとね |
咲希 | しほちゃんって、ロックバンド以外の曲も聴いたりするの? |
志歩 | 最近はミクが歌ってる曲もよく聴くよ。 いろんな人が作ってるから、今まで聴かなかったジャンルも 聴けておもしろいし。これとか…… |
咲希 | へー! あ、それって、いっちゃんが薦めてくれたアルバム? |
志歩 | うん。一歌に聞けばハズレはなさそうだし |
咲希 | だよねだよね! アタシもそれ聴きたいな! |
志歩 | それならスマホに入れて……って、 ちょ、ちょっとくっつかないでってば |
咲希 | あっ、このCD、前にいっちゃんが聴かせてくれたのと 同じじゃない? |
穂波 | そういえば……どの曲もいいからみんなで聴きたいって、 わざわざ家から持ってきてくれて、咲希ちゃんの家で聴いたね |
咲希 | そうそう!あの時のいっちゃん、 すっごいニコニコしてて。懐かしいなぁ |
咲希 | えへへ、懐かしいし、せっかく見つけたから 買っていっちゃおうかな! |
穂波 | うーん。ミクちゃんが歌ってる歌、こんなにあるんだ…… |
穂波 | 一歌ちゃん。おすすめある? |
一歌 | それなら、これはどうかな。入ってる曲全部が ひとつのテーマを描いてるアルバムなんだけど…… |
穂波 | なんだかすごそう!じゃあこれ聴いてみようかな |
穂波 | ふふ。ミクちゃんのことを聞くなら、やっぱり一歌ちゃんだね |
一歌 | ありがとう。ほかにも気になるCDとかあったら言って。 持ってるものなら、貸してあげられるから |
穂波 | うーん。お手本になるようなドラマーがいるバンドの 曲を聴きたいんだけど、どのバンドのがいいんだろう? |
一歌 | 志歩にオススメを教えてもらったら? きっと、もうすぐ来るだろうし |
咲希 | んー、でもしほちゃんの場合、 『自分の目標なんだから、自分で見つけたら?』 って言いそう |
穂波 | ふふ、相変わらず志歩ちゃんのマネ上手だね。 それに、自分の目標なんだから、 自分で見つけるっていうのも、当たり前だよね |
穂波 | よし、改めてちゃんと自分で、 お手本にしたいなって思う人、探してみる |
咲希 | うん!でも困ったらすぐに相談してね! アタシ達、幼馴染みなんだから♪ |
穂波 | ライブハウスのバイトって、どんなお仕事なの? |
志歩 | だいたい受付と雑用。 あと、私はヘルプでベースとして入ったりとかしてる |
穂波 | いきなり知らない人たちと弾くのって、 合わせるの大変じゃない? |
志歩 | たいていどうにかなるよ。 ちょっとずつ音が合っていくの、けっこう楽しいしね |
穂波 | ふふ。そこを楽しめるっていうのが、 なんだか志歩ちゃんらしいかも |
志歩 | このガールズバンド、いつの間にかメジャーデビューしてたんだ。 ……前にサポートでライブ参加したのが懐かしいな |
志歩 | 頑張ってほしいな…… |
志歩 | 一歌、このCDおすすめ。 歌はミクで、曲の出だしが特によくてさ。 ちょうど試聴もできるみたいだし聴いてみて |
一歌 | うん…………あ、ほんとだ。 ミクの歌いだしのところ、かっこいいね |
志歩 | でしょ。それにギターとベースがそれぞれ主張の強い音を 出してるのに、不思議とうまく噛み合っててすごいよね |
一歌 | 私たちもいつかこれくらい高いレベルの演奏を できるようになりたいね |
志歩 | なりたい、じゃなくて、私はなる、けどね。 だから、みんなにもついてきてもらわないと困る |
一歌 | うん。がっかりさせないように頑張るよ |
志歩 | ……あった。 咲希、探してるって言ってたCDこれじゃない? |
咲希 | うん、これこれ! しほちゃん、すごいね。 アーティストさんの名前見ただけなのに、 まっすぐCDがある場所に案内できちゃうなんて! |
一歌 | うん。店員さん顔負けって感じ。 普段からよく来てるとか? |
志歩 | バイト行く前の時間つぶしとかでね。 なんとなく、どこに何があるかは覚えちゃったかな |
咲希 | そうなんだ! ちなみに、 しほちゃんのオススメのコーナーとかあったりする? |
一歌 | あ、それ私も知りたいな |
志歩 | ジャンル偏ってていいなら案内するよ。 ほら、こっち |
みのり | あっ、このアイドルのライブDVD、懐かしい! 振り付けがかわいくて、覚えるために何回も見てたなぁ |
みのり | ふふふ、帰ったら久しぶりに見ようかなって……あれ? どこにしまったかな……本棚? それとも、アイドルグッズ用の衣装ケース? |
みのり | ま、まさかうっかり捨てちゃってないよね!? 帰ったら探さなくちゃ! |
みのり | 遥ちゃん、愛莉ちゃん、見てこれ! このジャケットデザイン、かっこいいよ! |
遥 | 本当だ。アイドルグループのCDとは ちょっと思えないくらい |
愛莉 | そうね、メンバーの写真を 使ってないなんて珍しいわよね |
愛莉 | 『アイドル』に抵抗感がある人でも 手に取りやすいようにっていう工夫かしら |
みのり | なるほど。でもファン的には衣装を着たメンバーの 写真とかも欲しいって思いそうだけど…… |
愛莉 | 大丈夫よ。こういう場合、大抵 別バージョンのジャケットがあるもんだから |
みのり | そっか! よーし、ちょっと探してみよーっと。 えへへ、どんな感じなのかな~ |
遥 | (ふふ、ふたりとも研究熱心……というより、 いちアイドルファンね) |
みのり | あ、ライブグッズのコーナーがあるよ! |
遥 | 本当だ。定番のタオルに……あ、うちわも。 ライブになるとみんな持ってきてくれてたな |
雫 | ええ。手作りのうちわを持ってきてくれてるファンもたくさんいたわね |
みのり | うちわは想いを表現する大事な手段だからね! それぞれ知恵をしぼって工夫するんだよ |
みのり | 懐かしいなぁ、遥ちゃんのためのうちわ、 いろいろ作ったんだよ |
遥 | え、私の? |
雫 | ふふ。どんなうちわなのかちょっと見てみたいわ |
みのり | 『新世代アイドルオーディション開催』かあ |
愛莉 | みのり、そのオーディションがどうかした? |
みのり | あ、実は前に応募したことがあるんだけど、 初めて書類選考を通過できたオーディションなの |
みのり | そのあとの1次で落っこちちゃったけど。 でも、初めて自分を見てもらえたっていう気がして…… |
愛莉 | なんかわかるわ。わたしも最初に受けたオーディションは 落ちちゃったけど、思い出には残ってるもの |
みのり | 愛莉ちゃんって、こういうお店のステージにも 立ったことがあるんだよね? |
愛莉 | ファーストシングルのリリースライブでね。 ふふ、今でもはっきり覚えてるわ |
みのり | ……やっぱり、特別なものなの?リリースライブって |
愛莉 | そうね。わたし達にとっては、初めてお客さんの前で パフォーマンスを披露するっていうライブでもあったし |
愛莉 | お客さんはすぐ目の前だし、でも凝った演出はできない。 つまり、ごまかしが一切できないステージでもあったの |
愛莉 | だからはじめは緊張してたけど、でもお客さんの笑顔が見えて そこからは思い切り楽しめたわ |
みのり | そっか……いいなぁ、MORE MORE JUMP!として、 わたしたちもリリースライブやれるといいなぁ |
みのり | えーっと……あ、あった! ほら、この子だよ。この店いちおしの新人アイドル! |
雫 | あら?この子、どこかで…… |
愛莉 | わたしと雫が参加したオーディションにいた子ね。 たしか、最終選考のひとつ前くらいまで残ってたはずよ |
愛莉 | 審査員の前では笑顔だったけど、 控室に戻ったあと、ボロボロ泣き出しちゃって…… |
雫 | あ……それ、私も見かけたわ そっか。あの時の…… |
みのり | つまり、その悔しさから這い上がって、 こうして夢をつかんだってことだね! |
愛莉 | そうね。根性あるし、 将来私達のライバルになるかもね |
みのり | あ……このポスター、Cheerful*Days(チアフルデイズ)の…… |
雫 | ええ。新しいセンターになって、 初めての宣伝ポスターね |
みのり | あ、あの……雫ちゃん…… |
雫 | 大丈夫よ。そんな顔しないで? メンバーのみんなには迷惑をかけてしまったけど、 私、後悔はしていないから |
雫 | 私達4人で、頑張りましょう。 胸をはって、アイドルよって言えるように |
みのり | ……うんっ! |
遥 | あ……。ASRUNの特集コーナー…… |
みのり | 本当だ! ファーストシングルからアルバムまでそろってる。 あ、こっちには遥ちゃんのコーナーもあるよ! |
遥 | もうこんなに取り上げてくれなくても良いんだけど…… |
みのり | まだまだたくさんファンがいるってことだよね。 アイドルの遥ちゃんが戻ってきたら、 きっとみんなも喜んでくれるよ! |
遥 | ……うん、そうだね。 またみんなを笑顔にできるといいな |
愛莉 | あっ! アイドルグループの リリースイベントやってるじゃない! |
愛莉 | へぇ、初めて見るグループだけど、ダンスも歌もなかなかね。 それに、あの初々しさ、つい応援したくなっちゃう |
愛莉 | よし! CD、1枚買うわ! |
愛莉 | あ、そのライブDVDってもしかして…… |
雫 | うん。同期だった子達のだよ。……いつの間にか、 こんなに大きな会場でライブをするようになったんだね |
愛莉 | なに他人事みたいに言ってるのよ。 わたし達も行くわよ、ここに |
愛莉 | ……ううん! ここよりももっと大きいステージにね! |
雫 | ふふふっ、そうだね。絶対行こう、4人で |
愛莉 | あ、これ。雫のお父さんのバンドよね |
雫 | うん。最近、復刻盤が出たって聞いたけど、 きっとそれだね |
愛莉 | さすが有名バンド。 でも、アンタが娘っていうことはあんまり知られてないわよね |
雫 | そうだね。お父さん、本名では活動してなかったし、 音楽番組にも出たがらなかったから |
雫 | でもそのおかげで、私は私として活動できていたから、 これからもそうしていくつもりだよ |
雫 | お目当てのCDは買えた? |
みのり | うん、予約しておいたから。 えへへ、特典の特大ポスターも……ほら! |
雫 | お店の外にも貼られてるポスターね |
雫 | ふふ、アイドルデビューしたら、 いつかみのりちゃんのも貼りだされるかもしれないわね |
みのり | え……。うーん、まだ想像つかないけど……。 でも……あはは。なんか、ちょっと恥ずかしいかも |
雫 | この子達、最近注目されているグループよね。 ……すごい、こんなに激しいダンスを…… |
遥 | でも、歌声が全然ブレない。 体幹トレーニングをかなりやりこんでるのかも…… |
雫 | ええ。私達も見習わないと……遥ちゃん? |
遥 | 歌そのものの技術はみのりも向上してるし、 もっと全員で基礎的なトレーニングを増やして、底上げを…… |
雫 | あら……ふふ。遥ちゃん、燃えてるわね |
雫 | あら? これ、アイドルグッズみたいだけど……何かしら? 細長い物を入れるケースみたいだけど…… |
みのり | それ、銀テープホルダーだよ! ライブで飛んできた銀テープを、 保存しておくためのグッズなの |
遥 | そういえば前、銀テープに直筆のサインを 入れたことがあったっけ |
雫 | じゃあ、拾ってくれた人達は、 こうやって保存してくれてるのね |
みのり | うん、きっと! 銀テープもライブの大切な思い出だからね |
こはね | ……あ、このアーティストさん、 杏ちゃんが好きって言ってた人だ…… |
こはね | わぁ、ライブ映像も特典で入ってる。 見たら勉強になるかな? |
こはね | 私、このジャンルのアーティストさんまだ全然知らないし、 せっかくだし、買ってみようっと! |
こはね | ふわぁ…… |
杏 | こはねがあくびなんて珍しいね。 昨日、あんまり寝てないの? |
こはね | うん……。ほら、昨日杏ちゃんが貸してくれた CD聴いてたら、朝になっちゃって…… |
杏 | えっ! もしかして一晩で全部聴いたの!? 20枚くらい貸したはずだけど…… |
こはね | え? うん。どれもいい曲だったから |
杏 | あはは! こはねって、そういうところあるよね |
こはね | 最近は、ネットでダウンロードして買うことも多いけど、 やっぱり、CDって好きだなぁ |
杏 | あー、わかる!なんか、物として 手元にあるっていうのが、いいんだよね |
こはね | うん。私、買ったCDは決まった棚にしまうんだけど、 またひとつ宝物を見つけたぞっていう気持ちで並べたりして…… |
杏 | そうそう!私はジャケットの写真とか歌詞カードとかも 好きだから、いつまでもあったほしいなぁ |
こはね | 見て、杏ちゃん。杏ちゃんのお父さんのCD!ほら、この間、杏ちゃんが歌ってくれたあの曲が入ってる! |
彰人 | 歌った?謙さんの歌を? |
こはね | うん!オリジナルのままと杏ちゃんなりのアレンジをいれたのと、両方聞けてすごく楽しかったよ |
彰人 | へぇ、謙さんはなんて? |
杏 | いるところで歌うわけないでしょ |
彰人 | なんだ。つまんねぇ |
杏 | じゃああんたは歌えるわけ?父さんの前で、父さんの歌 |
彰人 | ……歌えるわけねぇだろ |
杏 | ほらー |
こはね | えーっと……あ、あった! |
彰人 | 何探してんのかと思えば、EDMか |
こはね | うん。杏ちゃんにいろいろいい曲教えてもらって、 ちょっと興味がわいたから |
こはね | そうだ、もしふたりのオススメもあったら知りたいな! |
冬弥 | それなら、前に彰人から教えてもらったオススメリストがある |
彰人 | それ……BAD DOGS組む前に渡したあれか? そんなもん、よくまだ持ってたな |
冬弥 | 物持ちはいいほうだからな。 小豆沢、それでよければ今度持って来る |
こはね | えっ、そんな大事な物、いいの? ありがとう、青柳くん! |
こはね | あっ、このポスターって、最近よく見る音楽グループの…… |
冬弥 | ああ、2MC、1DJ、1マスコットの…… |
こはね | 青柳くんも知ってるんだね。歌も楽曲もかっこいいけど、 マスコットの人のライブパフォーマンスもすごいよね |
冬弥 | 中の人間、本当はソロでも歌えるらしい |
こはね | えっ!?歌ってるところ見たことない……。 どういう感じで歌うの? |
冬弥 | 彰人に聞くといい。あいつもこのグループ好きだからな |
杏 | こはね、おかえり。CD買えた? |
こはね | うん! でもごめんね、ふたりまでつき合わせちゃって |
こはね | ダウンロードにすればいいんだろうけど、 なんとなく、お店に来て買うのが楽しくて |
冬弥 | それは俺も同じだ 俺もここにはよく来る |
杏 | 私も! やっぱ手に取ってみたり、 視聴したりして買うの楽しいんだよね |
こはね | えへへ、そっか。ふたりも同じで良かった |
杏 | こはね、このミュージシャンの曲を作ってるのって WEEKEND GARAGEの常連さんなんだよ。 ほら、よくカウンターにいる…… |
こはね | えっ! あのサングラスかけてる……? |
杏 | そうそう! そういえば冬弥もこの間、話してなかった? |
冬弥 | ああ。BAD DOGSを知っていたらしくて、 向こうから声をかけてきた |
冬弥 | 普段、自分が聴かないジャンルの音楽の話も聞けたり、 作曲について聞けたりして、有意義な時間だった |
杏 | うちの店はそういうことのために 出来たようなもんだから、 父さんもふたりの様子を見てて嬉しそうだったよ |
こはね | いいなぁ。次にお邪魔した時は、 私も誰かに話しかけてみようかな |
杏 | ねえ、レコードとか選ぶときどうしてる? |
彰人 | あー、だいたいジャケ買い |
彰人 | 好きな曲調とジャケット、リンクしてんだよな |
杏 | うわぁ、それわかる…… |
彰人 | おい、すげぇ嫌そうな顔で言うな。 オレもお前と一緒なんてゴメンだよ |
杏 | へぇ、このミュージシャン、 クラシックに合わせてラップしてる! |
杏 | ねえ、冬弥もこれちょっと聴いてみない? クラシックやってた人的にどう思うのか聞きたい |
冬弥 | クラシックとラップ、か。 そうだな、俺も少し聴いてみたい |
杏 | あ、父さん達のCD発見 まだこういうふうに置いてくれてるんだ |
杏 | ふふ、懐かしいなぁ。 私、自分のお小遣いで買ったことがあってさー |
冬弥 | ……自分の父親の曲を? |
杏 | あはは。昔はよく聴いてたし、歌ってたりもしてたかな |
冬弥 | ……今は、違うのか? |
杏 | えっ!だ、だって恥ずかしいじゃん、さすがに…… |
彰人 | おい、これ |
こはね | え……えっと、アルバム? |
彰人 | 反応薄いってことは、このチーム、知らないんだな |
彰人 | 杏が薦める曲だけじゃ、あいつの好みで偏るだろ。 ジャンル的に、有名どころはおさえておけよ |
こはね | うん、ありがとう! いろいろ聴くようにするね! |
彰人 | 今日は妙に人が多いと思ったら、 新人アイドルのミニライブやってたのか |
こはね | わぁ……歌、上手だね! |
杏 | ……遥も、デビューした時は、 こういう場所で歌ってたのかな |
こはね | どうかしたの、杏ちゃん |
杏 | ああ、知り合いにアイドルやってた子がいて。 大変なんだろうなって、ちょっと思って |
彰人 | (そういえば、中学からずっと 絵名の友達やってくれてるあの人も、 アイドルになったんだったな) |
彰人 | (もうやめたらしいけど、今どうしてんだろうな……) |
彰人 | そういえば、ここずっとミク関連のコーナーあるな |
こはね | あ、ミクちゃんのかわいいポップが立ってるところだよね |
こはね | たしか週ごとに ピックアップしてるクリエイターさん変わるみたい |
杏 | え、クリエイターさんなんて めちゃくちゃたくさんいるじゃん! |
杏 | ひとりひとりピックアップしてたら 全然終わらなくない? |
彰人 | ……なるほど。だからあそこだけずっと ミク特集のままなのかもな |
彰人 | ん? 奥のステージ、知らないうちに綺麗になったな |
こはね | ステージ? |
冬弥 | あそこにある。 たまにアーティストやアイドルグループが ミニライブをやっているんだ |
こはね | 本当だ! 私、ここでライブなんて見たことないかも…… |
杏 | 小さいからお客さんたくさんは入れないけど、 結構盛り上がるみたいだよ |
こはね | そうなんだ。ちょっと見てみたいなぁ |
杏 | んー、あ……週末、何かのミニライブあるみたいだよ。 えーっと……アイドルグループのリリースイベント、だって |
彰人 | オレはパス |
冬弥 | そうだな |
杏 | あんた達はそうでしょうね……。 こはね、当日ちょっと見にいってみようか |
こはね | うん! ありがとう、杏ちゃん |
彰人 | へえ。前にセッションしたアイツ、デビューしたのか |
杏 | 彰人も顔が広いね、相変わらず |
彰人 | オマエに言われてもな…… |
彰人 | オマエも相当知り合いいるだろ。 親父さんの昔の仲間とか |
杏 | まあね。けど、私自身が出会って わかり合った相手じゃないから、そこはノーカンだよ |
彰人 | お前、好きだよなCD。 今時、スマホに落とすことのほうが多そうなのに |
冬弥 | そっちも使わないわけじゃない。 けど、ジャンルが自分の好きな物に偏りそうだからな |
彰人 | ああ、それでポップが立ってるCDを 飽きもせずに片っ端から視聴してるのか。 確かに、思いがけない発見とか出会いはありそうだな |
冬弥 | ……彰人、これ |
彰人 | さっそく聴けって? まあ、今日は暇だしつきあうか |
冬弥 | ん……ひとりか? |
こはね | あ……えっと、杏ちゃんは、 お父さんの手伝いでちょっと遅れるって |
冬弥 | そうか。彰人も、バイトが少し長引いているらしい |
こはね | そうなんだ……大丈夫かな、ふたりとも…… |
冬弥 | あのふたりなら、ムリならムリと言うだろう。 俺たちは待っていればいい |
冬弥 | このCDのポップ……ずいぶん熱がこもってるな |
杏 | 本当だ。他のと比べても文字が細かいし多い |
杏 | えっと……ふふ、何これ。 とりあえず聞いた感想を書きなぐりましたっって感じ! |
こはね | このCDを聴いて、書かずにいられなかった っていう気持ちが伝わってくるね |
冬弥 | そうだな。普段聴かないジャンルだが興味がわいた |
杏 | あ、冬弥それ買うの? じゃあ、 私はこのアーティストさんの他のCD買ってみようかな |
えむ | ねえねえ、猫さんがたくさん出るミュージカルって、 すごく何度もやってるよね。そんなにおもしろいの? |
司 | 面白いも何も、世界的に有名なミュージカルだぞ!? 一度は見ておくべきだ! |
寧々 | ……うん。えむ、絶対ああいうの好きだと思う。 見たら猫になりそう |
えむ | むむっ! ふたりが言い合いせずに 息ぴったりにオススメするなんて……これは見なくちゃだね! |
寧々 | あ、このCD、こないだやったゲームのサントラかな……? |
えむ | さんとら……三匹のトラ?がおーんっ♪ |
寧々 | サウンドトラックのことだから。ミュージカルでいうなら、 劇中の音楽がたくさん収録されてる、みたいなCD |
えむ | へーっ!寧々ちゃんはよく聴くの? |
寧々 | まあね。聴くと、その曲が流れてた場面とかを思い出して、 浸れたりもするし |
えむ | いいね、それ!あたしたちのステージもサントラつくったら、 思い出して、そのたびに笑顔になってもらえたりするかなぁ |
寧々 | (あ、イベントカレンダー更新されてる。 来週の演目は 現役舞台役者による寸劇……へぇ……) |
えむ | ……あっ、来週、劇があるんだね! えへへ、楽しみだねっ☆ |
寧々 | はぁ……?何来る気満々になってんの? もし来るとしても、一緒には…… |
えむ | 劇♪劇♪るんるんる~ん♪ |
寧々 | き、聞いてないし…… |
奏 | あった……ネットでは取り寄せになってたけど、 念のために見に来てよかった |
奏 | ……そうだ。わざわざ来たんだし、 他にもいいCDないか探していこう |
奏 | 絵名ってメイクをする時何を考えてる? |
絵名 | え? 今日の肌の調子とか、 合わせる服のコーディネートとか、かな |
絵名 | それがどうかしたの? |
奏 | 今かかってる曲で、 『自分の顔をキャンバスに 理想の誰かをメイクする』 って歌ってたから、なんとなく |
奏 | あ……あった |
まふゆ | それ、ドラマのサウンドトラック? 奏、そういうのも聴くんだね |
奏 | うん。でも、こういうのに限って ダウンロードできないのも多くて困る |
まふゆ | あはは……奏の行動範囲、 ここか、コンビニかショッピングモールまで、だもんね…… |
まふゆ | 特集のコーナーが変わってる。えっと…… |
まふゆ | 疲れた心を癒やすヒーリングミュージック…… |
まふゆ | へえ……こういうので癒やされるんだね、みんなは |
まふゆ | みんなで話してたアーティストさんの曲を聴いてみたけど、 私、ピンとこなかったな。歌詞がしっくりこないっていうか…… |
奏 | ああ……たぶん、MVで見れば印象変わるよ |
奏 | 歌詞ではなるべく説明しすぎないで、 映像で補完してるっていう感じの曲が多いから |
まふゆ | そっか、そういうつくり方もあるんだ…… ありがとう、今度はMVを見てみるね |
奏 | 見たら感想教えて。 まふゆの解釈も聞いてみたいな |
まふゆ | この間、奏から聞いたアーティストの名前なんだったかな…… |
瑞希 | あれ?まふゆだー!やっほー |
まふゆ | 瑞希、絵名……ふたりもCD買いに来たの? |
絵名 | 私は筆圧ペン買った帰りにたまたま会っただけ。 なのに、一緒に行こうってうるさくって |
まふゆ | ふうん。……そうだ。この間、 奏が話してたアーティスト、名前、覚えてる? |
絵名 | あー、なんだったっけ? 最近、名前を聞くようになったアーティストだったと思うけど |
瑞希 | アウなんとか、じゃなかったっけ? よし。ボクの買い物の前にそれ探そっか! |
絵名 | んー。よくわかんないなぁ…… |
まふゆ | 絵名? こんなところでどうしたの? |
絵名 | えっ、まふゆ!? こんなところで会うなんてちょっとびっくり |
絵名 | 実は今、イラストの参考になるかなって思って いろんなCDのジャケット見てて…… |
まふゆ | へえ、勉強熱心だね。 それじゃ、後はがんばって |
絵名 | は? そっちから話しかけたくせに 最後まで聞かないってどういうこと!? ちょっと待ちなさいよ、まふゆ! |
絵名 | ……これじゃない。人写ってなくて、 モノクロ写真みたいな暗めのテイストだった |
彰人 | はぁ……。じゃあ……これか? |
絵名 | だから、モノクロ写真みたいだったって言ってるでしょ。 真面目に探す気あるの? |
彰人 | あるわけねえだろ。アーティスト名忘れたから ジャケ写で探すとかふざけたこと言い出しやがって |
絵名 | 仕方ないでしょ。 夜中にテレビで見かけただけなんだから! |
絵名 | ほら、早く次の持ってきてよ |
彰人 | あ? 人に指図する前に そのアーティストの頭文字くらい思い出せよ! |
瑞希 | あのアーティストのCDは……あ、あったあった! はい、フラゲっと |
瑞希 | あ、そういえば今日、最近見始めた あのアニメの主題歌も出る日だったっけ? |
瑞希 | そっちは別のお店の方が特典良かったはず……。 ちょっと面倒だけど、CDショップはしごしよーっと |
瑞希 | わっ、奏だ! 外出してるなんて珍しい! |
奏 | ……聴きたい曲があって |
瑞希 | へー! 奏はそういうの全部ダウンロードしてると思ってた |
奏 | いつもはそうだけど……、 回線の調子悪くて、時間かかりそうだったから |
瑞希 | じゃあせっかくだし、これからお茶しようよ! |
奏 | ……いや、わたしは…… |
瑞希 | たまにはカップ麺以外もお腹に入れたほうがいいよ! ねっ♪ |
瑞希 | ニーゴとして発表した曲、結構増えてきたよね。 アルバムのひとつやふたつ、出せちゃうんじゃない? |
まふゆ | ……でも、想像つかない。 私達の曲がここにあるCDみたいに並んでるなんて |
奏 | そう、だね。 そういうことあんまり意識してなかったけど…… |
奏 | たしかにCDになったら、 もっとたくさんの人に曲が届くかもしれない |
まふゆ | ……奏は、ただ曲を作るだけじゃなくて、 やっぱり、救ってあげたいんだ? |
奏 | ……うん。 『誰かを幸せにする曲』を作り続ける…… |
奏 | それが、お父さんとの約束だから |
瑞希 | ……CDの話は抜きにしても、届くといいよね |
瑞希 | 奏の曲が、奏の曲を必要としてる人に |
瑞希 | えーっと、たぶんここの棚のどこかにCDがあるはず! |
奏 | ……わざわざ店で買わなくても…… ダウンロードするとか |
瑞希 | だって手元に置いておきたいんだもん。 それに、ここで買うと特典ももらえるしね♪ |
まふゆ | 瑞希って、結構物欲強いね。 ……あった。これじゃない? |
瑞希 | そう、それ! ありがと、まふゆ! |
瑞希 | あはは。こうやって目的の物を見つけられると すっごく嬉しいし、カワイイ服すぐに欲しくなるし、 たしかにボク、物欲は強いほうかもねー |
奏 | それはいいけど、時間…… |
瑞希 | あ、本当だ。 絵名が怖〜い顔して待ってるかもだし、 急いでファミレス行かなくちゃね |
瑞希 | あ、これこれ!この初回限定盤が欲しかったんだよね! |
まふゆ | ……アニメの主題歌の、CD? |
瑞希 | そう!ノンクレジットのOPと、 EDの映像が入ってるんだ! |
瑞希 | 映像きれいだし、演出も凝ってるから、 じっくり見たかったんだぁ |
まふゆ | そんなに深く好きになれるものがあるんだね、瑞希は |
瑞希 | まふゆにだって、出来るかもしれないよ? そのためにもまず自分の中の「これが好き」っていう気持ちを 見つけていかないとね! |
瑞希 | あった……これこれ! ちょっとテイストが“OWN”に似てるアーティスト |
瑞希 | ボク達と同じで全然顔出さない、謎のロックバンドでさ |
まふゆ | ……ジャケットの写真、逆光で全然顔見えない。 こっちを見てるのに、見てないみたい |
瑞希 | バンドのコンセプトが 『光に背を向けた僕等』らしいからね |
瑞希 | よかったら聴いてみてよ! |
まふゆ | ……そうだね。せっかく教えてもらったし。 聴いてみようかな |
一歌 | ……服見ようとすると、すぐ店員さんが話しかけてくるよね。 あれ、苦手だな…… |
咲希 | そう?アタシはうれしいよ。 似合う服、一緒に探してもらえるし! |
一歌 | ああ……自分に似合う服って、結構探すの難しいしね。 そっか、誰かに見てもらうのもいいかもな…… |
咲希 | はっ! この流れって、アタシに選んで欲しいってことだよね? |
咲希 | そうと決まればお店にレッツゴー! あっ、あのトップス!きっといっちゃんに似合うよ! |
一歌 | ちょ、ちょっと咲希! そんなに引っ張らないでってば! |
一歌 | あ、犬用の服がセールだって。 穂波、しばおに似合う服があるかもしれないよ |
穂波 | うん。参考になるデザインあるかも! |
志歩 | デザインって? |
穂波 | わんちゃん用の服、買うと高いし 微妙にサイズが合わないこともあるから、 着せてあげたい時は自分で縫うの |
一歌 | さすが……! 穂波って女子力高い……。 というか、もう主婦の域だよね |
志歩 | けど、裁縫できるお母さん今時少ないんじゃない? だからむしろ……おばあちゃん力? |
穂波 | ええ!? お、おばあちゃんはやめてよー |
咲希 | 雑誌で見かけたヘアアクセ、買えて良かった! 明日、学校につけていこうかなぁ |
咲希 | ……ふふ、トレンドアイテムをトレンドになってるうちに 手に入れられるなんて、幸せ! |
咲希 | もう病院に戻らなくていいように、 ぜーったい、この健康を守らなくっちゃ! |
咲希 | いっちゃんとショッピングモールに来るのも久しぶり! |
一歌 | うん、いろいろショップも変わったりしてるみたいだし、 新鮮な気持ちで回れるかもね |
咲希 | あれ?もしかしていっちゃんもここ久しぶり? |
一歌 | まあね。全然来なかったわけじゃないけど。 見覚えのないお店ばっかりでちょっとびっくりしてる |
咲希 | あはは!じゃあふたりでいろいろ発見しながら回ろっか! |
咲希 | このヘアクリップ、ほなちゃんに似合いそうだよ! |
穂波 | わ、かわいいね。 あ、でもこれ、後ろで留めるタイプの ヘアアクセだよね。それだと、使う機会があんまりないかも |
咲希 | そういえばほなちゃん、いつも横に髪結ぶもんね |
穂波 | うん。簡単だからシュシュを使うことが多いかな |
咲希 | うーん。絶対似合うと思うんだけどなぁ。 ねえ、ほなちゃん。ちょっと試させてもらってもいい? |
穂波 | ふふ、もちろん |
咲希 | せっかくバンド組んだんだし、 何かおそろいの物を持ちたいね |
穂波 | おそろいの物、か……。ふふ、昔みんなで買った、 フェニーくんのぬいぐるみを思い出すなぁ |
志歩 | そうだね。 けど、咲希。何か目星はつけてるの? |
咲希 | え、うーん。Leo/needだし……。 星型のなにかとか! |
志歩 | ……わかった。 とりあえず思いついたから言ってみたパターンだね |
咲希 | てへっ、やっぱりわかった? |
穂波 | ふふ、バレバレだよ。 じゃあ一歌ちゃんが来たら、4人で探してみようか |
咲希 | うーん……どっちのチークにしようかなぁ。 こっちの色もいいし。この色もいいなぁ |
志歩 | はぁ、どっちの色も そんなに変わらないでしょ |
咲希 | そんなことないよ!こっちは血色が良く見えて、 こっちはラメが入ってて…… |
穂波 | 今ここで無理に決めなくていいんじゃないかな? もっといいのが見つかるかもしれないし |
咲希 | 確かにそうかも。 ちょっと保留しておこうっと |
志歩 | (穂波、ナイス) |
咲希 | しほちゃん見て! 『これであなたもキーボードマスター!』だって! |
志歩 | 何その本、うさんくさ |
咲希 | えー!タイトルはちょっと残念だけど、 中身はしっかりしてるよ、ほら! |
志歩 | ……本当だ、意外とちゃんとしてる。 ギャルっぽい見た目と中身が違う咲希と一緒じゃん |
咲希 | あ、ちょっとバカにしてるでしょー! この本で勉強して、あっと言わせちゃうからね! |
咲希 | しほちゃんってフリフリの服とか着たりしないの? ほら、あのふわっとしたスカートとか、似合いそうなのに |
志歩 | 動きづらいし、洗濯も気を遣いそうだし……着ない |
咲希 | 大丈夫だよ!最近のって伸縮性のある生地だったり、 洗濯しやすく作られてるし! |
志歩 | そうかもしれないけど。着る服は自分で決めるから |
咲希 | そっかぁ……ちょっと残念…… |
志歩 | (この間、お姉ちゃんも同じようなこと言ってたけど、 なんでみんな、私にフリフリの服着せたいの……?) |
咲希 | ねぇねぇ、見て! あそこでお菓子のつかみ取りやってるよ! 楽しそう! |
一歌 | 本当だ。久しぶりに見た |
穂波 | あ、でも小学生以下のお子様……って、書いてあるね |
咲希 | まあそうだよねー、残念…… |
咲希 | あ、じゃあ、ケームセンターに行かない? お菓子が取れるゲームあったよね! |
一歌 | ああ、昔みんなでやったよね |
穂波 | 欲しいお菓子が取れなくて 咲希ちゃんすっごく泣いてたよね。 見かねたゲームセンターの人がお菓子くれて…… |
咲希 | ちょ、ちょっとちょっとー! その話はいいよー! |
咲希 | 見て、お兄ちゃん。 パンダの顔になるフェイスパックだよ! かわいいー! |
司 | そのようだな。ワンダーステージにいる着ぐるみのパンダどもより よっぽどかわいげのある顔だな |
司 | ハッ……!! |
咲希 | お兄ちゃん? 急にきょろきょろしてどうしたの? |
司 | い、いや、なんでもない。 ……下手なこと言うと、恐ろしいからなあいつら…… |
穂波 | あ……このリボンがついてるスニーカー、かわいい |
穂波 | 今履いてるの、古くなってきたし新しいの買っても…… |
穂波 | でも、お気に入りだし……。変えるのはまだ先でいいよね |
穂波 | お待たせ! ごめんね、時間かかっちゃって |
一歌 | わ。すごい荷物。 何をそんなに買ったの? |
穂波 | 掃除用品だよ。 うちにあるのそろそろ買い替え時だったから |
一歌 | ……なるほど。 相変わらず掃除が大好きなんだね |
穂波 | えへへ、散らかってる部屋を綺麗にできると すっごく気持ちいいんだよね |
一歌 | 私も穂波みたいにしっかり掃除してみようかな |
穂波 | わたし、バニラにしようかなぁ。 志歩ちゃんはどのアイスにする? |
志歩 | 穂波、アップルフレーバーじゃなくていいの? |
穂波 | アップルパイは好きだけど、アイスは全然別だから。 志歩ちゃんだって、ラーメン味のアイスがあっても 選ばないでしょ? |
志歩 | 選ばないけど……それとこれとは違う気がする |
穂波 | あ、あのワンピースかわいいなぁ |
志歩 | へえ、穂波、こういうカジュアルなの好きなんだ |
穂波 | うん。わたしが着るとお母さんっぽくなって あんまり似合わないんだけど…… |
志歩 | ……試着してきたら? |
穂波 | え?いいの? |
志歩 | うん。穂波に似合いそうだし |
穂波 | ……うん!ありがとう、志歩ちゃん! |
志歩 | お姉ちゃん……もっと離れて歩いて |
雫 | そんな……せっかく一緒にお買い物しに来たのに |
雫 | ……やっぱり、私みたいなアイドルの妹だって 知られるの、迷惑? |
志歩 | そうじゃなくて……。 距離が近くて歩きづらいから離れてって言ってるの |
雫 | あ……よかった。そういうことだったのね! |
志歩 | あっ、もう! だからなんで寄ってくるの!? |
みのり | あ、ねえねえ、雫ちゃん。このお店って、 前に雫ちゃんが一日店長をやったお店だよね! |
雫 | ええ。すごくたくさんの人が来てくれたけど、 レジの打ち方がわからなくて大変だったわ |
雫 | でも、その時教わったしわにならない畳み方とか、 かさばらせない畳み方とか、今でも実践してるのよ |
みのり | わあ、いいなあ……! その畳み方、今度教えて! |
雫 | ええ、もちろん |
みのり | うう、雫ちゃんや愛莉ちゃんと買い物なんて……! き、緊張する……! |
愛莉 | いい加減慣れなさいよね。 ただの友達同士の買い物なんだから |
雫 | あ、そうだ。私達が変装するのはどう? |
愛莉 | え?なんでよ |
雫 | みのりちゃんが私達だって気がつかないようにするの。 そうしたら、緊張しなくてすむでしょう? |
みのり | えっと……なる、ほど? |
愛莉 | 何を納得しかけてんのよ! |
愛莉 | それと雫! どこからどうつっこんでいいのか わからないボケしないでよね! |
みのり | このワンピースかわいいけど、Lサイズかぁ。 私が着たら、ダボっとしちゃうよね |
雫 | でもこのデザインなら、肩幅があえば ちょっとヒールのある靴をはくだけで バランスが取れるんじゃないかしら |
みのり | わっ、なるほど! |
遥 | そんなにすぐコーディネートが浮かぶなんて……。 モデルやってた頃の知識? |
雫 | ええ。いろいろな服を着させてもらったから |
雫 | あ……この靴。 ヒールも高すぎなくてはきやすそうよ |
みのり | 本当だ! ありがとう、雫ちゃん。 さっきの服と一緒に試着してみるね! |
遥 | あ、前に買ったペンギンのマグカップ、また入荷したんだ |
遥 | ……ひとつ持ってるけど、一羽じゃかわいそうかな |
遥 | すみません、このペンギンのマグカップください |
遥 | あ。あっちのお店、あとで寄ってもいい? ペンギンのグッズがあるみたい |
愛莉 | あっちのお店って……え、上の階!? よく見つけたわね、あんなところ…… |
雫 | わかるわ。大好きなものが視界に入ると 目が自然とそっちに向くのよね |
遥 | うん、そういう感じ。 雫もそういうことあるの? |
雫 | ふふ、私にとっては、妹のしぃちゃんがそうだから |
愛莉 | で、そのせいでちょっと煙たがられてると |
雫 | えっ、そ、そんなことは…… |
愛莉 | あっ! いつの間にか新作のトップス入荷してるじゃない! |
愛莉 | んー、今日はアクセだけで、服を買う予定なかったけど、 えっと、値段は…… |
愛莉 | 良かった、予算内だわ! ふふ、こういうのは出会った時に買わなくっちゃね! |
愛莉 | あ、向こうのお店で和菓子が売ってる。 帰りに買っていかなくちゃ! |
みのり | そういえば、愛莉ちゃんって和菓子が好きなんだよね。 テレビで話してるの、聞いたことある! |
愛莉 | へえ、よく覚えてたわね。 季節も感じられて、見た目もかわいいし、 食べても美味しいし、もういうことなしよね!和菓子って |
みのり | あれ?でもテレビで話してる時、 うっかり食べ過ぎて体重が…… |
愛莉 | そ、そんなことまで覚えてなくていいのに! |
愛莉 | えっ、遥、ショッピングモールで買い物したことないの!? |
遥 | そうね……来たことはあるけど、 いつもイベントのためだったし |
愛莉 | わ、わたしだって、プライベートより 仕事で来たことのほうが多いわよ……たぶん |
遥 | (そこ、張り合うところなの……?) |
愛莉 | ここのお店のアクセサリー、やっぱりかわいいわよねぇ…… |
みのり | 愛莉ちゃん、ここのお店でよく買い物するの? |
愛莉 | ええ。お手頃な値段でかわいいのが手に入るのよ。 ほら、これとかかわいいでしょ? で、値段は…… |
みのり | わ、安い……! お給料日前のわたしでも買えちゃう! あ、こっちのもかわいい! この色違いのも! |
愛莉 | あっ、コラ! いくら安いからって、考えなしに買ったらダメよ! お金は、大事に、計画的に使わなくっちゃ! |
愛莉 | んー、これも良さそうだけど成分的には…… |
遥 | ずいぶん真剣に悩んでるみたいだけど、 何を見てるの? |
愛莉 | パックよ、パック。 お風呂の後のリラックスタイムに使うの |
雫 | ふふ。愛莉ちゃん、ボディケアとかヘアケアとか すごく好きだもんね |
愛莉 | アイドルなんだから、 そういう身体のお手入れも仕事のうちなの |
愛莉 | ……よし、これに決めた! ふふ。今夜、さっそく使ってみようっと |
雫 | あの作家さんの新作がいつの間にか出ていたなんて。 久しぶりに本屋さんに寄ってみてよかったわ |
雫 | 今日のボイストレーニングが終わったら、 さっそく読んでみようかしら |
雫 | あっ、しぃちゃんこの服見て? とてもかわいいわよ |
志歩 | お姉ちゃん……まさかそれ着ろなんて言わないよね? ピンク色でフリフリで、リボンもたくさん…… |
雫 | うーん、似合うと思うんだけど…… |
志歩 | え? ちょっと持ってこないでよ……! 絶対に着ないからね! |
雫 | ええと、愛莉ちゃん達と待ち合わせしてる場所は…… あ、こっちね |
みのり | あっ、雫ちゃん、そっちは反対だよ! |
みのり | (というか、今歩いてきた方向だよ……!?) |
雫 | あら。ごめんなさい |
雫 | ちょっとお店によると どっちから来たのかわからなくなっちゃって、 つい、同じところをぐるぐるしちゃうの |
みのり | (愛莉ちゃんから聞いて知ってはいたけど……。 ぜ、絶対、雫ちゃんから目を離しちゃダメだ……!) |
雫 | あら、わんちゃん用の服のお店があるわ |
遥 | 期間限定ショップみたいだね。 みのり、ちょっと見ていく? |
みのり | うーん、興味はあるんだけど……。 サモちゃんのサイズに合う服って、なかなかないんだ |
遥 | そっか。かなり大きいんだよね、サモエドって |
みのり | うん。それに、サモちゃんはあの もっふもふ具合が最高なんだ~ |
雫 | じゃあ、服を着せちゃうとせっかくのもふもふが 楽しめなくなっちゃうわね |
みのり | そうなの! かわいくおめかししてあげたいけど、 もふもふも捨てがたくって! |
雫 | ふふ。そんなに惜しむくらいのもふもふなのね |
遥 | いいね。一度でいいから撫でてみたいな |
みのり | じゃあ、今度家に来る? サモちゃん撫でられるの好きだし、きっと喜ぶよ! |
遥 | いいの? それじゃあ、甘えちゃおうかな? |
雫 | 遥ちゃんは、お洋服ってどこで買っているの? |
遥 | 昔はスタイリストさんから譲ってもらったりしてたけど、 最近はネットショッピングかな |
雫 | ネットショッピング……難しくて、大変じゃない? |
遥 | そう?まあ、手に取ったり見たりできないから、 実物がイメージしてたのと違うってことはたまにあるけど…… |
雫 | だってほら、身に覚えのないものを買ってしまったり、 元の画面への戻り方がわからなくなってしまったりするでしょう? |
遥 | あ……難しくて大変って、そういうこと……? |
雫 | 愛莉ちゃん、今日はずいぶんいろいろ買ったね |
愛莉 | まあね。予定外の買い物もしちゃったけど、 予算内にはおさまってるから、セーフ! |
遥 | あ、ちゃんと予算を決めて買い物してるのね |
愛莉 | 当然でしょう? ちゃんとお小遣い帳もつけてるわよ |
遥・雫 | ………… |
愛莉 | な、なによ、その『すごく意外』って顔は! |
雫 | こんなところに雑貨屋さんがあったのね。……あら? |
雫 | 愛莉ちゃん、このボールペン、見て。 使うといい香りがするみたい |
愛莉 | ふーん。そういうペンもあるのね |
雫 | 面白いよね。あ、手に何か書いてみようかな。 そうしたら、ずっと手からいい香りがして…… |
愛莉 | そういうのはハンドクリームでやりなさい! |
雫 | あ……このハンカチ。無地だし、使いやすそう |
みのり | 雫ちゃんは、ハンカチに模様入ってるの嫌いなの? |
愛莉 | ああ、違うのよ。 この子、刺繍が好きだから |
雫 | ええ。こういう無地のハンカチを買って、 模様とか文字とか、いろいろな柄を自分で刺繍するの |
みのり | ええ、すごい! じゃあじゃあ、 MORE MORE JUMP!って、入れられたりする? |
雫 | ふふ。もちろんよ。 せっかくだし、4人分作ってみるわね |
愛莉 | いいじゃない! 楽しみに待ってるわ |
こはね | 青柳くん、こんにちは |
杏 | えっ、ひとりなの!? 珍しいー |
冬弥 | いつも彰人といるわけじゃないんだが…… |
杏 | それはそうだけど、なんか違和感あるっていうか…… |
こはね | ふたりとも信頼し合ってる『相棒』っていう感じだもんね |
冬弥 | 『相棒』か。そうありたいと思っているが 人から見てもそう見えるなら、それは嬉しい |
こはね | あ、本屋さんだ。 最近、あんまり本読んでないし、何か買っていこうかな |
冬弥 | 読書、好きなのか? |
こはね | 青柳くんほどじゃないよ。でも時どき、 あー何か面白い本読みたいなっていう気持ちになるの |
杏 | ねえ、冬弥。なんかオススメある? できれば、私でも気軽に読めるやつ |
冬弥 | それなら……これはどうだ。 原作は小説だが、コミックス版も出てる |
杏 | あ、いいね! 私、コミックス版にしようかな |
こはね | じゃあ私は、原作の方を買うね。 えへへ。これならお互いに感想を言い合えるね |
こはね | あ! 東雲くん、こんにち…… |
彰人 | バカ! でかい声で名前呼ぶな。 絵名……姉貴に、居場所がバレるだろうが |
こはね | え、お姉さん? バレちゃダメなの? |
彰人 | 荷物持ちだって、無理やり連れてこられたんだよ。 ったく、毎回毎回、付き合ってられるかっての |
こはね | (じゃあ、何回かは付き合ってあげてるんだ……? ふふ、なんだか意外かも) |
杏 | あ、写真映えする新作デザートだって! こはねってカメラ得意なんだよね。 スマホのカメラでもきれいに撮る方法とか知ってる? |
こはね | えっと、光の当て方とか、角度とか、 撮るときのコツなら教えてあげられると思う |
杏 | ふふ。じゃあこはねの腕を信じて、 ここのデザート頼んでみようかな! |
こはね | え、あ、杏ちゃん。 そんな風にプレッシャーかけなくても…… |
杏 | アハハ、ごめんごめん! それ抜きにしても このデザート食べてみたいし、お店入ろうよ! |
彰人 | なあ、今日なんかあったか? |
冬弥 | いや、特に…… |
彰人 | そんなしかめっ面で言っても説得力ねえよ。 で、どうしたんだ? |
冬弥 | ……朝、父親と鉢合わせしそうになって 朝食を食べ損ねた…… |
彰人 | ああ、そういうことか。 じゃ、ハコ入る前に、そこのカフェで軽く食べてくか |
冬弥 | そうしてもらえると助かる |
冬弥 | ……ん? 今、話題のミステリー『遊園地の悲劇』……? |
冬弥 | この表紙の遊園地、もしかして司先輩がいる…… |
冬弥 | ああ、やっぱりあの遊園地が舞台なのか。 面白そうだな |
冬弥 | ……なぜ吹き抜けにしたんだろうな |
彰人 | それはまあ、広く見せるためだろ |
冬弥 | だが、通路側の手すりをガラス張りにして、 下がのぞけるようにする必要はなかった |
彰人 | 怖いなら、のぞかなきゃいいだけだろ |
司 | ほほう。ヴィシソワーズにカルパッチョ、ジンジャーポーク。 このカフェのランチは、コースメニューなのか! |
司 | ジンジャーポーク……は生姜焼きだろうが、 他は……よくわからん! |
司 | まあだが、名前の響きがかっこいいからな! 美味しいに違いない! |
司 | 今日はバイト代も入ったし、オレのおごりだ。 咲希、この棚にあるお菓子から、 好きな物を好きなだけ選ぶがいい! |
咲希 | そう言われても、ここ全部駄菓子じゃん |
咲希 | それなら……どーん! |
司 | んなっ!? 箱ごと、だと!? |
咲希 | えへへ、これぞ大人買い! ありがと、お兄ちゃん♪ |
司 | 類が用事で来られないから、 代わりにオレが小道具を運ぶという話だったが…… |
司 | なんだこの大量の荷物は。 お前達、いったい何を買ったんだ? |
えむ | 石けんをねー、えっと、100個! よかったね、司くん。すごくいいにおいの石けんだし、 きっと楽しいパフォーマンスができるよ! |
司 | ちょ、ちょっと待てぃ! お前達、オレにどんなパフォーマンスをさせる気なんだ!? |
司 | お、寧々! お前もこの期間限定の 『チョコミント味のポップコーン』を買いに来たのか? |
司 | おっと、悪いがこれはやれんぞ。 お菓子に目がない、我が妹に頼まれたものだからな! |
寧々 | まだ何も言ってないし。 ていうか、歯磨き粉味のお菓子を食べたがるとか、 そんな人間、本当に存在してるわけ? |
司 | 待て待て! 少なくともオレの妹は実在するからな!? |
司 | な、なに!? このミュージカル映画、もう公開していたのか! |
寧々 | ……は? 公開日、先週なんだけど。 情弱すぎない? |
司 | ぐぬっ……!? オレは多忙だからな! 忘れることもある |
寧々 | じゃあ、忙しい司のために、わたしが内容教えてあげる。 この主人公って実は…… |
司 | え、あっ、うわああああっ! や、やめろー! ネタバレだけは、やめてくれー!! |
司 | むー、ここには裁縫関連の店はないのか |
えむ | えっ! 財宝関連のお店!? |
司 | 裁縫関連、だ! |
類 | もしや、司くんは裁縫ができるのかい? |
司 | ああ。自分好みの カッコイイ服を作ろうとしているうちにな |
司 | だがオレはまだまだ中級レベル。お前や寧々の衣装を 用意したとかいう人物のほうが、腕はよさそうだ |
司 | 全体的なバランスはもちろん、見た目の良さと 動きやすさを共存させたデザイン! あれは見事なものだ |
えむ | そうなんだー! 類くんのお友達、すごいね! |
類 | フフ、ありがとう。 今度会ったら、本人にも伝えておくよ |
司 | たしかこのあたりの雑貨屋で、 妹が面白いものを見つけたと言っていたが……あった! |
司 | 見ろ、バイオリン型のメジャーだ! |
司 | こいつを伸ばすと……ほら! バイオリンの有名曲の譜面が目盛りになっているのだ! |
類 | メジャー……有名曲……フフ。 もしかしてメジャーとメジャー曲とをかけているのかな? |
寧々 | そのせいで目盛り、すごい見にくくなってるんだけど |
司 | ふっ、安心しろ。 ほら、裏は普通のメモリになっている。これなら…… |
寧々 | は? 何その中途半端。 そこは別の曲の譜面にしておくところでしょ |
司 | なぬ!? 見にくいと文句を言ったくせに!? |
類 | フフ、寧々も意外とあまのじゃくだね |
司 | よし、全員そろったな |
えむ | おー! 楽しみだねっ、みんなで映画~♪ |
寧々 | ……ステージの練習でもないのに なんでわざわざ…… |
類 | あのミュージカル映画は次のショーの参考にもなると思うよ |
類 | それに、感想を言いあえるんだ。 楽しめそうだと思わないかい? |
寧々 | ……どうだか |
えむ | わくわくっ☆ わくわくっ |
寧々 | ……ふたりとも、映画館では静かにね |
えむ | はーい♪ |
司 | なぜオレにまで言う!? |
えむ | あっ! アップルパイのいい匂いがすると思ったら、 穂波ちゃんだー! |
穂波 | こんにちは、えむちゃん でも、今日はアップルパイ持ってないよ |
えむ | ホントだ、。でもでも、くんくん……くんくん…… アップルパイの匂いする…… |
穂波 | ふふ、実は、今日は手作りしてて、 材料が足りなくなっちゃったから買いに来たの |
えむ | ほえ、手作りすごーい! いいなあ。 お料理できると、好きなときに好きな物を好きなだけ食べられて |
えむ | 司くん、もうすぐ新しい小道具が届くから、 運ぶの手伝ってー |
司 | ああ、お前と類とで準備したとか言うアレか。 で、具体的に何が届くんだ? |
えむ | えっとねぇ。司くんを吊るす鎖と、ザクザク刺す剣でしょ、 あとは…… |
司 | 待て待て待て! 吊るすとか刺すとか、 そんな演出になったのか!? 聞いてないぞ! |
えむ | うん! 類くんが、サプライズだから内緒って |
司 | あーいーつー!! 類! 類はどこだ!? |
えむ | あ、見て見て! かっこいい表紙の本があるよ! |
司 | ほう、『尊敬されるリーダーになるための本』か |
寧々 | 世界一あんたには関係ない本だね |
司 | フッ、まあオレはすでにリーダーとしての実力を いかんなく発揮しているからな! |
寧々 | その謎のポジティブさはどこから生まれてくるわけ…… |
えむ | あ、ねえねえ。こっちにも面白い表紙の本があるよ♪ |
寧々 | あっちはあっちで話聞いてないし。 まったくもう…… |
えむ | 寧々ちゃんが教えてくれる映画、いつも面白いよね |
司 | そうだな。 ああいう情報はどこから仕入れてくるんだ? |
寧々 | 別に、普通にネットとか。 あと、映画部に入ってるからそこにいる人からとか |
えむ | 映画部!? そんなすごい部活があるの!? |
司 | ……オレも入学当初間違えそうになったが、映画を撮る部活じゃないぞ |
寧々 | そっ、いい映画をお薦めし合って ただ見るだけの部活。幽霊部員も多いしね |
えむ | 幽霊!? 幽霊の部員がいるの!? |
寧々 | ……これ、乗ってあげなきゃダメ? |
司 | やめておけ、キリがないぞ |
えむ | あ、類くんが来たかったのってこれ? 『不思議な不思議なカモノハシ展』! |
類 | ああ。子供向けの内容だろうけど、 個人的にカモノハシには大いに興味があるんだ |
寧々 | 哺乳類なのに卵を産むから……だっけ? |
類 | そうとも! 4本の脚を持ち、しっぽもあり、緻密な体毛を持ち、 生まれた子供を母乳で育てる……! |
類 | 哺乳類としての性質を これだけ持っているにも拘わらず卵生……! |
類 | これほどおかしな生き物を前にして 興味をそそられないはずがない! |
えむ | ほえー。類くんは演出家だけじゃなくて、 動物の先生にもなれそうだね |
寧々 | わたしも昔からそう思ってるけど、 でもこっちはあくまで趣味みたい |
類 | フフ。さて、隅から隅まで 展示を堪能しようじゃないか! |
寧々 | あ、この映画。 前に、学校の映画部でも話題になってたやつだ |
寧々 | でも、今日は…… |
寧々 | これこれ……新作のミュージカル映画。 この映画は大きなスクリーンで見たかったんだ |
寧々 | ……何あれ。たい焼きパフェ? |
えむ | たい焼きパフェ!? なにそれなにそれ!? |
寧々 | ほら、あの店の看板。 へー。たい焼きの中身があんこじゃなくて 生クリームとかフルーツとかが入って…… |
寧々 | ……あれ、えむ? どこ? |
えむ | すみませーん! たい焼きパフェ、あたしとあの子の分で、ふたつくださーい! |
寧々 | え、早っ……! |
寧々 | ……ショッピングモール、よく来るの? |
えむ | うん!ここならな~んでもそろってるからねっ! 寧々ちゃんは、違うの? |
寧々 | わたしは、通販。 わざわざ買いに行かなくても、持ってきてくれるし |
えむ | じゃあ、今日はどうして一緒に来てくれたの? |
寧々 | え……それは、あ、あんたが無理やり誘うから、仕方なく。 ……ほら、買いたいものあるんでしょ。早く買えば? |
類 | 商品を3点以上お買い上げでバルーンアートをプレゼント? ふむ。子供向けとはいえ、この出来栄えは少し貧相に感じるねぇ |
類 | ちょうど店員さんもいないようだし、 これを……こうして…… |
類 | よし、出来た。バルーンアートのステゴザウルスだ。 フフ、これならば子供達も大いに喜んでくれることだろう |
類 | 身に覚えのない店員さんも、大いに驚くだろうけどねえ |
類 | 君からのお誘いとは珍しいねぇ。 それで、どうしても出たいキャンペーンというのは? |
寧々 | でこぼこ割引 |
寧々 | 今日から始まる映画が、身長差のあるバディ物で、 一緒に見る人の身長差分、割引してくれる |
類 | へえ、そういう企画があるとは初耳だよ |
類 | うん。いいね、そういう新しい試みには興味がある。 さあ、早く行こうじゃないか |
類 | おや、今日は曲芸パフォーマンスがあるみたいだねぇ |
えむ | ホントだ、ポスターが貼ってある! ねえねえ、見に行こうよ! |
類 | いいとも……おや? フフフ、飛び入り参加も可能と書いてあるね |
寧々 | もしかして類、参加するの? でも、道具とか持ってきて…… |
類 | フフフ。あるんだねぇ、これが。 いつ何時、機会が訪れるかわからないからね |
えむ | わーい! それじゃあ、あたし達3人でやろー! |
寧々 | え、わ、わたしやるなんて一言も! ちょっと、類。笑ってないで止めてよ……! |
絵名 | あ、見て!このぬいぐるみ可愛い! 買っちゃおうかな♪ |
まふゆ | ……自撮りにたまに写ってるぬいぐるみ、 こういうところで買ってたんだ |
奏 | でも、前に見たことある絵名のぬいぐるみと ちょっと雰囲気が違う気がする |
絵名 | あ、それ。弟経由でもらったヤツかも |
絵名 | 弟の友達にゲーセン好きがいるみたいで、 たまにだけど、戦利品が回ってくるんだよね |
絵名 | まっ、私の好みじゃない時もあるけど、 映えるし、使わない手はないよね |
絵名 | あ……ねえ、この服可愛くない? |
瑞希 | うん、いいねそれ。 値段のわりに生地もしっかりしてるし、 コーデ次第でオールシーズン使えそう♪ |
まふゆ | ……ふたりとも、このお店から全然進まないね |
奏 | うん |
奏 | (新曲アップの打ち上げは終わってるんだし。 今なら別に帰っても……) |
絵名 | ねえ、奏! |
奏 | ……! |
絵名 | この帽子どうかな? 奏に似合うと思うんだけど! |
奏 | ぼ、帽子……? でも、わたし外に出ないから…… |
瑞希 | この帽子があれば 太陽が眩しいとか気にせず出かけられるよ! |
奏 | だから、そもそも外には出ないから…… |
瑞希 | いいからいいから。ほらこっち来て! |
奏 | あ、ちょ、ちょっと……! ま、まふゆ…… |
まふゆ | 私のことは気にしないで。 いってらっしゃい |
奏 | あ……そ、そんな…… |
絵名 | ふーん、お母さんへの誕生日プレゼントね |
まふゆ | ……うん。さりげない感じのアクセサリーがよさそうっていう 目星はつけてるんだけど、一緒に見繕ってほしくて |
まふゆ | ……絵名は、いつもどうしてるの |
絵名 | 母親の誕生日プレゼント? 別に用意したことないし、考えたこともないかも |
まふゆ | そう……。 もしかして、それが普通なの? |
絵名 | さあね。あ……瑞希はもしかしたらちゃんと祝ってるかも。 今度聞いてみたら? |
まふゆ | ……そうだね。そうしてみようかな |
絵名 | あれ、まふゆ?まふゆも買い物中? |
まふゆ | うん、お母さんと。絵名は? |
絵名 | 私も買い物中。 でも、荷物持ちに連れてきた弟がどこか行っちゃって |
まふゆ | ふふ、家族と仲いいんだね |
絵名 | え……そっちも親と買い物、来てるって…… |
絵名 | (……へたにつつくと怖いし、やめとこ) |
絵名 | そういえば、まふゆの親って 私達と会ってること知ってるの? |
まふゆ | ううん。そもそもサークルに入ってることも知らないから |
まふゆ | それに、休みの日に出かけるのは 図書館に勉強しに行くためだって思ってるみたい |
絵名 | うわ。じゃあ余計に、ネットで知り合った子と リアルでも会ってるなんて知られたらヤバそう |
瑞希 | まー、親ならみんな心配するんじゃないの? |
瑞希 | ちなみに、ボクの親はサークルのこと知ってるよ。 絵名のところは? |
絵名 | 言うわけないでしょ。言う必要もないし |
絵名 | でも、うちの親は知ったところで 何も言ってこないと思うけど |
まふゆ | そう……。親も、いろいろなんだね |
絵名 | 瑞希、なんかいいコンシーラー知らない? |
瑞希 | なんかいいって……適当だなぁ。 もうちょっと要望言ってくれないと候補出せないよ? |
絵名 | 目の下のクマとかを隠せて、 乾燥も防いで、テクスチャー緩めで、 あと仕上がりも明るく軽めで…… |
瑞希 | ちょっとストップストップ! 要望多いよ! |
絵名 | 言えって言ったのはそっちでしょ ほら、早く出してよ候補 |
瑞希 | まったくもう……。 じゃあ要望にお応えして、 思い当たるヤツぜーんぶ試させるから、覚悟しておいてね! |
瑞希 | へー! ここの雑貨屋さん、いいセンスしてるじゃん |
瑞希 | あっ、いいねこのリボンとワッペン! 洋服のアレンジとかにも使えそう! |
瑞希 | ふふっ、ボクこのお店の常連になっちゃいそうだよ♪ |
瑞希 | うーん、この服は襟元がすごくカワイイんだけど、 全体のデザインがいまいち…… |
瑞希 | こっちの服はデザインはいいけど、 使ってる生地の柄がいまいち…… |
瑞希 | はぁ、なかなか理想のカワイイ服に出会えないな。 ま、今回も自分でアレンジしちゃおっと |
瑞希 | あっ、このワンピースかわいい~。 レースもギャザーの入り方も、ボクの好み! |
えむ | わ~! このお洋服かわいい~! |
瑞希 | ん? |
えむ | スカートがもふーってしてるから くるっとしたら、もふもふがポポンってしそう~! |
瑞希 | なにあの服! おもしろくてかわいい! それに……あれに目をつけるなんて、 あの子もなんだかおもしろそう! |
瑞希 | ねえねえ、そこのキミ~ |
えむ | ほえ? |
瑞希 | おやおや? そこにいるのは神代くんかな~? |
類 | そういうきみは瑞希くんじゃないか。 買い物かい? |
瑞希 | うん! そっちは? |
類 | フフフ…… |
瑞希 | あ。また何かやらかすつもりー? 見物していってもいい? |
類 | やらかす、というのは心外だなぁ。 でも、観客ということであれば歓迎だよ |
瑞希 | 奏、今日は買い物につきあってくれてありがとっ♪ |
奏 | はぁ……偶然会っただけで 荷物持ちさせられるとは思わなかった…… |
瑞希 | アハハ、ごめんごめん。 ちょっと好きなお店がタイムセールしてて…… |
瑞希 | お礼にプレゼント! さっき買ったバレッタだよ。 パチンってとめるだけだからとっても簡単なんだ |
奏 | いらない。面倒くさいし |
瑞希 | ええー! とめるだけだよ? 巻いたり編みこんだりしなくていいんだよ!? |
瑞希 | はーい、それでは今日は 奏とまふゆの服を買いに行こーう♪ |
奏 | 別にいらないけど |
瑞希 | いるよ!今日もまたそんなジャージでさあ。 ちゃーんと季節に合った服着ないと! |
まふゆ | 奏はともかく、私は お母さんが買ってきてくれるものを着るから |
瑞希 | 本当に気に入ってる服ならそれでもいいけど、 それこそ自分の意思を発揮しなくちゃ! |
瑞希 | よし!ますます気合入ったよ! |
瑞希 | 奏、まふゆ、今日は絶対、 ふたりが気に入る服を見つけてあげるからね! |
瑞希 | うーん。この服もいいし、あ、こっちもいいなぁ! |
まふゆ | 瑞希、もう服たくさん持ってるのに まだそんなに買うの? |
瑞希 | もっちろん! 服は服でも、同じ服はひとつもないしね |
奏 | ……わたし、CDとかデータとかで それなりに曲をたくさん持ってるけど、 『もうこれ以上いらない』ってならない |
奏 | それと、似てるのかな |
まふゆ | それなら、私でもわかる気がする |
瑞希 | ちょっとふたりとも。せっかく外に出てきてるんだし、 もうちょっと買い物を楽しもうよ♪ |
絵名・瑞希 | 『あ!』 |
瑞希 | もしやその袋、今日新しくオープンしたショップの!? |
絵名 | そっちの袋は、NY発の限定ショップの……!! |
瑞希 | フフ、絵名。見たいなら……わかってるよね? |
絵名 | そっちこそ、 見たいなら先に見せてよね? |
絵名・瑞希 | 『ぐぐぐ……!』 |
一歌 | 咲希、遅かったね。どうしたの? |
咲希 | うーん、髪型が上手く決まらなくて……。 ほら、ここの毛先がもう全然いうこと聞いてくれなくって |
穂波 | ……よかったら、 お父さんが仕事で使ってるスタイリング剤、あげようか? |
一歌 | あ、そういえば穂波のお父さん、美容師だっけ |
咲希 | ということは、美容師さん御用達のスタイリング剤! ほしいっ!けど、いいの? |
穂波 | うん。新しいのが出て 余って使わなくなったものとかあるみたいだし。 今度持って来るね |
一歌 | あ、路上ライブしてる |
志歩 | ……上手いね。演奏もだけど、 上手くお客さんを巻き込んで、一緒に楽しんでるっていうか |
一歌 | うん、すごいね。私、もしライブでMCしても あんな風に上手く盛り上げる自信ないな |
志歩 | 得意な人が担当するっていう手もあるよ。 うちには咲希とか穂波もいるし。適材適所ってやつ。 けど、一番大事なのは演奏の腕でしょ |
一歌 | だよね。練習、頑張るよ |
一歌 | あ、ベース弾いてる人がいる。 あの弾き方……スラップ、だっけ? |
志歩 | うん。……あんなに早いのにリズムもブレてない。 かなりの腕だよ |
一歌 | 志歩から見てもそうなら、きっと相当すごいんだね |
一歌 | いいな、自分の思うとおりに楽器を操ってるっていうか……。 私ももっと勉強しないと |
志歩 | あとはイメージすることも大事だよ。 出したい音がちゃんと自分でわかってないと、 ああいういい音は出ないと思う |
一歌 | なんだろう、あの人だかり…… |
司 | ハーッハッハッハッハ!! ……なんだ、また記念撮影か? いいだろういいだろうっ! |
一歌 | この高笑いは…… |
司 | ん? おお、我が妹の友人じゃないか! 一緒に記念撮影するか? |
一歌 | い、いえ、間に合ってます…… |
一歌 | (やっぱり司さんだった。 ……なんであんなに外国の人に囲まれてたんだろう?) |
咲希 | ほなちゃんのバイト、珍しいよね。 えっと、家事代行サービス、だっけ |
穂波 | うん。掃除も料理も、家事するの好きだから。 楽しくやらせてもらってるよ |
咲希 | すごいなぁ。じゃあ、あっちこっち いろいろなお家に行ったりもしてるの? |
穂波 | ううん。勉強とかバンド活動もちゃんとやりたいから、 とりあえず今は1件だけ担当してるの |
咲希 | へぇ。でも、いいなぁ。ほなちゃんにお世話してもらえる人。 ほなちゃん、アタシもお世話されたーい! |
穂波 | わっ! もう、咲希ちゃんてば。 ほら、信号青になるよ。渡らなくっちゃ |
志歩 | 交差点を渡ったら左に行こう。 そのほうがショートカットできるから |
一歌 | へぇ、そうなんだ。 志歩、このあたりの道詳しいね |
志歩 | まあ、バイト先近いし。それに…… |
志歩 | 道に迷ったお姉ちゃんを探すのに 歩き回ったこともあるし…… |
穂波 | あ……雫先輩、かなり方向音痴だったもんね |
志歩 | だった、じゃなくて現在進行形 |
志歩 | まったく……散歩が好きなクセに 道を覚えないってどういうことなの? |
志歩 | 咲希が私だけ誘うなんて珍しいね。……どうしたの? |
咲希 | えへへ、いつもアタシのことを心配してくれるお母さんに、 プレゼントを用意したくて |
志歩 | ……それ、人選、間違えてない? |
志歩 | 私、そういうの疎いよ? |
咲希 | そう?でも、アタシがしほちゃんだって思ったんだから、 しほちゃんでいーの♪ |
志歩 | まあ、咲希がいいなら協力はするけど……。 あとで文句言わないでよ? |
志歩 | この間、CD出してるミュージシャンが この近くの通りでゲリラライブしてたらしいよ |
咲希 | あ、それって!ビビッド何とかっていう通り? それ、アタシもクラスで聞いたよ |
穂波 | そうなんだ。何かの告知をした、とか? |
志歩 | 元々、路上ライブ出身らしいから、 原点に帰ってみたくなったのかもね |
咲希 | 原点に帰る、か。 そうだね、自分達の活動が始まった場所って、 思い入れもあるだろうし |
穂波 | わたし達にとっては、あのセカイがそうだね |
咲希 | そうだね。いつまでも、大事にしたいよね |
みのり | ……右よし! 左よし! |
遥 | みのり、何してるの? |
愛莉 | 信号、とっくに青になってるわよ? |
みのり | これは車じゃなくて、まわりの警戒だよ |
みのり | も、もし遥ちゃんと愛莉ちゃんだってバレちゃっても パニックになる前に、わたしがふたりを 安全なところに避難させてあげるからね! |
遥 | でも最初にパニックになりそうなのは…… |
愛莉 | どう考えても、みのりよね? |
遥 | 愛莉は、普段、変装ってどうしてる? |
愛莉 | んー、やっぱりサングラスと帽子、あとはマスクね。 この3つがあればなんとかなるわ。遥は? |
遥 | 私はメガネをするくらいかな。 堂々としていたほうがバレないと思うから |
愛莉 | えっ! それでよくバレないわね |
遥 | ううん、時々バレる。でもあれこれ変装して バレた時の方がなんだか恥ずかしいから…… |
愛莉 | それを言われると……。がっつり変装してる自分が 恥ずかしくなってくるじゃないの! |
遥 | ……これだけの人がいるところに来ると、まだ少し緊張する |
杏 | ちょっとあって遊ぼうとすると、 すぐ桐谷遥だってバレて、慌てて逃げたりしてたよねー。 遥ってば、芸能人オーラ隠さないからさ |
遥 | オーラって……。 出してるつもりもないものを、隠せるわけないでしょ? |
杏 | アハハ。自覚ないのも仕方ないか。 小学校時代からずーっと、存在自体がハデだもんね |
遥 | 自分だって、学校行事ではいちいち目立ってたじゃない。 人のこと、あんまり言えないからね? |
愛莉 | あ……みのり、遥、ちょっとそこに立って。 んー、もうちょい前……あっ、そこ! |
遥 | 愛莉?今、何を撮ったの? |
愛莉 | ふふ。これよ! |
みのり | あ……大型ビジョンの花畑が 写真の背景みたいになってる! |
愛莉 | こういうSNS映えする撮り方に詳しい子が友達にいてね。 ちょっと試してみたかったのよ |
みのり | そうなんだ!わたしもやってみたい! |
遥 | じゃあ、私ここに立っておくね |
みのり | えっ!は、遥ちゃんをわたしが撮るの!? えへへ、絶対きれいに撮るぞー |
愛莉 | みのり、にやけてないで早く撮りなさい。 じゃないとCM終わるわよ? |
愛莉 | あっ、見てあそこ……! ネコが毛づくろいしてる! はぁ……かわいいわね |
遥 | そうね。……ペンギンにも、 こんな風に街の中で会えたらいいのに |
愛莉 | 気持ちはわかるけど、さすがに事件よね、それ |
遥 | ふふ。だよね |
こはね | ふんふん♪ ふふんふ~ん♪ ふふ。ここのフレーズ、だいぶうまく歌えるようになったかも |
こはね | WEEKEND GARAGEに行ったら、 杏ちゃんに聴いてもらおうっと |
こはね | あっ。あそこで歌ってる人達がやってるのって…… |
彰人 | ああ。ヒューマンビートボックスだな |
杏 | 最近、あの人たちよく見かけるよね。 というか、彰人より上手いんじゃない? |
彰人 | は? |
杏 | そうだ。こはねは見たことないんじゃない? 腕前、見せてもらったら? |
こはね | え、えっと。見てみたいけど…… |
彰人 | ふん。そんな安い挑発に乗ると思ってんのか? いいから、ライブハウス行くぞ |
杏 | なーんだ。つまんないの |
こはね | ほ、本当にここでやるの? こんなにたくさん人がいるのに…… |
杏 | それがいいんだよ! それに……ん、ああ、やっほー! |
こはね | え……まだ歌ってないのに、人が集まって……! |
彰人 | ……ん。よう、お前らか |
こはね | わっ……あっちからも……!? |
冬弥 | 白石も彰人も顔が広いからな。 歌おうとすると、ああやってすぐ人が集まってくる |
彰人 | ――ああ、今日はこの4人で歌う。 せっかくだし、ちょっと聴いていけよ |
杏 | じゃあ、そろそろ始めよっか。 こはね、準備オッケー? |
こはね | えっ、えっと…… |
冬弥 | いつも通りにやれば問題ない |
彰人 | ま、お前が失敗したところで オレ達で帳消しにできるけどな |
杏 | は? こはねは失敗なんてしませんー |
彰人 | ……って、お前の相棒は言ってるぞ。 やれんのか? 中途半端なマネは許さねえぞ |
こはね | ……! |
こはね | すーはー……。 うん、大丈夫! いつでも行けるよ |
杏 | オッケー! それじゃあ、行くよ! |
こはね | あの……東雲くん達は、ビビッドストリートみたいな場所で 歌う時とか、緊張したりしないの? |
彰人 | 別に。ライブハウスとは違う空気感とか 掛け合いがあって楽しいからな。気にしたことねぇよ |
こはね | そ、そうなんだ…… |
彰人 | まっ、お前とオレ達とじゃ踏んでる場数も違うからな。 まずは何より、経験をつんでもらわねえとな |
こはね | う、うん……! |
こはね | 杏ちゃんも東雲くんも青柳くんも同じ神山高校なんだよね。 学校ではどういう感じなの? |
彰人 | どうって……普通だよ |
杏 | そうだね。彰人と冬弥は絶対セット。 単品でいることはまずないかな |
彰人 | おい、人をファミレスのメニューみたいに言うな |
杏 | 実際そうなんだから、いいでしょ別に |
こはね | え、えっと、杏ちゃんはどんなふうに過ごしてるの? |
杏 | クラスの子といることが多いかなぁ。 まあ、一番気の合う子はすごい気まぐれで 学校来たり来なかったりするんだけどね |
杏 | ねえ、こはねが学校でどう過ごしてるかも教えてよ! |
こはね | あ、東雲くん、青柳くん。 今日もライブハウスに歌いに行くの? |
冬弥 | いや、今日は練習だ |
こはね | そうなんだ。そういえば、 ふたりとも練習ってどこでしてるの? |
彰人 | 普段はストリートやそこらの公園でやることが多いな。 イベント前はスタジオ借りてやることもある |
冬弥 | 小豆沢達は、普段どうしてるんだ? |
こはね | えっと、杏ちゃんがお父さんに オープン前のWEEKEND GARAGEのスペースを 借りてくれてるからそこで…… |
彰人 | 謙さんの店で練習してんのか!? 杏のヤツ、娘だからって贅沢な使い方しやがって……! |
冬弥 | ……うらやましそうだな |
こはね | イベントとか練習の予定がない日って、 ふたりはどうしてるの? |
彰人 | どうって、オレはバイト |
冬弥 | 俺は学校の図書室にいたり、 あとは…… |
彰人 | あれだろ。ゲーセン |
こはね | えっ! 青柳くん、ゲームセンター行くの? |
冬弥 | ああ。無秩序に音が鳴っていて、 それが逆に落ち着く |
こはね | そうなんだ。ふふ、なんだか意外だなぁ |
こはね | 青柳くん!よかったぁ、これだけ人がいても、 青柳くんの身長なら目立つし、すぐわかるね |
こはね | 私や杏ちゃんはすぐ埋もれて、 お互い探すのすごく大変だけど…… |
冬弥 | ……埋もれている人を探す…… 子供のころ読んだ、人探しの絵本を思い出すな |
こはね | それ、ページの中に描かれてるたくさんの人の中から、 お話の主人公を探すあの絵本? |
冬弥 | ああ。一学年上の先輩に昔よく誘われてやっていた |
こはね | ふふ。あれ楽しいよね。私もお父さんとやったなぁ |
こはね | 青柳くん達は、よくライブハウスで歌ってるよね |
冬弥 | ああ。彰人の知り合いによく呼ばれる |
こはね | ふふ。BAD DOGSのファンの人、多いもんね |
冬弥 | だが、ビビッドストリートが一番、気楽に歌える。 ここでも歌ったことがあるが、 人が集まりすぎて長く歌えない |
こはね | こ、ここで!?す、すごい……私は、とてもじゃないけど ここで歌おうとは思えないよ…… |
こはね | あっ。あのディスプレイに映ってるCM、音楽フェスのだよね |
冬弥 | ああ。フェスの中でも有名どころだな |
彰人 | お前、ああいうの行ったことないだろ。 あそこまで大規模なのじゃなくていいから、 ちゃんとしたとこ、一回くらい行っておけよ |
こはね | うん! 実は杏ちゃんとも少し話してるの |
こはね | 歌う側じゃなくて、お客さん側として 一度イベントを経験してみたいねって |
冬弥 | どれに行くか迷ったら彰人に聞くといい。 俺もいろいろ聞いた |
こはね | え、いいの? |
彰人 | それくらい構わねえけど、早めに言えよ。 人気のフェスはすぐチケットなくなるからな |
こはね | うん。ありがとう、東雲くん! |
杏 | あそこだけなんかすごい人だなー……あ |
杏 | そっか。みんなあのミュージシャンの歌を聴いてたんだ |
杏 | ん? もしかして飛び入りオッケー? じゃあ、ちょっと交ざってみようかな |
杏 | あ、いたいた。こはね、お待たせ |
こはね | ふふんふんふん~~♪ |
杏 | ふふ、ノリノリな曲でも聴いてるのかな。 こはねー! お待たせー! |
こはね | わっ、あ、杏ちゃん! ご、ごめんなさい。つい夢中になっちゃって |
杏 | 私の方こそ、待たせちゃってごめんね。 ところでさ、今、何を聴いてたの? |
こはね | あ……えっと、ミクちゃんの新曲。 よ、よかったら、杏ちゃんも聴いてみる? |
杏 | いいの? じゃあ一緒に聴こっか。 イヤホン、片方借りるね! |
杏 | あ……これ……! こはね、交差点の向こうにいるミュージシャン! 今、うちの父さん達の曲を歌ってるよ! |
こはね | え……! ……あ、ちょっとだけ歌が聞こえる。 でも、お父さん達の曲ってよくわかったね |
杏 | あはは。もう何十回、何百回って聞いてるから。 ちょっと聞こえただけだけど、すぐにわかったよ |
こはね | ふふ。杏ちゃん、お父さんのこと大好きだもんね |
杏 | ちょ、ちょっとー、父さんっていうか、 父さん達の音楽が好きなんだってばー |
彰人 | ……ん?この歌…… |
彰人 | ああ、やっぱあの隣町の連中か。 ここしばらく顔出してなかったが…… |
彰人 | バイトまで時間あるしな。 ちょっと顔見に行ってやるか |
彰人 | お前……ぷるぷるしてねぇで胸張って歩けよ |
こはね | そ、そうしたいけど人が多いし、 ぶつかっちゃいそうで…… |
彰人 | はぁ……うちの学校に、無駄にカッコイイポーズ挟みながら ガンガン注目を浴びながら歩いてくバカがいるんだが……。 その100分の1でいいから、自信持てよな |
こはね | そ、そんな人がいるんだ……! じゃあその人に、 自信が持てるようなコツとか教えてもらおうかな |
彰人 | それは……あれを例に出したオレが悪かった。 だからやめろ。絶対やめろ |
彰人 | なあ、お前ら、次に歌うイベントもう決めたか? |
杏 | まだ考え中だけど……なんで? |
彰人 | 知り合いがやってるライブハウスでイベントやるから 出演者を探してんだが…… |
冬弥 | あいにく、俺達はその日、 別のイベントに出る予定が入ってる |
杏 | ああ、そういうこと。 いいよ、私達が出ても。こはねにも聞いておく |
冬弥 | そうか。 よかったな、彰人。白石達なら、安心して紹介できる |
彰人 | まあな。 じゃあ、話はこっちから通しておく。ヘマすんなよ |
杏 | 任せといて! こはねと一緒にばっちり盛り上げてきてあげる! |
彰人 | なあ、駅前にできた高層ビル、知ってるよな。 そこのオープン記念とかで、ここらのミュージシャン集めて ちょっとしたイベントやるらしいんだけどさ…… |
冬弥 | 誘われてるのか? |
彰人 | ああ。けど、場所がなあ……展望デッキらしいんだよ。 地上……何百メートルって言ってたっけな…… |
冬弥 | ……。 ムリだ……まともに歌える気がしない |
彰人 | お前、歩道橋の高さでもアウトだもんな。 まっ、しょうがねえ。今回はパスだな |
冬弥 | ふたりは、次に歌うイベント決めているのか? |
こはね | イベントは決めてないけど、 今度、ここで歌うことになるかもしれないの |
冬弥 | ここって……ここ、か? なかなか競争率高そうだが、場所とれるのか? |
杏 | ふふ。うちの店にもよく来る 顔なじみのミュージシャンの人達が よくここで歌ってるんだけど…… |
杏 | その人達が休憩とるタイミングで、 ちょこっとだけ間借りさせてもらおうと思ってるの |
冬弥 | なるほど。顔が広いお前ならではだな |
杏 | まあ、ほとんど父さんのおかげみたいなもんだけどね |
杏 | けど、使えるものは使わなくっちゃね! |
冬弥 | 小豆沢も、だいぶライブになれてきたな。 緊張もしなくなってきたんじゃないか? |
こはね | うん、一度行ったことのあるところなら、 もう平気かも |
彰人 | ふーん。じゃあ、ちょっとここで歌ってみろよ |
こはね | へっ!? |
彰人 | ここ、何度も来てるだろ? ということは、緊張せず歌えるよな? |
こはね | そ、それはそうだけど……! えっと……えっと……! |
冬弥 | 安心しろ、ただの冗談だ。 ……彰人、あまり小豆沢をからかうな |
彰人 | はいはい |
冬弥 | 先輩、ご家族のみなさんは元気ですか? |
司 | もちろんだ。咲希も無事に学校に通えるようになったしな |
司 | そっちはどうなんだ。多少は進展あったのか? |
冬弥 | ……相変わらず、です |
司 | そうか。まあいつでもオレを頼るがいい! なにせオレは、先輩、だからな! |
冬弥 | はい。ありがとうございます |
司 | ほう。さすが世界最大級の交差点。 あっちでもこっちでも外国からの観光客が しきりに撮影して……ん? |
司 | なんだ? カメラをオレに差し出して…… ああ、そうかそうか! 一緒に写って欲しいんだな! |
司 | オーケー、オーケー! 日本での最高の思い出になるよう、 とっておきのかっこいいポーズで写ってやるぞ! |
司 | 今日も素晴らしいミュージカルを見て 優雅な休日を過ごしてしまったな! |
司 | ん? そこに居るのは、寧々じゃないか。 もしや、お前もミュージカル観劇か? |
寧々 | げ…… |
司 | げっ、とはなんだ! それがリーダーに対する挨拶か? |
寧々 | げっ、って思ったから、げって言っただけだし |
司 | だからってそういう言い方は……! |
類 | さあ、スクランブル交差点でのショーだ! 赤になるまでの40秒間、素敵なショーを見せようじゃないか! |
類 | おや? そこにいるのは司くんと寧々じゃないか。 特別ゲストの登場だねえ。さあさあ! |
司・寧々 | げっ…… |
えむ | ここを歩いてる人たちを、 みんなステージに呼べたら、満員おのれーだよね! |
司 | それを言うなら、満員御礼だろうが |
司 | 考えは悪くないが、どうやって呼ぶつもりだ? ビラ配り……いや、パフォーマンスで目を引いて宣伝か? |
えむ | ふっふっふっ。トンネルを掘って、 ステージに誘導しちゃえばいいんだよ! |
司 | なるほど。トンネルをくぐると、そこはステージでした…… |
司 | ……って、できるわけないだろ! |
えむ | ……あっ! ねえねえ、 あたし達も宣伝用のCMを撮ろうよ! |
寧々 | は? 急に何を言いだすわけ? |
類 | ふむ、あそこでロケハンしている人たちを見て、 自分達も、とひらめいたんじゃないかな |
寧々 | 本当だ。何か撮ってる。 CMじゃなさそうだけど |
えむ | そうだ! 着ぐるみさん達いっぱい呼んで みんなでのっしのっしパレードするのはどうかな? |
類 | パレードか。 それならフロートの1台や2台は欲しいところだねえ |
寧々 | ……なんであんたまでノリノリなの? |
類 | それはもちろん。 たくさんの人達の驚く顔や笑顔が見たいからだよ |
えむ | ここの交差点、ドラマとか映画によく出てくるよねー |
寧々 | ……まあ、そうだね。 ゲームでもこのあたりが舞台のやつ、たくさんあるし |
えむ | そうなんだ! じゃあ、ここが舞台のショーもあるのかな? |
寧々 | ショーでは……見たことないかも |
類 | フフフ、なら、僕達でやってみるかい? |
えむ | あたしもこういうところでパフォーマンスやってみたいなぁ。 ねえねえ、どういうことに気をつけたらいいの? |
類 | そうだねえ。準備の段階から魅せる、 ということを意識しているよ |
類 | パフォーマンスの途中で足を止めてもらおうとしても 『途中から見ても』と足を止めてもらえないからね |
えむ | そっか。うん、わかる気がする。 準備もお祭りって、言うもんね! |
寧々 | ……本当にここでビラ配りするの? 人多すぎなんだけど…… |
司 | 人がいないところで配っても仕方ないだろうが |
寧々 | はぁ……で、類とえむは? |
司 | 知らん。ふたりして来てすぐ何やら道具をもってどこかに……。 ん? あっちが騒がしいな……まさか、あいつらか!? |
寧々 | そのまさかじゃない? ……やっぱり、巻き込まれないうちに帰ろうかな |
寧々 | はあ、まさかあそこの本屋にもないなんて…… |
司 | 探してるのは、世界的有名なミュージカルが 初演を迎えるまでの舞台裏が読める本、だったか? |
寧々 | そう。ネットで探しても英語版しかなくて……。 ちょっと古めの本だけど、日本語訳もあるはずなのに |
類 | それなら、国会図書館に行けばいい |
寧々 | こ……国会図書館!? |
類 | 国内で出版されたすべての出版物が保存されているからね。 寧々が探している本もあるはずだよ |
司 | おお、なんだかすごそうだな! おい、寧々。行くなら付き合ってやってもいいぞ! |
寧々 | はいはい。自分が行きたいだけの人は黙ってて |
寧々 | はぁ……どうしても見つからなかったら、 ちょっと行ってみようかな |
類 | いい天気だ。ドローンに影響する風も今日はほとんどない。 まさに絶好の路上パフォーマンス日和 |
類 | フフ、考えていた新しい演出も試せそうだしねぇ。 早速、準備に取り掛かろう |
類 | フフフ…… |
彰人 | なんだあいつ。ロボットとかドローンとか出して何を……。 つーか、どっかで見たことあるような…… |
類 | おや、キミは…… |
彰人 | げっ、あんた2年の……! |
彰人 | (巻き込まれる前に逃げねえと! 司センパイみたいな扱いはごめんだからな) |
類 | ああ、困ったな。ゲリラパフォーマンスをするにしても、 なかなかいい場所が取れないんだよ…… |
司 | ほう……。 類、オレをパフォーマンスの主役にするのであれば その場所取り、手伝ってやってもいいぞ! |
類 | 本当かい? それはありがたい。 じゃあ、この地図の場所をとっておいてくれるかい? 朝の5時くらいからでいいから |
司 | はははっ、任せ……ん、朝の、5時!? |
類 | じゃあ、頼んだよ。司くん、フフフ…… |
類 | えむくん、これまでで一番 面白いと思った作品はなんだい? |
えむ | う~ん。あ、『軟体戦士ぐにゃりーご』かな! |
えむ | ぐにゃりーごはね、すっごく身体が柔らかくて! 肩こりとか、上司との関係とか、いろいろなものをほぐして 敵を改心させていっちゃうの! |
えむ | あと最後にね、ぐにゃりーご体操っていうのがあって、 それをやってたら跳んだり回ったりいろいろなことが 出来るようになったんだよ! |
類 | フフ、そんな面白そうな作品があったなんてね。 ありがとう、えむくん。参考にさせてもらうよ |
類 | え……ネネロボに新しい機能が欲しい? |
寧々 | うん。こんな人混みでも軽々通り抜けられるような機能 |
類 | ふむ……これ以上、機動力を向上させるのは なかなか難しいところがあるが…… |
類 | そうだ! 逆に、ロボから人を遠ざける、 という観点からのアプローチがいいかもしれないねぇ! |
寧々 | ……や、やっぱり、いい。 なんか、悪い予感しかしないし…… |
奏 | お見舞い……行けて良かったけど、話せなかったな |
奏 | お父さん…… |
奏 | ……今度病院に行く時は、何か話せたらいいな |
奏 | あ……信号変わりそう |
奏 | ……走っても絶対間に合わないな |
奏 | ちょっと戻るけど日も当たらないし、地下道から行こう |
奏 | はぁ……ちょっと気になる映画があったから、 外に出てきたけど…… |
奏 | 人は多いし、うるさい……前にも、進めない…… |
奏 | …………。動画配信が始まるまで待とうかな…… |
奏 | ……………… |
絵名 | あ、奏! |
瑞希 | やっほー。奏も集合場所のファミレスいくところ? |
奏 | ううん、太陽がまぶしいから、 やっぱり帰ろうかなって思ってたところ |
絵名 | あー、今日すごくいい天気だもんね |
瑞希 | でも帰っちゃうのはダーメ♪ まふゆも向かってると思うしね。 はい、青だよ~。歩いて歩いてー |
まふゆ | え……奏? どうしたの? 外出なんて珍しいね |
奏 | ……外で知り合いに会うと、 全員にそう言われてる気がする |
まふゆ | それは、奏が全然外に出ないからだよ |
奏 | だって、外に出ても疲れるし、太陽眩しいし…… |
奏 | はぁ、マウスの調子が悪くなければ、 こんな面倒なことしなくて済んだのに…… |
まふゆ | とりあえず、一番近い家電量販店に案内するけど……。 奏が欲しいのは、空気清浄機だっけ? |
奏 | うん。最近、部屋の空気がなんだか埃っぽい気がして。 掃除はしてるんだけどね |
まふゆ | ……あ、そういえば、換気はしてる? 窓をすこし開けるだけでも、だいぶ変わると思うよ |
奏 | 窓……。……やっぱり、空気清浄機を買うしかない |
まふゆ | そんなに窓、開けたくないんだ…… |
絵名 | あーあ、学校面倒くさい |
絵名 | 私も通信制にすればよかったかなぁ 通信制ならいつ起きてもいいっぽいし |
絵名 | あ、でも、学校帰りに寄り道できなく |